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町田樹のスポーツアカデミア【Reportage:アリーナの今を訪ねて】 ~さいたまスーパーアリーナ~ ニーズに合わせた変幻自在の内部機構:ムービングブロック
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部日建設計に伺った町田樹
「ルポルタージュ」「アーカイブ」「ダイアログ」をテーマに、スポーツをする・見る・支える人々にお届けするスポーツ教養番組「スポーツアカデミア」シーズン2。
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町田樹のスポーツアカデミア【Reportage:アリーナの今を訪ねて】 ~さいたまスーパーアリーナ~
Part.1 国内随一のアリーナ 建設の経緯
今回は《さいたまスーパーアリーナ》をご紹介しております。現在スポーツ庁は、スタジアム・アリーナ改革のガイドラインや指針を打ち出していますが、この中でスポーツ庁はこれからの日本のアリーナやスタジアムは「多機能複合型」「民間活力の導入」「街中立地」「収益性の改善」この4つを抑えるべきだと提唱されています。実は、このさいたまスーパーアリーナはこの4つのポイントを全て抑えています。
今回は、前回に続き、ニーズに合わせた変幻自在の内部機構を見ていきましょう。
ニーズに合わせた変幻自在の内部機構
2.ニーズに合わせた変幻自在の内部機構:ムービングブロック
ナビゲーター:代表取締役 会長 亀井忠夫さん | ダイレクター アーキテクト 小松康之さん(以後敬称略)
日建設計
町田が訪れたのは日建設計。日本を代表する建築物を設計し、スポーツ施設では東京ドームや鹿島スタジアム、現在はFCバルセロナの本拠地カンプ・ノウを手がけております。さいたまスーパーアリーナもその一つです。
町田:さいたまスーパーアリーナの舞台に私も複数回立ってきましたが、本当に素晴らしいアリーナだなという一言に尽きるのですが、そもそもどのような経緯でさいたまスーパーアリーナを日建設計さんが設計したのでしょうか。
亀井:施工者と設計者が合わさったチームで出すコンクールがありまして、そこで私共のチームがめでたく選定していただいたというところで、この仕事をすることになりました。
町田:その時は亀井さんと小松さんはどのようなお立場だったのでしょうか?
亀井:私が当時で言うと設計の室長ですかね。
小松:私が20代後半から30代中盤まで担当者でした。
町田:私はこのさいたまスーパーアリーナを取材するにあたって、国内外のあらゆるアリーナを調べてみましたが、ムービングブロックを採用しているスタジアム・アリーナは見られなくて、さいたまスーパーアリーナ唯一なんじゃないかというシステムだと思います。なぜそのムービングブロックを採用したのか、そもそもなぜ発案に至ったのかをお聞きしたいのですが。
亀井:先ほどの設計コンクールの設計与条件、こういうものを設計してくださいという条件が出てくるのですが、そこで、5000人のホールと20000人のアリーナ、それから37000人収容するスタジアム。大きくはその3つのどれに対しても対応できる空間を作ってくださいという与件がありました。そういう5000人から最大37000人という空間を作るとすると、普通の考え方ですと、37000人の空間を作って、そこを稼働間仕切りなどで分割していくアイデアが出てくるわけです。ただ、そうすると37000人の大きい時は良いかもしれませんが、5000人とか20000人規模ですと、最適な空間ができない。それで色々な案を検討しまして、その中でムービングブロックというアイデアが出てきました。
卵の殻を2つに割って、その半分の殻が移動するようなアイデアを思いつきました。卵の半分の殻の中には客席ですとか、客席の裏側にコンコースやお手洗い、お店もあります。そして天井も一体になっている。そういう物がぐーっと動くわけです。そうすると20000人の時も最適な空間だし、37000人になってもきちんとした空間ができる。
ムービングブロック
さいたまスーパーアリーナにある2つのアリーナ。その一つ、コミュニティーアリーナを潰す形でメインアリーナを最大限まで大きくするという。それがムービングブロックシステム。わずか20分で70m移動させ、空いたスペースには壁から観客席を自動で出して収容人数を増やします。これにより37000人収容のスタジアムに変貌。世界でも類を見ない独自のアイデアがさいたまスーパーアリーナには隠されていました。
町田:それまで前例がなかったわけですよね。世界を見ても前例がないという中で、発案はしたけど、どうクリエイトしていくのかというとこはかなり大変だったのではないでしょうか?
