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第7戦で奇跡的な優勝を果たしたNo.17 Astemo NSX-GT。
2022 SUPER GT第7戦オートポリス。チャンピオン争いへの“最後の切符"をかけた大事な1戦ということで、いつも以上に激しい争いとなった。その中で、トヨタ、ホンダ、日産がしのぎを削るGT500クラスでは、またひとつ、名場面ともいえるストーリーが生まれた。
土曜日の公式練習ではホンダ勢が速さをみせ、セッション序盤からタイムシートの上位に名を連ねた。今季はここまでライバル陣営に先行されることが多かったのだが、以前から得意とするオートポリスではライバルを上回るパフォーマンスをみせていた。
そんな中、GT500の専有走行が始まり、各車が予選アタックのシミュレーションに入っていったのだが、そこで飛び込んできたのがNo.17 Astemo NSX-GTのクラッシュ映像だった。これにより11時20分に赤旗中断。公式予選の出走を考えると、マシン修復に費やせるは、約3時間程度しかなかった。
J SPORTS 放送情報
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SUPER GT 2022 第8戦 モビリティリゾートもてぎ予選
放送日:2022年11月5日(土) 放送時間:午後 2時 00分~
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SUPER GT 2022 第8戦 モビリティリゾートもてぎ決勝
放送日:2022年11月6日(日) 放送時間:午後 0時 30分~
映像を見る限りでは、フロントバンパー(おそらくフロントのアンダーパネル)とボンネット周りのダメージで済んでいるかなという印象。サスペンション周りにダメージは及んでいないのではないかと、勝手に憶測していたが、ガードレールにヒットしていたこともあり、ダメージは思った以上に深刻だった。
予選までのインターバル。気になって17号車のピット裏へ様子を伺いに行くと、ちょうどチームマネージャーとバッタリ会った。「今、みんなが頑張って直してくれています!」と笑顔で答えてくれるものの、表情の強張りを見ると、決して楽観視できる状態ではないことは、すぐに察知できた。
12時50分、再び17号車のピット裏に様子を見に行くと、未塗装のボンネットが運び込まれ、そこにスポンサーのステッカーが貼られるなど緊急対応が取られていた。パッと見ではスタッフの動きも落ち着いた感じで“修復の目処が立ったのかな?"と、こちらも一瞬安堵した。
しかし、ちょうどGT300クラスの予選Q1開始まで15分を切っても、メカニックたちが激しくピット周りで動き回っており、肝心の17号車の車体はタカウマに乗せられたまま。
“もしかすると、間に合わないかもしれない…"
ことの重大さに気づくのに、そう時間を要することはなかった。
コース上では、GT300クラスの予選Q1が始まっていたが、頭の片隅では17号車のことが気になって仕方がなかった。
そして、GT300のA組、B組のQ1が終了した直後、各パーツが装着され、最後にタイヤが取り付けられようとしている17号車が公式映像に映し出された。まさに、GT500のQ1開始5分前のことだった。
しかし、チームもマシンの修復が手一杯で、マシンセッティングのことまでは手が回らなかった。17号社担当の田坂エンジニアによると、特にフロント周りのアライメントはチェックできずに、“午前のまま"でマシンを送り出すことになったという。Q1が終わった後に定盤を使ってチェックをすると、かなり狂っていたとのこと。そういった完璧ではない状態のなかで、チームが繋いでくれたチャンスを大きくする働きをみせたのが、午前中にクラッシュを喫してしまった、松下本人だった。
「『(クラッシュで)流れを崩してしまったな』という感じはありましたが、(『これくらい絶対に直してやるから、走りに集中して、何も気にせず待っていてくれ』とメカニックさんに言われて…ものすごく嬉しかったし『信じてくれているんだ』というの感じました」
「ドライバーはクラッシュしてしまうと、次に思い切って行けなくなってしまいがちで、そことのせめぎ合いでしたけど、何とかQ1を突破することができました」
松下 信治
松下は見事、Q1を8番手で通過。Q2では先輩の塚越広大が見事な走りをみせて4番グリッドを手にした。
もし、マシンの修復が間に合わず、予選に出走できなかったら……。そんなことを考えながら、金石勝智監督は、このように語る。
「もし、これでQ1を走れなかったら……嘆願書を書くところから始まるので、それだけで気が滅入ってしまいます。でも、あの状況のなかで、時間どおりに直してくれたメカニックと、良い走りをしてくれたドライバーたちに感謝です」
まさに、このオートポリス大会だけでなく、シーズンのチャンピオン争いに残れるか否かがかかった大一番。そこで予選前にクラッシュという“大ピンチ"を乗り越えた17号車メンバー。予選Q2を終えた後、翌日に向けたセットアップを進める各チームをよそに、17号車のメカニックたちは、ピット裏のテント内に設置されたテーブルを囲んで、数時間遅れの“昼食タイム"をとっていた。そのメカニックたちに寄り添う松下。まさに、チームの絆がより一層深まった瞬間のように見えた。
こうして、予選で失いかけた流れを取り戻した17号車陣営は、決勝レースでさらなる飛躍を見せた。
前日の予選と同様に、ボンネットは未塗装のまま。気がつくとチーム関係者の間では「Astemo NSX-GT Black Edition」と名付けられていた。
4番手からスタートした17号車は、前半スティントを松下が担当し、抜きどころが少ないオートポリスで確実にチャンスを見つけて、3番手に浮上した。さらに23周目のピットストップではチームのメカニックがここでも大活躍。迅速に作業を済ませて、一気にトップに躍り出ることとなったのだ。
後半スティントを担当した塚越は、序盤こそ後続に詰め寄られる場面があったが、徐々にペースを掴んでいき、リードを広げていった。残り10周を迎えるころには独走状態となっていたが、最後まで気を緩めずに走りきり、今シーズン初優勝をマークした。
前日のクラッシュという大ピンチを乗り越え、大逆転を果たした瞬間だった。
チェッカーの瞬間、チームクルーは喜びを爆発させた。
レース後、パルクフェルメから帰ってきた17号車の前で、自らのスマホを取り出して、記念撮影をする17号車メカニックたちの姿があった。それを見つめる金石監督は「この週末は、あのクラッシュから時間通りにメカニックたちがクルマを直してくれたことに尽きると思います。本当に感謝です。これでメカニックを始め、チームのみんなも嬉しいでしょうし、これが自信になったと思います。だいぶ強いチームになってきたなという感じがしました」と、笑顔で語っていたのが印象的だった。
これで、日産勢の争いになるかと思われていた今季のチャンピオン争いに、土壇場でホンダ勢が加わることとなった。第7戦を終えたランキングを整理すると、No.3 CRAFTSPORT MOTUL Z(千代勝正/高星明誠)が58ポイントでトップ、No.12 カルソニック IMPUL Z(平峰一貴/ベルトラン・バケット)が2.5ポイント差で2番手、そして17号車の塚越広大/松下信治組が4ポイント差の3番手につけた。
繰り返しにはなるが、今季はずっと日産勢が優勢と言われてきたなかで、最終戦につながる重要な1戦を17号車が劇的な形で制した。ここで生じた“新たな流れ”が、最終決戦での勝敗を左右する鍵のひとつになるのではないかと感じている。SUPER GTは、ドライバー、チーム、マシン、タイヤなど、全ての要素が最高な状態で揃わないと勝利につなげることが難しいのだが、特にチャンピオン争いに関しては“流れ”というのも、少なからず大事な要素となってくる。
そういう意味で、この第7戦の17号車の奮闘ぶりが、どこまで流れを呼び込むことができたのか。最終戦でのGT500王座争いが、ますます楽しみになってきた。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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