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モーター スポーツ コラム 2022年11月17日

カルソニックブルーが27年ぶりに戴冠。それを決定づけた“最終戦でのターニングポイント”

モータースポーツコラム by 吉田 知弘
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GT500クラスを制したNo.12 カルソニック IMPUL Z。

4月の開幕戦から毎戦にわたって激闘が繰り広げられてきた2022年シーズンのSUPER GT。今年は3年ぶりにモビリティリゾートもてぎを舞台にして最終戦が行われた。

第7戦オートポリスを終了して6台がチャンピオン獲得の可能性を残しているGT500クラスだが、このうちNo.3 CRAFTSPORTS MOTUL Z(千代勝正/高星明誠)が、58ポイントで首位、No.12 カルソニック IMPUL Z(平峰一貴/ベルトラン・バケット)が55.5ポイントで2番手、Astemo NSX-GT(塚越広大/松下信治)が54ポイントで3番手につけ、この3台が自力でチャンピオンをできる範囲内にいた。

どの陣営に取っても、1年の全てがかかっている勝負の1戦ということもあり、金曜搬入日からパドックはいつもとは違う緊張感に包まれていた。今回、ピット出口側のエリアにピットを設けているホンダ勢は、17号車が1番端(出口側に近い)になるように配置。日産勢も、タイトルを争う3号車と12号車のピット位置も離れた場所になるように配置されていたほか、取材で各陣営の表情を伺っても、かなりライバルの動向を警戒している様子が感じられ、例年以上に“ピリピリした雰囲気"が漂っていた。

【明暗分かれた予選】

渾身の走りで今季初のPPを獲得したNo.100 STANLEY NSX-GT。

そんな中で始まったレースウィーク。SUPER GTでは予選・決勝前の練習走行時間が非常に限られており、走り出しからの流れが重要となる。極端に言えば、良し悪しで全てが決まってしまうこともあるため、公式練習での各車のタイムは、そのレースを占う上では資金石となるのだが……そこで、まさかの苦戦を強いられたのは17号車だった。

前回の第7戦オートポリスで、公式練習でのクラッシュから見事な復活を果たし今季初優勝を獲得。ホンダ勢としては唯一“自力でのチャンピオン獲得圏内"に進出した。今回のモビリティリゾートもてぎでも、過去に優勝経験があるなど、17号車のみならず、ホンダ勢に取っては地元であり得意なサーキットだったのだが……17号車は土曜朝の公式練習から歯車が今ひとつ噛み合わず、予選担っても苦戦。結局、Q1は10番手となり、後方グリッドに沈むこととなった。

それまでは、特に慌てた様子もなかったのだが、Q1敗退以降は、ピット裏に近づくのも難しく感じるほど、重苦しい空気に包まれた。

これに対し、3号車と12号車は順当にQ2へ進出。ノーウェイト勝負の最終戦で、どの車両がポールポジションを奪うのかに注目が集まったが、ここでトップに躍り出たのが、17ポイント差で奇跡の逆転を狙うNo.100 STANLEY NSX-GT(山本尚貴/牧野任祐)だった。

Q1で山本がトップタイムを叩き出すと、Q2担当の牧野も渾身の走りを披露。前戦のオートポリスでは、後一歩のところでポールが取れず悔しい思いをしたが、そのリベンジを果たすかのように、コースレコードを記録する1分35秒194をマークし、今季初のポールポジションを手にした。

これで、ポールポジションボーナスの1ポイントを追加し、トップとの差を16ポイントに縮めた100号車コンビ。奇しくも、昨年の最終戦で逆転された時と同じ“16ポイント差"となった。

「可能性がある限り、最後まで絶対に諦めない」と力強く語る山本。3年連続で大逆転の予感をさせた予選Q2のセッションとなった。

その後、ポールポジション記者会見が行われ、夕方は各チームへ取材に行く時間となるのだが、ここでパドック内に“ひとつの変化"が起きていた。

17号車のQ1敗退により、自力でのチャンピオン獲得圏内にいる12号車(予選3番手)と3号車(予選4番手)に注目が集まることになった。

予選後に両チームのもとを訪ねると、明らかに違う雰囲気を感じた。2.5ポイント差でランキングトップに位置する3号車の千代と高星は、揃って「12号車の前に出られなかったことが悔しい」とコメント。確かに、この2台の直接対決という部分では、前に出た方がチャンピオンという、いたってシンプルな条件だった。わずか1グリッドの違いとはいえ、同じ日産Zを使う“ライバル"に先行されたことに、コメント以上の“焦り”を感じていたように思えた。

