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ラグビー コラム 2020年6月4日

ラグビー新リーグ法人準備室副室長に就任した瓜生靖治氏 新リーグでの選手を取り巻く環境を考える

元トップリーガーの今 by 村上 晃一
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日本ラグビーを引っ張る「ジャパンラグビートップリーグ」は、2021年度シーズンから新リーグに移行する予定だ。ジャパンラグビートップリーグは企業がチームを運営するスタイルで、「プロ契約選手」と「社員選手」が存在する。
ラグビーワールドカップ(RWC)でラグビーというスポーツに関心を持った皆さんには、プロ野球やJリーグ、Bリーグとは違うので、少々分かりにくいかもしれない。
ラグビー独自のシステム、選手たちの置かれた現状、今後の見通しなどについて、ラグビー新リーグ副室長の瓜生靖治さんに聞いてみた。瓜生さんは元トップリーガーであり、日本代表にも選出されたプロ選手だった。


────まずは、ラグビー選手としての経歴を教えていただけますか。

「4歳からラグビーをはじめ中学生まで鞘ヶ谷ラグビースクール(福岡県北九州市)でプレーしていました。小倉高校から慶應義塾大学(環境情報学部)に進み、サントリーに就職して営業の仕事をしながら3年間社員としてプレーしました。その後、プロ選手として神戸製鋼コベルコスティーラーズに入団し、リコーブラックラムズ、キヤノンイーグルスでプレーし、キヤノンがジャパンラグビートップリーグへの昇格を決めた2011年度に現役を引退しました。2012年からはキヤノンでチームの採用担当になりました」

──神戸製鋼以降はプロ選手としてプレーしていますが、日本のラグビーにおけるプロの定義、瓜生さんはなぜプロになったのかを教えてください。

「トップリーグのプロ選手は、ラグビーだけを仕事とする選手のですが、トップリーグは企業スポーツですので雇用形態としては嘱託社員契約の選手が多くなります。会社の仕事とラグビーを両立している選手は社員選手というかたちです。私が社員選手からプロ選手を選択した理由ですが、当時は日中の勤務の後、夕方にグラウンドに移動して練習をしていました。私の担当していた業務は練習が休みの日には出張が入ることも多く、体を休める時間がほとんどありませんでした。中途半端な形で両方に関わっている状況が嫌で、すべての時間をラグビーに費やしたいという思いが芽生えました。もう一つは、社会人2年目に、おたふくかぜを患った際に後遺症として右耳の聴力を失い、今も右耳の聴力がほとんどありません。人生何が起こるか分からないという体験をした時、明日何があっても自分自身が後悔をしない人生を送りたいと強く思いました」

──当時から、スポーツ選手の価値向上についても考えたそうですね。

「当時は漠然とですが、スポーツ選手の社会的地位が確立されていないと感じていました。スポーツを通じていろんなことを学んでいるのに発揮できる機会がないのです。選手としてラグビーに100%打ち込みながら、スポーツ選手の価値向上に生かせる勉強もして、次のステップに進みたいと考えていました」

──キヤノンから日本ラグビーフットボール協会に移るときは、どういう決断だったのですか。

「キヤノンの採用担当になった時は、新興チームという事もあり、簡単に選手は集まらない状況でした。そこで、複数の大学へ声をかけ、選手達にキヤノンのグラウンドに集まってもらい、トライアウトを実施しました。現在のトップリーグ発掘プロジェクトの前身になります。実はそのとき、今の日本代表選手であるラファエレ ティモシー(当時、山梨学院大学)も参加してくれました。最後まで採用を迷っていましたが、結局外国人選手枠の関係でキヤノンでは採用できませんでした。しかし、キヤノンでの採用は無理でも他では採用できるチームのあるのではと、まだ枠を持っているチームの採用担当の方に声をかけたりしました。チームによってその年の補強で求めるポジションが違うなら、こういったチャンスを作る場は16チームでやったほうが採用の枠も増える事になり、それは選手のためにも日本のラグビーのためにも良いのではと思うようになりました。
 翌年に各チームの採用担当者と一緒に、トップリーグ発掘プロジェクトを立ち上げました。開催にあたって日本ラグビーフットボール協会に後援をしてもらう事が必要でしたので、稲垣さん(元ジャパンラグビートップリーグCOO)に相談し、協会の方をご紹介いただきました。準備を進めていくと協会のスタッフの方は、RWC後の日本ラグビーの盛り上がりに危機感をもっている方で、発掘プロジェクトだけでなくトップリーグ事も手伝ってくれないかと声をかけていただきました」

──それですぐに日本協会の職員になったのですか。

「最初の1年はキヤノンから出向し採用担当との兼務でした。実際に協会で働いてみないと分からない事が沢山ありました。RWC組織委員会と連携し、大会後の盛り上がりをどのように継承できるか、トップリーグを盛り上げることがこれからの日本ラグビーのためだという使命感もあり、退路を断って、2017年から協会の職員になりました」

