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ラグビー コラム 2020年1月6日

28年越しのノーサイド

J SPORTSプロデューサーコラム by 杉山友輝(J SPORTSプロデューサー)
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スクラムを組むおじさん スクラムを組むおじさん

団塊ジュニアの元ラガーマン

第99回全国高等学校ラグビーフットボール大会、通称・花園が始まった。もう見ているだけで、鼻の奥がツーンとしてしまう。

花園の少し前、高校時代の忘年会がある。毎年恒例 ラグビー部の忘年会だ。年齢は45、6歳で団塊ジュニアの我々。

みな結婚して、家庭を持ち、ローンをかかえ、会社では中間管理職ど真ん中を突っ走っている。IT企業の経営者が一人でもいればいいのだが、みな普通のサラリーマンだ。

繰り返す「最後の試合」の思い出話

毎年同じ中華の店。ビールと餃子から始まった宴が、焼酎お湯割り梅干し入りに代わる頃。話は必ず、全国大会県予選の準々決勝、花園へ進めなかった「最後の試合」の話になる。もう何度同じ話をしただろうか。

納得する負けなどない、だから思い出す。もう28年も前の話だというのに、今でも真っ青な秋の空をみると、あの日を思い出す。でも私は「最後の試合」を語る輪に入れない、下を向いてウンウンと聞いているだけだ。

私は高校時代、ラグビー部のキャプテンだった(3番プロップ)。しかし、ケガのため3年生の最後の試合に出場できなかった。準々決勝の相手は、練習試合で50点以上の差をつけて勝った相手だ。私は「準決勝までにケガを治せば…」とベンチにいたのだが、死に物狂いで当たってきた相手にあっさりと負けた。

突然の幕切れ。ノーサイドの無い、ノーサイド。私の3年間は、何も結実しなかった。

「ラグビーやりたい!」と言い出す家族

タックルで持ち上げられてからのパスに、子供は大興奮!

タックルで持ち上げられてからのパスに、子供は大興奮!

2019年は、ラグビーワールドカップとともにあった。日本全体がラグビーの虜になった。私は誰もが知っている日本中の熱気ではなく、小さなことを伝えたいと思う。ワールドカップ開催中に起きた、本当に小さい自分の家族のことだ。

それまで全くラグビーに興味のなかった、妻と2人の娘(小学校6年生と保育園年長)は、完全に「ハマった」。生活のすべてはTV中継中心に回り、ラグビー経験者の私は四六時中ルールやプレーの質問攻めにあった。唯一スタジアムへ観戦に行った、静岡県エコパスタジアムの試合の時には、もうスタジアムに入ったときからみんなで涙を流していたほどだ。

そんな彼女たちは、仕事から帰宅した私にこう言った。「今度の休み、ラグビーやりたい! パパ教えてよ!」と。

「ラグビーという文化」のパス

休日。秋晴れの中、家族4人でラグビーの練習が始まった。といっても、適当なパスやキック、ふんわりとしたタックル。ジャパンのプレーとは比べるまでもないが、走ってくる6歳の娘に、私がやさしくタックルをする、そこへ母親が走ってきてオフロードパスを受ける。みんなニコニコ、ゲラゲラ、ラグビー楽しい!と口にする。ノックオンだってスローフォワードだって関係ない、スポーツの一歩目は楽しいが全て。

スクラム組もうよ、ラインアウト教えてという娘たち。スクールの体験行かせてみようかしらと、妻。その時私は、秋空を見上げながら「ああ」と深く息を吐いた。そして想った。

ラグビーやっててよかったな。花園予選は突然終わったけど、家族へ「ラグビーという文化」のパスを渡せたんだから、決して無駄な3年間じゃなかったな。きっとラグビーワールドカップが日本で開催されなかったら、こんなナイスパスは家族に渡せなかったよな。28年かかったけど、行けなかった花園、ノーサイドになったな、と。

忘年会で「最後の試合」を語り合い、目を真っ赤にした後、誰とはなしに話し始めた。
「いやぁ実は、空手やってた息子がラグビー始めて…」
「新体操やっていた娘がラグビー見るようになって…」
「俺もまたラグビー再開したんだよ…」

そして誰かが言った。「俺たちさ、負けたから、今があるよな」

28年越しのノーサイド、そしてキックオフの笛が鳴る。

文/杉山友輝(J SPORTS)

杉山友輝(J SPORTSプロデューサー)

杉山友輝(J SPORTSプロデューサー)

若手のADを見るとすぐに「メシくってるか?」という昭和臭いプロデューサー。担当競技は卓球・ラリー・ゴルフ。毎日自らで作ったカスピ海ヨーグルトを食べるのが健康法。ニックネームはスギP。

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