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新車になっても強かったTEAM MUGEN、その中でも光ったリアム・ローソンの強さ。鈴鹿での第3戦はどうなる?
モータースポーツコラム by 吉田 知弘開幕戦でデビューウィンの快挙を成し遂げたリアム・ローソン。
ついに開幕を迎えた2023年の全日本スーパーフォーミュラ選手権。今年から新空力パッケージを導入した『SF23』に車両が変わり、サステナブル素材を採用したタイヤも導入。さらにはコロナ禍の制限も解除され、多くの海外ドライバーも参戦するなど、話題の多いシーズンとなっている。
そんな中で迎えた4月8日・9日に富士スピードウェイで行われた開幕大会は“波乱”からスタートした。今年は過密日程回避のため、同地で実施される開幕前テストがなく、予選前で唯一の走行機会だった金曜フリー走行も、悪天候により中止。土曜日朝の公式予選(急きょ45分の計時予選方式に変更)が、全ドライバーにとって初めて富士でSF23を走らせる機会となった。
リアム・ローソンがいきなり本領発揮!SFデビューウィンの快挙成し遂げる
まさに“ぶっつけ本番”というなか、どのドライバーにもポールポジション獲得のチャンスがあったのだが、最終的に速さをみせたのは、昨年の王者である野尻智紀(TEAM MUGEM)だった。鈴鹿での公式テストでは苦戦気味で、本人からも消極的な発言が多かったが、そこから開幕までの1ヶ月間で、チームが徹底的にデータ解析を行い、それが予選での快進撃につながり、最後は野尻がきっちりと1周をまとめ上げ、昨年の鈴鹿大会に続き、年跨ぎで3戦連続のポールポジションを獲得。
いきなり2連覇王者の貫禄を見せたのだが、それ以上にインパクトある走りをみせたのが、彼のチームメイトで、このレースがデビュー戦となるリアム・ローソン。この日が、初めての富士スピードウェイ走行で、スーパーフォーミュラの公式予選という異例の状況下で、3番グリッドを獲得したのだ。
前日のフリー走行が中止となったこと、そして何より、F1を目指す彼にとって今年は勝負の年。なんとしも結果を出したいという想いが、プレッシャーとなっており、前日の夜も寝られず、予選前はかなりナーバスになっていたという。ひとまず好結果を残すことができ、「うまくいって良かった」と笑みがこぼれていたが、記者会見が終わると、早くも決勝に向けて気持ちを切り替えていた。
そんな彼の本領が発揮されたのは、午後の決勝レースだった。
初めてとなるスーパーフォーミュラのスタートを決めると、序盤からアクシデントが多発する荒れた展開になるなか、8周目に大湯都史樹(TGM Grand Prix)との攻防戦を制して2番手に浮上すると、トップの野尻をしのぐほどのペースを発揮。気がつくと、開幕戦のトップ争いはTEAM MUGENの2台に絞られた。
レースの折り返しを迎えた21周目。先に動いたのはローソンだった。21周目にピットインすると、きっちりと停止位置にマシンを停車。チームも6.0秒の迅速な作業で、ローソンを送り出した。翌周に野尻がピットストップ(作業時間6.4秒)を済ませると、アウトラップを好ペースで周回していたローソンが背後につけ、トヨペット100Rでパス。実質的なトップに立った瞬間だった。
デビュー戦ということを考えると、これだけでも快挙なのだが、圧巻だったのは野尻を逆転した後だ。22周目には1分24秒005、23周目には1分23秒872と、連続でファステストラップを記録。一気に野尻との差を5秒以上に広げた。
終盤にはアクシデントに伴うセーフティカー導入で、野尻とのギャップがリセットされてしまったが、SC先導のままチェッカー。最後は運も味方して、スーパーフォーミュラデビューウィンという、日本のトップフォーミュラ史に残る大快挙を成し遂げた。
「信じられない気分」とレース後の記者会見で語ったローソンだが、一番印象的だったのは、この結果を喜びすぎていないことだった。
「僕は、まだSFの経験が浅いから、まだまだ改善しなければいけないところはある。明日になれば“次のレース”が始まるから、集中力を上げていかないといけない」
