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「プロ精神を発揮できた」。フィジー戦直後のファン・マヌエル・ガミナラ主将のコメントを思い出す。プロ精神とは?
「金銭とは何の関係もありません。私たちが示した献身と情熱と自己犠牲のことです」
トップ国のプロフェッショナルの努力。経済の見返りなんて薄いか皆無のアマチュアの純粋性。それらが誇りを媒介として金星に溶け合った。
最後にウルグアイのラグビー人の発した言葉を。
「愛情と連帯があれば不可能はない」
モンテビデオのカトリック系学校の卒業生クラブ、オールド・クリスチャンズのカルリトス・パエスが述べている。チーム仲間のナンド・パラードがーの著書『Miracle in the Andes』にそうある。
ここだけ切り取ると薄っぺらなビジネス指南のようだ。しかし、発言者、それを紹介する著者がどちらも「アンデスの聖餐」のサバイバーと知れば重みは変わる。
ウルグアイのラグビーには欠かせぬストーリーなので過去にも書いた。以下、簡単な解説を。1972年10月13日。ウルグアイ空軍の双発機がアンデスの崖に衝突、雪に埋まる。事故機をチャーターしたのがオールド・クリスチャンズ。チリのサンティアゴで親善試合を計画、選手と家族ら計45名(うち乗員5名)が搭乗した。機体の白は雪山と重なり捜索は難航、打ち切られる。当日の死亡、行方不明は17名、16日後の雪崩もあり計29名が命を落とし、約70日後に16名が生還した。
苦難に「ラグビーのチーム」は機能した。医療、墜落機内の居住環境整備、飲料水確保のグループをそれぞれ編成、医学生が負傷者の治療にあたり、機転の効く者は太陽光線で雪を溶かし、座席の内側に貼られていたアルミホイルを用いて水供給装置をこしらえた。
食糧が問題だった。10日目に重要なミーティングが開かれた。のちに有名な小児循環器専門医となるロベルト・カネッサが聖餐、すなわち雪で腐敗を免れる死者の肉の摂取を提案する。「魂は天にある」。やがて、そのカネッサと後年にモーターレースのドライバーや日用品企業の経営で大成功を収めるパラードは人里を探すための下山を試みる。ラグビーのスパイクを履き、ストッキングに「食糧」を詰めて。出発8日後、川の向こうにチリの農民を見つけて仲間との生還を果たした。
奇蹟から50年のテストマッチ。格上のブレイブ・ブロッサムズは勝利すべきだ。いつもながらの「愛情と連帯」でとことん抵抗するロス・テロスに。
文:藤島 大
藤島 大
1961年生まれ。J SPORTSラグビー解説者。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。 スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。 著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)近著は『事実を集めて「嘘」を書く』(エクスナレッジ)など。 ラグビーマガジン、週刊現代などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球にみる夢』放送中。
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