──トップリーグ・ネクストというプロジェクトにも関わられていたと思います。それはどのような構想だったのですか。

「ポイントとしては、トップリーグをリーグ自体で運営できるように事業化していこうという構想でした。試合の興行をチームが担い、地域に根差した活動ができるようにする事で、企業スポーツをいかに発展させるかという事に主眼をおいていました」

──新リーグ構想と似ていますね。

「プロ構想と、ネクスト構想の折衷案がいま進んでいるという状況だと思います。企業スポーツという枠組みを越えて、事業としてプロ(選任性)を目指していこうというのが新リーグの構想でどのような事業形態をとっていくのかは、各チームのご判断により社内での形を決めていただいております」

──プロ化とは言えないのですね。

「プロという言葉の定義の問題だと考えています。日本人のイメージするプロとは、野球、サッカーの形ですよね。選手全員がフルタイムでスポーツをする事がプロスポーツという。ラグビーは社員選手もいます。新リーグは興行としてはプロですが選手資格は自由です。契約の幅は広がると思います」

──トップリーグの現状を伺いたいのですが、ラグビーの世界で言う「プロ選手」はどれくらいの割合でいるのですか。

「2016年のネクスト構想を考えるときに、ヒアリングを致しました。概ねの比率ですが、当時、トップリーガーは全体で約770名。その中で日本人の社員選手が約65%くらい。プロ選手約15%、帰化選手約5%。外国人選手(アジア枠含む)約15%です。2018年になると、全体の人数が約780名。日本人社員が約60%。プロ選手が約15%…(以下、別表参照)」

──外国人選手も帰化選手もプロ契約がほとんどなので2019年は約半数がプロ選手ということになりますね。日本人の社員選手は徐々に減っていますが、これはどう見ていますか。

「RWC日本大会とサンウルブスの影響もあったかと考えています。世界を見据え、日本代表入りを目指してプロ契約を選択する選手が多かったように思います。しかし、一方で、社業をしっかりやって引退後はそのまま会社で働きたいと考えている選手は一定数います。この比率は簡単には逆転しないでしょう。社員選手を希望する選手は常に半分くらいはいるのではないかと予想します」

──それはラグビーというスポーツの特性でもあるのでしょうか。

「ラグビーはコンタクトスポーツですので、どんな選手でも一度大きな怪我をするとパフォーマンスはやはり落ちてしまいます。もちろん例外はありますが、選手生命は長くはないです。当たり前ですが、選手は現役のうちに引退後の生活を考えます、その中で引退後も社員として働く事ができるという事は、現役時の不安は少なくなるでしょう。またプレーをしながら企業で働く機会はそう簡単に得られるものではありません。そういった会社での働く経験だけでも大きな価値があるのではないでしょうか」

──企業側としては、社員選手とプロ選手を抱えるコストは、どちらが高くなるのですか。

「トータルコストを考えると、最終的にはプロ選手のほうがコストは安いのではないでしょうか。社員選手は福利厚生や社会保険料などの負担もあります。この部分は企業がなんのためにラグビー部を持っているのかという哲学にも関わってきます。同じ職場の選手が仕事、練習で努力しているのを見ることで、社内の活力にもなります。チームが勝った次の日は工場の稼働率が上がるという話も聞いたこともあります。全員プロ選手か今までのように社員選手も混在するのか、新リーグに向かってどちらに進むか、会社によって様々な特色が出てくる所です」

──プロ選手のセカンドキャリアの問題は新リーグでどのように考えていきますか

「新リーグではより積極的に選手に対する学びの機会は提供していこうと思っています。先日、SDGs(持続可能な開発目標)について、トップリーグの選手を対象に新リーグ準備室の谷口真由美室長が講義を行いました。今季のトップリーグでは、SDGsマッチと称して、視覚障がい者の方にラグビーを楽しんでいただく企画や「deleteC」というみんなの力で癌を治せる病気にするという活動をされている団体様との活動を実施しました。新型コロナウイルスの影響による中止がなければ、さらに数試合のSDGsマッチが実現する予定でした。この活動をリーグとして継続していくためには、選手の皆さんにもSDGsについて詳しく知ってもらわなければいけない。トップリーグ企業の持つ最新技術をお借りして講義をしました」

──そうした学びが、スポーツの価値向上にもつながるということですね。

「今後もアンプ機能とボンド機能という考え方を持って色々な事を仕掛けていきたいと思っています。アンプ機能は拡散です。ボンド機能は惹きつけるということです。スポーツ選手は、いろんな情報を得ることができるし、拡散する力があります。情報を取り込んで自分の中で消化し拡散する。それができるとスポーツ選手の価値、スポーツ自体の価値も上がります。現役選手のうちに学んだほうが良いことは積極的に発信していきたいと思っています」


文:村上晃一

村上晃一

村上 晃一

ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。

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