それとは対照的だったのが12号車の平峰&バケットだ。今シーズンの12号車はランキング首位を快走してきたこともあり、それに伴うサクセスウェイトの影響もあって、なかなか上位に食い込むことができなかった。それが、ノーウェイト勝負の最終戦で今季ベストとなる3番グリッドを獲得した。

「今年はずっと予選のペースに苦戦していて、良くても7番手とか8番手だった。ノーウェイトだったこともあるけど、最終戦で今季ベストグリッドを獲得できたのは本当に嬉しいことだ」とQ2担当だったバケット。いつも取材の時は笑顔で対応してくれるのだが、今回はいつもと違うというか、大きな課題をクリアできたという清々しさを感じることができた。

相方の平峰はいつもクールな感じで、取材の時も決して多くは語らず、今回も「タイムとポジション自体はよかったのかなと思いますが、大事なのは明日(決勝)です」と控えめなコメントだったものの、その表情をみると今までにない笑顔をみせているように感じられた。

もちろん、予選でライバルの前に出られたというのは、喜ばしいことなのだが、それ以上に“何か”を掴んでいた様子だった12号車ピット。もしかすると、この時から流れを手繰り寄せていたのかもしれない。

【ファイナルラップの最終コーナーまで気が抜けなかった決勝レース】

スタート直後から激しいバトルが続いた最終戦・決勝

迎えた日曜日の決勝レース。グリッドポジションを考えると、実質的に3号車と12号車の一騎打ちとなったのだが、スタート直後から明暗が分かれる展開となった。12号車のバケットは、2番手を走るNo.19 WedsSport ADVAN GR Supra(国本雄資)を攻略しようと3コーナーでインに飛び込んで前に出ようとするが、勢い余ってアウト側に膨らんでしまった。

その隙をついたのが3号車の千代。4コーナーでインに飛び込んで並びかけようとするが、逆に背後のARTA NSX-GT(野尻智紀)に迫られ、この2台が並んで5コーナーに進入。その時に姿勢を崩してしまった3号車は8号車に当たってしまい、相手をスピンさせてしまった。

これにより3号車はドライブスルーペナルティを受け、一時は最後尾まで後退。これで、12号車が俄然有利になったかと思われたが、レースはどんどん荒れ模様となっていく。9周目の3コーナーで、GT500とGT300の計5台が絡む多重クラッシュが発生した他、セーフティカーランの間にもGT300クラスでクラッシュが起きるなど、今年も最終戦は波乱の展開となった。

気がつくと、12号車の背後に予選で下位に沈んだはずの17号車が追いつき、レース再開後は王座をかけて、激しいオーバーテイク合戦を繰り広げた。一度は17号車(松下)の先行を許したバケットだったが、再び抜き返し、自力チャンピオンの可能性を残す3台の中では、トップを死守した。

レース3分の1となる22周を過ぎると、各車続々とピットストップを行い、後半スティントに突入。ここでチームインパルのメカニックたちは迅速な作業で12号車を送り出し、19号車を逆転して2番手に浮上。トップを走る100号車にも迫る勢いをみせた。

このままいけば12号車のチャンピオンは確実だったのだが、このまま終わらないのがSUPER GTの難しいところ。30周を過ぎるとNo.14 ENEOS X PRIME GR Supraが背後に接近すると、序盤のペナルティで後退した3号車も驚異の追い上げをみせ、残り12周というところで、4番手に浮上。すぐさまトップ集団に追いついたのだ。

前後のマシンが接近しているという緊迫した状況のなかで、ひとつのミスも許されなかった12号車の平峰だったが……1年の中でも最も踏ん張らなければいけない場面で、彼の真の強さが発揮された。

ドライバー交代から約40周もの間、接近戦を繰り広げながら、全くミスをせず、相手に隙も見せない走りを披露。優勝には手が届かなかったが、チャンピオンを決定づける2番手のポジションを守りきり、チェッカーフラッグを受けた。