亀井:三菱重工さんが入られておりましたので、あそこの稼働機構とかをですね、現実的なこととして開発、あるいは過去のいろいろな技術を応用してでできたと。
小松:結構シンプルな動きが基本になっていまして、それを実現する技術はいろいろな応用です。機械の分野や航空の分野から得たものを建築に置き換えてやっています。
町田:日建設計さんはさいたまスーパーアリーナ以外にもたくさんのスタジアム・アリーナを国内外で手がけられておりますが、後にも先にもあの機構はスーパーアリーナだけです。スーパーアリーナの利用者だった者として、本当に快適で、その機構がどんどん応用されていけば、いわばスタジアムアリーナのスタンダードな設計になりそうな気がしているんですが、やはり実現は難しいのでしょうか。
亀井:さいたまスーパーアリーナという一つの大きな空間でいろいろなことができる。もっと土地があれば2つ作っちゃえば良い、3つ作れば良いみたいなことがありますが、そういう意味では日本独特な感じはしますね、さいたまスーパーアリーナは。土地の制約があって、便利なところに作る場合にあのようなアイデアが生まれました。そういったコンテクストの中だからこそ、あのような物ができたということがあると思います。だから、あれが必ずしも一つの答えということではないと思います。
こだわりの外観
多目的に使え、さまざまな収容人数に対応できる施設で、都心に近い場所。そんな多種多様な制約があったからこそできたアイデア。施設内だけではなく、外観にも拘りがあります。
亀井:動きのある形が施設の印象からして良いんじゃないかということで、屋根を斜めにして、6度傾いているんですけど、目の前にあるさいたま広場に手を伸ばしているような感じで、お客様をお迎えするようなイメージで作りました。スピード感とともにダイナミック、そしてお迎えするということ。斜めにしたことで、北風が上にのぼっていって、さいたま広場のところは風から守られるという効果もあります。ただ単に形ということではなく、実能ですね、頑強的な効果もあります。
町田:いかに街全体に溶け込むかということですよね。
亀井:設計の中で一つ考えたのは、アリーナ空間というと外に閉じたイメージのものが多いですが、さいたま新都心の中で、けやき広場という広場があって、あの当時いろいろな他の施設もできるということだったので、街に開かれたものを作ろうと考えました。それでコミュニティアリーナの方はガラス張りにしていますし、街に開かれてウェルカムな雰囲気を作ったということも一つみなさんから好かれている一つの要因かなと思っています。
町田:演者にとっても、オーディエンスにとっても愛される空間になっていると思います。
町田:驚いたことの中に、天井も昇降しますが、一番上の観客席の層を潰して、収容人数が少ない版のアリーナ空間を作るという工夫点を伺いました。それがとても面白ないと思って、当初想定していなかった使い方なんですよね?
小松:運営者に自分たちの建物を生かしていただくことは、設計者としてそのインフラを作れたことをすごく誇らしく思います。イベント施設なので、10年前と今では演出のやり方も違ってきます。それに対応するような調整だったり、相談は常に(さいたまスーパーアリーナと)やっています。
町田:ここで20周年を迎え、ここからさらに30年40年と続いていくと思いますが、私はアリーナとかの研究もしているのですが、だいたい50歳を迎えるとその存続が危ぶまれることになってくると思います。これからその時期を迎える上で、さいたまスーパーアリーナの将来として、改築なども必要になってくるのでしょうか。
亀井:今のところしっかりメンテナンスしていただいていて、非常に大きな不具合は出てきていませんし、稼働機構もきっちり動いているみたいなので、こういうメンテナンスの体制を続けていただければ、かなり半永久的に存続しうるんじゃないかと考えています。できればうまくメンテナンスしていっていただいて、変えるところは変え、残すところは残しながら使っていただければと思っています。
◆テレビ初公開 床下の謎
町田:地下1階にやってまいりました。ここは関係者とか出演者の控え室とか、私はここの通路でウォーミングアップをしたり、出番に向けて備えていたわけですが、このスロープの先に何があるんだろうとずっと気になっていました。ここから先は選手も行けなかったので。
ガンダムの世界のような無数の鉄骨たち。これらが稼働すると、先ほどまで立っていたステージが降下。また違うアリーナの形状に変化し、さらにおよそ2000席以上もの客席を作り出すことができます。
町田:ロボットのようです。みなさん見えますか、無数の足がいっぱい並んでいる状態です。
小峯:ここまで全体一括にしかも自動でというのは、当施設が最大だと思います。
町田樹
町田:普通、舞台だと一部がせり上がって出演者が登場するみたいな機構はありますが、全部が動いちゃうということですもんね。本当に男の子だったら興奮せざるを得ないシチュエーションというか、光景だと思います。
小峯:機構を見ていると本当によく考えるなと思います。運用している側としてもすごいものを運用させられているんだなと実感しますね。
町田:また印象が全然違いますね。
小峯:先ほどの状態から3m60cm下がった高さになります。この高さですと、今度オリンピックでやりますバスケットボールの床の高さになります。段差の高さが決まったら、自動で椅子が下からできてます。
町田:ここからの景色が私の目には一番馴染みます。いつもこのタイプだったので。フィギュアスケートもさいたまスーパーアリーナのマックスのキャパでできるスポーツになったということですよね。
ここまでさいたまスーパーアリーナについて徹底的に潜入調査をさせていただいたわけですけども、この天井、そして椅子、床、その全部が動く内部機構、技術的なところをたくさん見せてもらいました。一昔前ですと、箱物行政などと揶揄された時代もありましたが、今は全くそんなことはなくて、こんなに大きな機構の裏にはたくさんの技術とたくさんの人の創意工夫が詰まって、ようやくこの巨大なアリーナは稼働し、みなさんにサービスを提供することができるということを身を以て感じることができた時間でした。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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