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2月18日、バンクーバーのパシフィック・コロシウムで高橋大輔が表彰台の上に上がった。SPでは1位のエフゲニー・プルシェンコ、2位のエヴァン・ライサチェックとほとんど点差のない3位という好調なスタートをきった。フリーの「道」ではかねてから宣言していた通り、冒頭で4回転トウループに挑戦。激しく転倒したものの、すぐに立ち直って残りは大きなミスなく滑りきった。
フリーのエレメントスコアは全体の9番目。だが高橋を救ったのは、美しいスケーティングに支えられた豊かな音楽表現だった。ニナ・ロータのメロディでチャーミングに演技を終えると、会場内の観客たちはスタンディングオベーションで高橋を讃えた。表現力を評価される5コンポーネンツは、全選手の中でもっとも高い84.50でフリーは5位だったが、総合で3位に残った。
1位はSP、フリーともに目立ったミスのなかったエヴァン・ライサチェック。1988年カルガリー五輪のブライアン・ボイタノ以来、22年ぶりに米国男子に金メダルをもたらした。技術、表現ともに申し分のない演技だったが、4回転には一度も挑まなかった。1994年リレハンメル五輪以来16年ぶりに、4回転を跳ばない演技で男子五輪チャンピオンが誕生したことになる。ジャンプだけでいうなら、ライサチェックが演じた演技は1988年にボイタノが金メダルをとったときの内容とほとんど変わっていない。
フリーで逆転されて2位になったエフゲニー・プルシェンコは、SP、フリーともに4回転+3回転を成功させた。フリーは若干滑りに勢いがなく、ジャンプの着氷でバランスを崩しかけたところが何度かあったものの、転倒もなく演技を終えた。滑り終わったとき本人は、五輪2連覇を果たしたことを疑わなかっただろう。
2008年に世界選手権で10年ぶりの4回転なしの男子チャンピオンが誕生したときは、4回転の評価が低すぎるという議論が巻き起きた。この五輪でも再び、ジャッジたちは4回転ジャンプは、勝敗の鍵を握らないというはっきりしたメッセージを送ったことになる。このことは将来のフィギュアスケートの方向性に大きな影響を与えそうだ。
田村 明子
盛岡市出身、ノンフィクションライター。1977年留学のため単身渡米し、現在ニューヨーク在住。長い滞米生活と語学力を生かして多様な方面で執筆活動を行う。フィギュアスケートは1993年からはじめ、これまで15回の世界選手権、3度の冬季五輪を取材。選手のみならず、コーチ、ジャッジ、ISU関係者など幅広い人脈を駆使して多面的な視点から執筆。著書に「氷上の光と影」(新潮社)他。
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