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コロナ禍でのマネージメントのキーワードは「自主性」 指導者たちが実践したニュースタンダードに迫る 大久保秀昭(JX-ENEOS硬式野球部監督)×藤田将弘(日本体育大学男子バスケットボール部監督)×青島健太(スポーツライター) 困難突破トーク 監督室編
J SPORTSプロデューサーコラム by 杉山友輝(J SPORTSプロデューサー)どこにもぶつけられない心の痛み
コロナ禍により様々なスポーツの試合や大会が中止となる中で、チームの指揮官である監督はどのような信念でマネージメントをしているのか? また、スカウティングをする側とされる側の苦悩などを、大久保秀昭氏(JX-ENEOS硬式野球部監督)と藤田将弘氏(日本体育大学男子バスケットボール部監督)が語り合った。ナビゲーターはスポーツライターの青島健太氏。(この収録は5月28日に行われました)
青島:本日は野球とバスケ界から二人の監督をお迎えしました。コロナの影響により非常に厳しい毎日が続いていますが、現在の状況はいかがですか?
大久保:社会人野球は春に都市対抗、秋に日本選手権がありますが、今年は五輪開催の影響により、そのスケジュールが逆になっていました。そのため、春の日本選手権が中止になり、6月いっぱい公式戦も中止。当面、試合の予定がありません。また、30名強の選手たちのほとんどが寮生活をしていますが、一切の外出禁止。寮とグランドだけの生活を1カ月以上しているので選手たちは辛い日々を送っていますね。
藤田:当たり前だった時間のサイクルが失われ、最初は戸惑いでいっぱいでした。目の前の目標である「大会」が中止や延期となり、それが決まった時の選手たちの残念な顔は忘れられないですね。新学年になり、今年にかける最上級生たちの気持ちもありますしね。どこにもぶつけられない心の痛みはありますね。
常に新しい情報を入手し、しっかりとした生活を送る
昨年まで慶應義塾大学硬式野球部で5年間監督を務めた大久保氏。監督の仕事は15年目になる。
青島:非常事態宣言が解除され、リスクを軽減しながら、世の中もスポーツ界も少しずつ前進しようとしている中で、改めて、大学・社会人スポーツが受けている困難や影響を教えてください。
藤田:大会が中止や延期となりましたが、学生たちが一緒に活動できないことも大きな問題ですね。全体練習はもちろん、学校に入ることも出来ない。学生たちには「私も人生で初めてのこと。この先どうなるかは分からないけど、常に新しい情報を入手して、しっかりとした生活を送りなさい。そして、安全な場所で過ごすように」
と伝えました。実家に帰りたくても帰れなくて合宿所に留まっている学生もいます。
大久保:企業スポーツは会社に貢献してこそですが、それが何も出来ていないので心苦しいです。都市対抗は社会人野球のメイン大会ですが、社員による応援も名物。新人社員は出社出来ていないために、応援してくださる会社の方たちとコミュニケーションが取れていない。それももどかしいですね。全体練習はしていませんが、密にならない範囲で自主練習をしています。おかげさまで野球部だけの敷地があるので、室内練習所をメインに、寮に併設されているジムやブルペン、外野の一角を使ってランニングをしています。世の中の情勢で変更になる可能性もありますが、9月の都市対抗予選、11月の本大会に向けて、6月1日からユニフォームを着て全体練習を、対外試合は6月14日からある予定です。
課題は出さず「自分をどう高められるか」を任せる
藤田氏の後ろに見えるのはバスケットボール部の練習場であるアリーナ。選手たちの汗と涙がぎっしりと詰まった場だ
青島:このような状況だから取り組めていること、選手たちに取り組んでほしいことはありますか。
藤田:学生たちに期待するところを含めて、乱暴な言い方もしれないですけど、大好きなバスケが出来ないこの状況で、自主性や主体性に重きを置き、あまり課題は出さず「自分をどう高められるかを考える」ということを学生たちに任せています。今までの日本のスポーツは「管理スポーツ」、監督の言ったことをやるのが良いというところがありましたが、今だからこそ学生たちの背中を思い切って推したところはありますね。
