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モーター スポーツ コラム 2022年9月29日

堤優威選手(No.2 muta Racing GR86 GT)「僕が失敗しなきゃ勝てる状況だったので、うれしさよりも安心の気持ちが勝さった」

SUPER GT あの瞬間 by 島村 元子
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レース後に加藤選手と抱き合って勝利を喜ぶ堤選手

レース後に加藤選手と抱き合って勝利を喜ぶ堤選手

レースでの出来事をドライバー自身に振り返ってもらう「SUPER GT あの瞬間」。レースでの秘話、ドライバーのホンネを”深掘り”し、映像とコラムでお届けします!

今シーズン、GT300クラスにお目見えしたGR86 GT。前回の第5戦鈴鹿で表彰台に上がると、今回SUGOでは No.2 muta Racing GR86 GTの手により初勝利を達成した。ベテラン加藤寛規と今シーズンからコンビを組む堤優威にとっては自身2勝目となったが、前回とは大きく異なる”勝利の味”だったようだ。

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──チーム移籍後の初優勝でおめでとうございます。昨年の第3戦鈴鹿の自身初優勝と、また違う喜びだと思います。

堤優威:今年からチームが変わり、チームもGR86(GT)という新しい車両での参戦となり、チームメイトの加藤(寛規)選手も今までのLotusから新型車両のFR……フロントエンジンのレースカーに乗るということもあって、結構チームとしても苦戦を強いられたシーズンだったのですが、その中で諦めずに攻め続けた結果が優勝という形に繋がって非常にうれしいです。

──チームでは、SUGOに向けてどのような準備をして挑みましたか?

堤:SUGOってなかなかテストもできないし、今年はずっとデータもない中で毎戦毎戦、大会でデータ取りというかセッティングもその場でやるような状況でした。SUGOも推測でセッティングだったりタイヤの選択をしていたので、特に”SUGOのために何かした”というわけではなくて、常に進化を続けていく中でたまたまそれがSUGOに合ったと。いつもクルマ的にはタイムが出るんですけど、なかなかレースになると勝負にならない、他車との競り合いが弱いところがあって……。そういうところで今回はドライでも予選でも調子が良かったし、決勝はタイヤのおかげで勝てたかなと思います。

──担当した予選Q1・B組は2番手通過。今シーズンから投入されたGR86 GTを、どこまで乗りこなすことができていると思いますか?

堤:自分で言うのも何なんですけど……結構乗りこなせてるかなっていう自信はあります。なぜかと言うと、昨年はMAX Racing(244号車)さんで、同じGT300車両表記のGR Supraに乗せていただいたので。今年のGR86 GTとは形は違いますが基本的な走らせ方は似ているので、昨年の経験が非常に活きてるかなと思います。

──レース直前のウォームアップでは4番手のタイムをマーク。決勝に向けてかなりいい手応えがありましたね。

堤:ウォームアップもそうですが、前日の練習走行でも比較的チームにとってというかクルマにとって厳しい状況……つまり、ガソリンを結構多く積んだ状況の中でも非常にいい動きはしていたので、決勝のペースに関しては、すごく自信がありましたね。

No.2 muta Racing GR86 GT

No.2 muta Racing GR86 GT

──序盤に雨が降りはじめ、加藤選手は14周目終わりでピットイン。ウェットタイヤへ交換し、さらに給油も行なってコースに復帰しました。スリックタイヤでステイアウトする他チームもいる中、着実にポジションを上げる加藤選手をどんな気持ちで見ていましたか?

堤:当初の予定だと、セーフティカー等も考慮して一番早くドライバーチェンジをできるミニマム(の周回数)で(ピットに)入り、僕に代わる戦略だったんですが、ドライバー交代ができない時間に雨が降ってきて。結局、ピットインしてレインタイヤに替えたのですが、僕らが選んだタイヤがたまたますごくコンディションにマッチしたんです。僕はいつでも走れるように23周目からずっと準備はしていたんですけど、加藤選手のペースがすごく良くて。気持ちとしてはうれしいんですけど、(ピットで)待ってる自分としてはどんどんプレッシャーがかかってくるような状況で(苦笑)。すごい変な気持ちになっちゃいました。

──ペースもよく、タイヤもいい状態だったので、結果的に(ピットインのタイミングを)伸ばせるところまで伸ばして交代しようという戦略に変わったわけですね。

堤:もしかしたらまた雨が降るかもしれないし、乾くかもしれないし……。結果的には乾いたんですけど、ぎりぎりスリックで(コースに)出ても危なくないぐらいまで(ピットインを)引っ張れたことが、非常に大きな勝因だと思います。もし、最初のピットイン時に給油をせずに行ってしまってたら、もっと早くに(ピットに)入らなきゃいけなかったし、そうなると結構まだ雨が降ってたりしたので、スリックタイヤで行く気持ちや作戦にはならなかった。本当にタイヤとチーム戦略が組み合わさったおかげです。うまく運良くいけたのかなと思います。

──ルーティン作業を兼ねたピットインは、上位争いをしている他車より少し遅れたタイミングでした。まだガソリンが残っていたこと、タイヤもまだ行けるし良いペースが続いていたこともあり、49周目になったということですか?

