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チャールズ・ピウタウ(静岡ブルーレヴズ)
言葉が負ける。チャールズ・ピウタウを凝視するたびに思う。静岡ブルーレヴズの万能バックスである。12月21日の東芝ブレイブルーパス東京戦では背番号12の位置で攻守にラインを引き締めた。
ものすごく強い。おそろしく速い。それらは案外、解説者や記者の形容を置き去りにしない。しかし、元オールブラックス、34歳のピウタウのタイミングやスピードの「正体」をつかむのは難儀である。
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【先行】ジャパンラグビー リーグワン2025-26 D1 第3節-4 静岡ブルーレヴズ vs. 浦安D-Rocks
配信期間 : 2025年12月28日午後1:50 ~
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【先行】ジャパンラグビー リーグワン2025-26 D1 第3節-5 横浜キヤノンイーグルス vs. 東芝ブレイブルーパス東京
配信期間 : 2025年12月28日午後2:20 ~
後半11分、みずからがトライを挙げる。敵陣インゴールよりさほど離れていない右中間スクラム。途中出場の左プロップ、山下憲太が塊のような体で左のスペースをあけるために押した。ピウタウは、組み合う前、腰に両の手を当てながら防御の構成をじっと観察していた。
気鋭の9番、北村瞬太郎のパスを直接キャッチ、まっすぐ、かすかに外、すぐ縦、わずかに内、ただちに縦のフットワークを駆使、体に触れられることなくインゴールへ。
巧妙なコースのみならず速度がなんとも心憎い。少しもムキにならないのだ。されど遅いわけではまったくない。かくして解説(本稿筆者によるものです)は迷子になる。
「フルスピードって感じじゃないんですよね。だけどサッと抜いていく」。そのまんまじゃないか。分析と説明のための一言もまた名手に軽々とかわされている。
あらためてチャールズ・ピウタウは、かつて「世界一の年俸」を得ていた。多くの報道を引くと、2018年シーズンのためにイングランドのブリストルと「100万ポンド」の契約を結び、当時のラグビー界では「最高」とされた。現在のレートならざっと2億円である。
それほどの才能なのにニュージーランド代表のキャップは「17」にとどまる。具体的には2013年6月のフランス戦から15年7月の南アフリカ戦までの短期に終わった。実力がなかった? 逆である。あまりに優れていたのでヨーロッパのクラブからしきりに誘われた。
2015年3月に「16ヶ月後にアイルランドのアルスターへ移籍する」と明かした。「秘密にしておくこともできたのにそうしなかった」(ガーディアン)。かくして同年のワールドカップの選考より外れた。
2017年のガーディアン紙の取材で本人がオールブラックスへの未練について述べている。
「あのジャージィを着ることがどんなに喜びかを思えば、さみしさもある。でも、いまはかつての仲間を応援している。これ以上はない思い出と完璧な記録が残ったんだ。代表17戦で17勝という」
際立つ大物、ピウタウの非凡は、前述のごとく「中庸なスピードを保ちつつ相手に確実な脅威を与える」ところにある。その気になれば高速にして強靭だ。もちろん眼前にいたら鋭くて素早いに決まっている。ただ、よほどの緊急事態を除いて余力を残す。腕の自由とクリアな頭はずっと死なない。
ブレイブルーパスとの接戦の前半42分、静岡の14番、ヴァレンス・テファレの右コーナーへのスコアを呼んだつなぎがそうだった。ラインアウト起点の展開、ピウタウはここでも「脱力」と記したくなる柔らかな身のこなしで、なお、ふたりを完全に引きつけ、ふんわりと短いパスを10番の家村健太へ渡した。ボールはまるで小動物だった。
いまこの部分を書いている解説者は「あっ、うまいっ」と小さく叫んでいる。リプレーでも「ピウタウのバスがうまいっ」。リビングルームでテレビ観戦のファンと同じだ。小学1年から国語だけはまあまあできたのに、わが語彙は完敗を喫した。
さて、ここでは「中庸」とした。トップスピードでなくスローでもないランニングである。これが総じて日本の選手は得意でない気がする。筆者がコーチ時代によく感じた。
J SPORTS 放送情報
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ジャパンラグビー リーグワン2025-26 D1 第3節-4 静岡ブルーレヴズ vs. 浦安D-Rocks
放送日:2025年12月28日(日)放送時間:午後 6時00分~
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ジャパンラグビー リーグワン2025-26 D1 第3節-5 横浜キヤノンイーグルス vs. 東芝ブレイブルーパス東京
放送日:2025年12月28日(日)放送時間:午後 9時30分~
1990年代。フランスのコーチングのビデオを入手した。ピエール・ヴィルプルーという高名な指導者のメソッドが記録されていた。15対15でアタック&ディフェンスを始める。本物のタックルはなし。両腕で抱えられるとボール保持者は止まり、コーチがボールをどこかへ放り、また攻防が始まる。
守る人間と人間のあいだの空間をアタックは自由に狙い、臨機応変にスペースやサポートの感覚を養う。いい練習だ。自分のかかわる高校や大学にも導入しようと、数年にわたり試みた。
うまく運ばなかった。なぜか。映像のフランス選手のランが「ピウタウ」なのだ。速すぎず、遅すぎず、7割くらいでみな動く。かくして行き詰まった。日本の学生はどうしても「100」か「30」になってしまう。ほどよく「70」や「60」になってくれない。きっと社会環境がそうさせるのだと決めつけて、自分を納得させた。
もっとも例外は世の常なり。2025年の暮れ。日本列島に生まれ育った背番号10は「ピウタウ」ができる。あの人である。
田村優(横浜キヤノンイーグルス)
田村優。横浜キヤノンイーグルスの揺るがぬ指揮者。12月21日の対三菱重工相模原ダイナボアーズの後半7分に自身でトライを記録した。すーっとポジショニングを定め、柔らかなパスを送り、突破を導いて、内へ駆け上がり、リターンの楕円球を捕るや絶妙な足さばきでやはり指先すらさわらせずにトライラインを越えた。
ここにも「中庸なスピードを保ちつつ相手に確実な脅威を与える」実例があった。2019年のワールドカップ日本大会後のインタビューでこう話したのを覚えている。
「僕はビックタックルされない」
歳月を経て、スキルも更新されているはずだ。されど36歳にして一流のまた一流であるプレーメーカーを見つめると、抜きにかかるとき=ぶっ倒されぬとき=の「法」は変わらない。
いつの日か、田村優とチャールズ・ピウタウが、石垣島の泡盛のソーダ割りでも酌み交わし、ステップの秘訣を論じれば、うなずき合うばかりだろう。
文:藤島 大
藤島 大
1961年生まれ。J SPORTSラグビー解説者。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。 スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。 著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)近著は『事実を集めて「嘘」を書く』(エクスナレッジ)など。『 ラグビーマガジン 』『just RUGBY 』などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球にみる夢』放送中。
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