大久保:私もまさに同じ想いですね。自主性を重んじた指導理念のもと、日々取り組んでいます。学生に限らず、社会人も同じだと思います。この状況だから「やれない」、「出来ない」、「場所がない」、「時間がない」ではなく、今すべきことが何か、今何が出来るのか。トレーニングをしたり、過去の映像を見て分析をしたり、新しいことにトライするなど、自己向上の時間をプラスに考えられる選手が伸びていくし、そういった選手になってほしいですね。実際、この1カ月半で目に見えて分かるほど変わった選手も出てきていますし、プラスの面が見られたことは貴重です。
藤田:この期間に競技者としてフィジカル面と心、共に成長していると思います。希望を持って、今後の自分の人生をどうしていくか、こういう状況になったからこそ、ものすごく考えていると思います。こんなプレーをしたいということよりも、プロに行けるのか、競技生活を終える学生たちは就職活動をどうするのか、不安になっているでしょうね。私にとっては顔を見てサポート出来ない歯がゆさがあります。この問題がなければ感じていないことを思い悩んでいると思いますが、自分で「光」を見つけられるようプラスに考えてほしいですね。
自分の特性を知るために「限界を知る」
スポーツの面白さを伝えたい思いから「青島ブ活はじめたってよ」のYouTubeをスタートさせた青島氏
青島:お二人ともに選手たちの自主性、主体性を大事にされていますが、スポーツはそれをどう育てるかが一番大切な要素ですよね。
大久保:僕は大学の時に当時の前田祐吉監督からそういう指導を受け、自分も前田監督のような指導者になりたいと思いましたし、こういう人のもとで野球をしたら野球は楽しいだなということを感じました。そもそも前田監督はたかが野球って言ってましたからね(笑)。 野球がすべてではないということを強く仰ってましたね。
藤田:私も学生たちにはバスケだけにならないように、「勘違いするなよ」という言葉をつけて、もっと遊びに行きなさい、もっと外に出なさい、寮と体育館の行き来だけではバスケはうまくならないということを伝えてますね。
青島:先程、前田監督の話がありましたが、藤田さんが影響を受けた方はいますか。
藤田:野村克也さんですね。いつも野村さんの言葉を心に刻んで監督業をしています。言葉をよく知っている方ですよね。指導をする上で言葉は大切ですが、野村さんの本で勉強させてもらいました。
青島:私は野村克也さんを「野球界の広辞苑」と言ってました。戦術に長けた方という印象が強いかもしれないけど、選手として活躍するには人間としての基本がなってないと長くプレーできない、「プロとは自分の限界を知ること」と仰ってましたね。「限界を知る」というのは自分の特性を知るということでもありますし、自主性や感受性を磨かないとそれを感じ取れないですよね。
大久保:青島さんは野村さんが監督の時に選手だったんですか。
青島:残念ながら私は入れ替わりで、野村さんが監督に就任した時に退団したんです。今考えると自分でお金を払ってでも在籍したかったですね(笑)
大久保:青島さんが尊敬する方は誰ですか。
青島:競技を問わず沢山いますね。中でも特に影響を受けたのは関根潤三さんですね。決して大声で叱責したりせず、選手の自主性に火を点けるのが上手な方でした。関根さんのもとでやるとグングン伸びていったり、倒れかかっている人に良いヒントを与えて、その後自分で考えて再生したり。スポーツは勝負によって喜んだり泣いたりすることが面白さのひとつですけど、スポーツに関わっている間に色んな仲間と出会えることも良いですよね。仲間とお互いに良い影響を与え合えることもありますしね。今の自分何ができるかを考えた時に、そんなスポーツの面白さを改めて伝えたく、YouTube(青島ブ活はじめたってよ)を始めたんです。
コロナ禍で求められているのは「続けること」
今この状況で大切なのは「続けること」と話す藤田氏
青島: 学生スポーツの中止によるスカウトへの影響はありますか。
藤田:全国大会を目指して頑張ってきたアスリートたちの夢が閉ざされてしまい、悔しいの一言ですね。
スカウティングはプレーだけを見ているわけではないんです。全国大会に出てエースナンバーをつけている選手たちのプレーがうまいのは分かっているので、オフザコートでの姿も見ています。
また、先生方や親御さんとお話することもありますが、それが出来なくなりましたので、監督さんに連絡して選手とオンラインでお話することを予定しています。また、Bリーグへ行きたい選手たちも沢山います。オファーをかけてもらうには試合の場が大切ですが、見てもらえる場がなくなり、選手たちは不安になっていますね。私からも売り込みをしていきますけど、こればかりはどうなるか分からない状況です。Bリーグ志望以外に、教員や就職したい学生たちもいますが、通常春に実施している教育実習が9月になってしまい、リーグ戦も同時期を予定しているので、教育実習にいく選手は試合に出れないということもあると思います。サポートしていく側も模索しています。
