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かつては、米国のチャンピオンといえば世界の表彰台に必ず上がっていた時代もあった。だが2010年バンクーバー五輪でエヴァン・ライサチェクが金メダリストとなって以降、米国男子は全体的に不調である。
ライサチェク、ジョニー・ウィアーの二人のトップ選手が競技から身を引いた後、その後を引き継ぐはずだったのは、ジェレミー・アボットだった。だがスケーティング、4回転と音楽表現というすべてを兼ね備えた選手ながら、本番に弱く、競技結果がなかなか安定しなかった。素晴らしい演技をしたかと思うと、転倒が続いて表彰台を逃すということを繰り返し、2011年は全米選手権で4位に終って世界選手権の代表をはずれた。
この年に米国フィギュアスケート連盟は、ライアン・ブラッドリー、リチャード・ドーンブッシュ、ロス・マイナーの3人の米国選手権メダリストを世界選手権に送った。その結果、9位、11位、13位という近年の米国男子として最低の結果に終り、10年ぶりに米国男子の世界選手権枠が2枠に減ってしまった。翌年、アボットとアダム・リッポンの二人が世界選手権に赴いたものの、やはり3枠獲得には至らなかった。
そして今年はマックス・アーロンという無名の若手が米国チャンピオンになった。彼とロス・マイナーの二人が、ロンドン世界選手権で、ソチ五輪の米国男子枠を獲得するため責任を肩に背負っている。3枠を獲得するためには、二人の順位の合計が13以内でなくてはならないが、現実的に見て厳しい状況だ。
結局今シーズン負傷などの理由から実現しなかったものの、五輪チャンピオンのエヴァン・ライサチェク、ジョニー・ウィアーらがアマチュア競技復帰を望んでいるのも、このような背景も影響している。今の若手たちがどんどん伸びて国際試合でがっちりと成績を出していたなら、彼らの出る幕はなかっただろう。だが現在の米国男子の状態ならば、米国フィギュアスケート連盟としても、過去のスター選手たちの復帰も歓迎せざるを得ないのである。
田村 明子
盛岡市出身、ノンフィクションライター。1977年留学のため単身渡米し、現在ニューヨーク在住。長い滞米生活と語学力を生かして多様な方面で執筆活動を行う。フィギュアスケートは1993年からはじめ、これまで15回の世界選手権、3度の冬季五輪を取材。選手のみならず、コーチ、ジャッジ、ISU関係者など幅広い人脈を駆使して多面的な視点から執筆。著書に「氷上の光と影」(新潮社)他。
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