それまで張り詰めていた緊張から解放された瞬間、コックピット内で平峰は大粒の涙を流していたという。

「前日から『(セカンドスティントは)40ラップくらい行くからね』とは聞いていたんですが……まぁ長かったです。人生でこんな長い40ラップはないなっていうくらい……長かったです。もし17号車と3号車がきても、彼らに1ミリでも前に出られなければ、僕たちがチャンピオンだっていうふうに思っていました」

「チェッカーを受けたら、また勝手に涙が出てきて……。何年も前に自分が挫折した1年もあったんですけど、そこからここまで這い上がってくるまでに支えてもらったいろんな人たちの顔が浮かんで……ほんとに感謝、感謝です。そして僕を使ってくれている日産、ニスモ、そして星野監督に心から感謝しています」(平峰)

そして、今季は日産に移籍し、チームインパルに加入したバケットにとっても、長年彼が待ち望んだ歓喜の瞬間となった。レース後、ピットで取材をしているところで、ちょうどバケットと出くわしたのだが「9年だよ! 本当に長かった! やっと(チャンピオンを)獲れたよ!」と興奮していたのが、印象的だった。それまではヨーロッパをはじめ、海外の舞台で活躍していたバケットだが、2014年にSUPER GT参戦を開始。そこから9年間、彼がずっと頂点だけを目指して戦ってきた想いが、ついに叶った瞬間だった。

「タイトルを手にすることができて本当にうれしいし、感謝の気持ちでいっぱいだ。SUPER GT参戦9年目にして、ついに成し遂げたタイトル。このレースに参戦して間もないころは、本当にタフなことが多く、苦戦したこともあったが、ホンダでいろいろ勉強をさせてもらい、タイトルに近づくようなシーズンも何度かあった。そして今年、チームインパルから参戦が決まり、日産/ニスモの皆さんが迎え入れてくれた。そして星野監督を筆頭に、チームスタッフみんなで僕を鼓舞してくれて、奮闘するきっかけを与えてくれた。本当に感謝している」(バケット)

パルクフェルメでは号泣する平峰を笑顔で迎え、声をかけるバケット。そこに加わったのが、彼らを見守り続けた星野一義監督だった。特に平峰は「オレがもう一度磨き直してやる!」と手塩に掛けて育ててきたドライバーのひとり。号泣する平峰のもとに歩み寄り「よくやった」と声をかけていた。

【誰よりも、王座獲得の喜びをじっくりと噛みしめる“元祖 日本一速い男”】

チームインパルにとって27年ぶり戴冠となった。

毎年、開幕前には「今年はチャンピオンを獲る!」と力強く宣言していた星野監督だが、それを達成できない日々が続き、プレッシャーとストレスが積もっていた様子。チャンピオン決定後は、ホッとしたような落ち着いた表情を見せていたのが、印象的だった。

「バケットも平峰も、レースで追い上げていく中で(他車と)絡まない。そこが素晴らしいし、やっぱりプロだなと思います。それが結果として表れてチャンピオンになれたのだけど、スタッフも完璧なピット作業をしてくれた。スーパーフォーミュラでもそうだけど、今のうちのスタッフは(ピット作業の速さでは)いつもトップだよ。それにクルマに関しては大駅(俊臣エンジニア)が中心に考えてくれて、レース中のピットのタイミングなども(テクニカルアドバイザーの星野)一樹がいろいろ計算してくれて……。本当に良いチームになったなと思います」(星野監督)

チャンピオンを獲るために、ドライバーだけでなく、チームスタッフの育成にも力を入れていたチームインパル。その効果が存分に発揮されたのが、今シーズンだったことは、いうまでもない。加えて、エンジニア側では昨年SUPER GTを引退し、テクニカルアドバイザーとしてチームに加わった星野一樹が大活躍。エンジニアとドライバーの間に立って、特に戦況に応じた戦略面での対応力というところは、格段に上がった。

これらが融合して、今シーズンは特に決勝レースでの強さが際立った12号車だったが、記事冒頭でも触れた通り、最終戦の予選では、これまで課題だった一発の速さを克服し、ライバルよりも前のグリッドを獲得した。今季一番の勝負どころで、最後のピースを埋めることができたことが、歓喜の瞬間に一歩近づくきっかけとなったのかもしれない。

まだシーズンが終わったばかりなので、今後のことについて触れるのは時期尚早かもしれないが……カーナンバー1をつける来季のチームインパルは、ライバルからすると、相当手強い存在に映っていることは、間違いないだろう。

文:吉田 知弘

吉田 知弘

吉田 知弘

幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ

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