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完成を待つプロトタイプの義足
同じ事ばかりでは知見が広がらない
東京2020パラリンピックに向けて、パラスポーツへの認知が広がる中、国内でも有数のデザイン会社が行っている取り組みがある。それは「義足をデザインする」というプロジェクトだ。
5年前から始まったこのプロジェクトは、GKダイナミックス(以下GK)という会社で行われている。GKは、モビリティデザイン、つまり自動車やバイクなどの工業デザインを手掛けている会社で、誰もが目にしたことのある意匠を世界中に送り出してきた。
義足×デザイン、いったいどんな取り組みなのか? このプロジェクトの推進役を務める、GKのCMFG動態デザイン部の青木省吾氏と、同じくプロダクト動態デザイン部の坂田功氏に話を聞いた。
-そもそも、なぜこのプロジェクトを始めたのですか?
坂田 「普段の仕事では、モビリティを中心にデザインしているのですが、そればかりやっていても知見が広がらない、もっと貪欲に様々なことを学ぶ必要があると思ったのです」
青木 「リサーチをしていくなかで、縁あって車いすテニスの眞田卓選手と知り合いました。そして、義足のカバーをデザインすることで、眞田選手はもちろん車いすテニスそのものも盛り上げたいと思うようになったんです」
「デザイナー魂に火が付いた」理由とは
世界トップクラスのパワーショットを誇るフォアハンドを得意とする眞田卓選手。とても明るくて話が上手だ。
眞田卓選手は、19歳のときのバイク事故で右足を切断。その後すぐに、中学生時代のソフトテニス経験を生かして、車いすテニスを始めた。
めきめきと頭角を現し、ロンドン、リオのパラリンピックに出場。リオではダブルスで準決勝に進出し、2019年12月現在の世界ランキングは10位とトップクラスの選手だ。
今は来年に迫った東京2020パラリンピックの代表入りを目指し、トレーニングの日々を送っている。
-なぜ「義足をデザインする」をテーマとしたのですか?
坂田 「全日本車いすテニスの大会を見に行ったんです。当時は本当にガラガラでした。車いすテニスは知っているけれど、ほとんどの人は実際に見に行ったことがない。表現は乱暴かもしれませんが、そもそも興味を持たれていない状態だったんです。その事実に気が付いたとき、私のデザイナー魂に火が付きました。デザインの持つ力を最大限に活かして視覚的に訴えよう、そして車いすテニスの魅力を日本中に広めようと。そしてそのとき、たまたま義足に着目したんです」
デザインされた義足カバー
「足に似せる」のではなく「足を超えるデザインにする」
眞田選手自身が「自分が義足であることを積極的に発信していく」というマインドを持っていることも、このコラボレーションを加速させた。何度も眞田選手、青木、坂田で話し合いを重ねる中「足に似せる」のではなく、新たな魅力をまとった「足を超えるデザインにする」との方向性を決めたという。
まずデザインしたのは「義足のカバー」。ふくらはぎと脛に相当する部分に、独創的なデザインを施した義足カバーをまとわせた。試合会場での周囲の反応はどうだったのだろうか?
青木 「入場セレモニーの時に、うわー!とはならないけれど、何あれ何あれ?という感じに! そして、セレモニー終了後には人垣ができました。多くのメディアも取り上げてくれたことで、少しではありますがこのプロジェクトに手ごたえを感じ始めたのです」
義足のカバーだけではない。バイクのデザインを得意とするGKと、事故前はバイクでツーリングを楽しんでいたという眞田選手のコラボレーションは、さらに進化した。
バイクのライディングには欠かせない、膝から太ももでタンクを挟んで体重移動するイメージを、車いすにも盛り込んだ。座面の太もも部分にニーパッドを装着し、より自分のイメージに近い動きを可能にしたのだ。眞田選手によれば、動き出しのスピード逃さないので抜群にパフォーマンスが向上したという。ちなみにこのニーパッドは、他にも取り入れる選手が出たほどで、デザインのチカラが、アスリートの可能性を広げたと言えるのではないだろうか。
試作品の足を持つのが坂田功氏(左)、眞田選手のフィギュアを持っているのが青木省吾氏(右)
5年目の苦悩、なかなか広がっていかない…
しかし、着実に進んでいるように見えるが、悩みもあった。このプロジェクトを始めて5年、社内や関係者には広がりつつあるものの、一般の人たちには活動自体がなかなか届きにくいという現実だ。そこで青木と坂田は、知恵を絞った。
-現在はどんな取り組みをしていますか?
坂田 「現在取り組んでいるのは、義足の靴を履く部分(足)の制作。これまでは足を模したカバーを履いていました。ですが、我々は『足を超えるデザイン』を目指しています。義足カバーと足、これをトータルでデザインすることで、カッコいい!と多くの人の興味を引き付けることができると思うのです。「足を超えるデザイン」のため、素材は軽量で強靱なカーボンを使います。そしてGKだけじゃなく、いろいろな人と大きな『輪』を創るために、制作費用をクラウドファウンディングで募ることにしました。全く初めての試みですが、これまでとは違うところからアプローチすることで、もっと多くの方々に、このプロジェクトを知ってもらう機会にしたいのです」
11月15日からスタートしたクラウドファウンディングは、残念ながら現在の所、目標金額には達していない。しかし、青木も坂田も表情は明るい。
坂田 「クラウドファウンディングで支援金が集まるときには、その多くはもともと知っている友人知人といった関係者が多いそうなんです。ところが私たちの場合、半分は面識がない方々のようで、もし目標金額に達しなかったとしても、興味がなかった方々に知ってもらう、という目標にはかなり近づけると感じています」
義足のデザインから始まったプロジェクトは、競技のパフォーマンスをも向上させ、さらにクラウドファウンディングで、未知なる仲間も作るべく進化し続けているようだ。最後に、今後の目標を聞いた。
青木 「体力が続くかぎり、やはり車いすテニスの普及ということに、力を尽くしていきたいです。実は、今後こうありたい、こうしたいというのは明確にしていません。ビジョンも決めなくてもいい、ひとつひとつできることをやっていく。そしていつの日か、眞田さんとかかわりを持つことができて良かったなぁ、と思える日が来たら最高だと思います」
文/杉山友輝(J SPORTS)
杉山友輝(J SPORTSプロデューサー)
若手のADを見るとすぐに「メシくってるか?」という昭和臭いプロデューサー。担当競技は卓球・ラリー・ゴルフ。毎日自らで作ったカスピ海ヨーグルトを食べるのが健康法。ニックネームはスギP。
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