大久保:自チームでいえば、昨年まで自分が大学野球に関わっていて六大学野球を中心に選手情報はありますから、今年に限ってはそんなに苦労はしていません。
ただ、ここから活躍してくる4年生や、春に勝負をかけていた選手にとっては、プロにアピールする場がないことは辛いですね。エネオスは会社側から採用を減らすという話はないですけど、そういうチームも出てくるかもしれません。実際にアメリカはドラフト指名人数を減らしましたね。プロ野球のドラフトについては今後どうなるかは未定ですよね。僕が今も慶應の監督をしていたら、野球で勝負をかけたいという選手たちにどうやってアドバイスをしたらいいか悩みますね。
藤田:社会人チームでのプレーを志望する学生も、受け入れる会社も、両方数が少なくなるでしょうね。一般就職も求人倍率が下がるでしょうし、就職氷河期になる懸念もありますね。
大久保:藤田さんも仰っていたように、チームスポーツはバランスが重要なので、プレーがうまい選手だけを揃えるのではなく、プレー以外のところでどういう役割をしているかを見ますね。飛びぬけてうまい選手も必要だけど、優秀な人間性を持っていて、リーダーシップを取れる選手も大切ですからね。
藤田:このバランスを考えながらリクルート活動をしていく中で、今すべての活動が止まってしまっているのは厳しいですね。ただ、今この状況で求められていることは「続ける」ということだと思います。続ける難しさ、続けないと分からないこともあるので、選手たちにはそれも伝えています。
これからは「同じ悩みを持つ集団」がオンラインで解決していく
コロナ禍に耐えた選手たちの成長が楽しみと話す大久保氏と藤田氏
青島:このような状況で感じた嬉しいことや、楽しみにしているはありますか。
藤田:生活リズムが変わりましたね。それと、教員同士で試行錯誤しながら、これまでやったことがなかったオンライン授業の準備をしていますが、同じ悩みを抱えたもの同士がオンラインでコミュニケーションを取りながらモノゴトを作っていくという新しいスタイルが確立された気がします。そして学生たちは、この状況に耐えて、人の苦しみや痛みもより分かるようになり、心が成長していると思うので、コートに帰ってくる日が楽しみです。
大久保:嬉しかったことは近鉄時代にお世話になった梨田さんがコロナから回復したことですね。
チームで言えば、自粛生活により、規則正しい生活になりました。規則正しい生活をしていくと良い人間が増える、そうなるといい組織になり、いい流れが出来ていきますよね。実際に選手たちの成長を感じられているので、チームが低迷して4年間も都市対抗にも出場できていない状況が変わっていくと思います。
青島:今後、お二人が注目してほしいことを教えてください。
藤田:日体大のバスケ部を見て10年目になりますが、今準備が整って上昇してきていて、優勝まであと一歩というところまで力をつけてきています。活動できない悔しさ、寂しさを試合にぶつけていきたいと思いますので応援をよろしくお願いします。
大久保:チームの目標は都市対抗優勝ではありますが、それと同じくらいに、大学生や高校生、または中学生たちから「JX-ENEOS野球って気持ちいいね、参考になるね」と見本にしてもらえるようなチームになることを目標としています。それにふさわしいチームになっているかを皆さんに見てもらいながら、応援もお願いします。
青島:私も、スポーツが大好きでずっと追いかけていますけど、スポーツを見て幸福感を覚えるのは、勝ったチームがみんなで抱き合ったり、負けたチームが涙したり、個人戦にしても、握手したり、ハイタッチをしたり。触れ合うところに幸福感があるけどコロナはそれを許さないですよね。またいつかそれができる日が来ると信じてみんなで頑張っていきましょう。本日はありがとうございました!
文:J SPORTS 杉山友輝
杉山友輝(J SPORTSプロデューサー)
若手のADを見るとすぐに「メシくってるか?」という昭和臭いプロデューサー。担当競技は卓球・ラリー・ゴルフ。毎日自らで作ったカスピ海ヨーグルトを食べるのが健康法。ニックネームはスギP。
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