日本で活躍したレッドブルジュニアドライバーといえば、2017シーズンに登場したピエール・ガスリー(現在、F1のアルピーヌで活躍中)が記憶に新しいが、もしかすると彼をも上回る逸材なのかもしれない……少々、言い過ぎかもしれないが、それほどのインパクトを受けた2023開幕戦だった。
これが王者の強さ。きっちりと第2戦で優勝
第2戦は王者野尻智紀が優勝
今回はダブルヘッダー開催ということで、日曜日には早速第2戦がスタート。ここで強さをみせたのが、王者・野尻(TEAM MUGEN)だった。
晴天ではあるものの、風が冷たかったこともあり、タイヤのウォームアップが鍵となった第2戦の予選。Q1でトップタイムを出した野尻だが、Q2で計測3周目から1周増やした計測4周目にタイムを出しに行く作戦に急きょ変更。自身のQ1タイムから1.3秒も更新する1分21秒196をマークし、開幕2戦連続でポールポジションを奪った。
「(Q1Bグループの)リアムの走りをみて、計測4周目に切り替える決断をしました。僕は計測3周目でいきましたが、タイヤのウォームアップが足りていない感じだったので」と予選を振り返った野尻。相手は、スーパーフォーミュラでデビューウィンという偉業を成し遂げたライバルという存在なのだが、逆に彼の良いところを、自身の走りに取り込み、第2戦富士での快進撃に活かした。
これで、流れに乗った野尻。午後の決勝レースでは、大湯都史樹(TGR GrandPrix)にトップを奪われるも、冷静に周回を重ねていき、10周目のピットストップで逆転。後半スティントも見事にマシンとレースをマネジメントし、2023シーズン1勝目を手にした。
これで、一気に41ポイントまで伸ばした野尻。ランキング2番手のローソンに対して、早くも14ポイントのリードを築いた。
なかでも特筆すべきは、2連戦の2レース目で勝ったというところ。昨シーズンの傾向をみていても、いくら1レース目で勝てても、2レース目の結果が悪いと、次大会に向かう時のテンションが最高な状態にならないのだが、今回の野尻は2レース目を優勝で締め括ったことで、本人だけでなく、チームもポジティブな状態で、鈴鹿大会に向かうことができている。
「まだ3連覇は意識していないですけど、今回の結果で他の選手たちが『遅れをとっているな』と感じてくれることで、より僕たちにとってはレースをしやすくなります」と野尻。もちろん、計算を立てても全てがうまく行く世界ではないが、こうして全ての流れを自分たちの手で引き寄せられるのが、強さの秘訣でもあるのだろう。
舞台は、第3戦鈴鹿へ。野尻&ローソンを止めるのは誰だ?
第3戦の舞台は鈴鹿。TEAM-MUGENを止めるのは誰だ?
富士大会の2連戦から2週間。スーパーフォーミュラは早くも次の開催地である鈴鹿サーキットに向かう。新しくなったマシンとタイヤを速く走らせる術を、どのチーム・ドライバーが見つけるかが、開幕時のポイントだったが……結局のところ、それらをいち早く掴んだのは、昨年のチャンピオンチームであり、チャンピオンドライバーだった。そこに周囲も驚くほどの適応力をみせるローソンが加わったことで、現時点でTEAM MUGENに死角が見当たらない状況。おそらく、今週末の第3戦鈴鹿も、彼らが先行していく展開になるかもしれない。
それでも、3月の鈴鹿公式テストで、抜群の安定感を見せていた山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)のパフォーマンスも見逃せないほか、富士大会の予選では野尻に食い下がり、4戦連続でフロントローを確保した宮田莉朋(VANTELIN TEAM TOM’S)や、決勝ペースでは野尻をしのぐ速さをみせた平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)の動向も気になるところ。そして何より、野尻にとって最大のライバルとなりうるのは、僚友であるローソンだろう。
3連覇に向けて、王者野尻が、さらにポイントを広げるのか。それとも、ライバルの誰かが止めにかかるのか。早くも2023シーズンの行方を左右する、最初のターニングポイントとなりそうだ。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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