堤:そうですね。あの状況では、スリック(タイヤ)に替えるタイミングがやっぱり結構難しくて。スリックに替えた他チームのタイムと比べて、僕らはレイン(タイヤ)でまだ引っ張ってもタイムが速かったので、考える時間があったというか他のチームのタイムを見てから、自分たちはしっかりと安心した状態でスリックに替えるという時間もありました。そこはすごく大きなポイントでしたね。

──コンビを組むベテランの加藤選手からは、一緒にレースをして学ぶことも多いと思います。具体的にどんな影響を受けていると思いますか?

堤:いろんなクルマに乗ってきた選手なので……もちろんGTだけじゃなくて、フォーミュラカーだったりル・マンにも出場されていて、本当に経験豊富で。いろんな走らせ方を今までやってきている一方で、最初は僕の方がクルマ(GT300車両)に慣れている分、タイムが良かったんです。けれど、コーナーによって加藤さんの走らせ方を参考にさせていただいたりとか、非常に助かってます。レース以外では、ドライバーとしては「こうした方がいいよ」というアドバイスをよくいただいてます。ありがたいです。例えば、今年GR86 GTは開発というかどんどんクルマを良くしていく目的でチームと仕事をやってるんですが、 例えば、何か試した時にただ”悪い”と言うだけじゃなくて、”ここはこんなふうに悪いけど、逆にここはこんなメリットがあります”といったような伝え方とか……。開発ドライバーとしての仕事のやり方など、レース以外の部分でもすごく教わっていますね。

──レース後半は、スリックタイヤで堤選手が担当。コースインした直後の路面やタイヤの状況はどんな感じでしたか?

堤:まずタイヤを選ぶとき、自分が予選で使ったタイヤか加藤さんがスタートで……14周走ったタイヤのどっちを選ぶかということになって。少しでも温まっていた方がいいかなと思って加藤さんが使ってたタイヤを選んだんですけど、結果的にそれが意外と早く温まってくれたんです。ただ、アウトラップではピットを出て最初の4コーナーのブレーキかな? もうすごいヒヤッとする場面が正直ありまして。自分でも、「おぉ〜、結構まだ濡れてんだ」と思って(苦笑)。なおかつ「トップで(バトンを)受け取ってんのに、飛び出したらダサいな」と思って、気を付けながら走行しました。まあ、選んだタイヤが加藤さんの使っていたタイヤだったのでしっかりとタイヤの内圧が温まっていて、2周目ぐらいからもう普通に走れたので、そこはいい選択だったかなと思います。

──SUGOの話から少し逸れますが、雨が降り始めたときにタイヤをかえるタイミングをどのように決めるのでしょうか?

堤:ドライとレインのタイム差として、基本10秒差ぐらいを目安に見てます。ドライのタイムから6秒落ちぐらいだったらまだまだスリックで行った方が速いですし、ドライバーがもう無理だと思っても意外とレインに替えたらもっと遅い場合もあるんで。感覚的には4秒ぐらい落ちるともう厳しいって思うんですけども、結果的にはそのまま頑張った方が速いっていうことがよくありますね。もちろん、チームとのやり取りで、レインに替えた方がいいかスリックのまま行った方がいいかっていうのは、常に情報交換をしてます。

──一定のレベルを超過すればスリップすると思いますが、どのように体感するのでしょうか?

堤:僕の場合、一度大きくヒヤッとすることがあれば、そこから徐々に状況に合わせています。ただ、徐々に合わせるタイプか一回限界を超えてわかるタイプか、ドライバーによって多分違うと思います。僕は一旦限界を超えて路面の状況を知るタイプですね。SUGOでは、最後、僕のスティントのときに雨が降ってきて……残り13周ぐらいでしたが、その時もSP(コーナー)の一個目ですごいアンダーが出ちゃって曲がらなくて。”うわっ、飛び出す!”って思ったんですけど、そっからちょっとペースを抑えて走りました。常に周りの状況を見て、路面の色が変わったりとか、窓ガラスにつく水滴の量やスピードだとか、そういうのも見ながら判断してますね。

──では、再び話をSUGOに戻します。ドライバー交代直後にキモを冷やしたものの、その後はほぼ独走となりました。逆にいらぬ心配というか、プレッシャーが出てきませんでしたか?

堤:僕がスリックで走ってる時に、(心配した)まずひとつ目が雨ですね。雨が降ってきて、他社タイヤさんはその雨の中でもスリックで頑張れることをスタートしたあとに見てたので、これ以上(雨が)強くなったらレインに替えなきゃいけないなってぐらい、ちょっと一回ドシャと降っちゃったんです。その時が怖かったのと、あと、コース上でスピンしちゃってる車両とかの影響で、SC(セーフティカー)が入るんじゃないかって思って……。で、(リザルトでは)結果的には(2位がトップに対して)1周遅れって出てますけど、おそらく45秒ほどで……GT500との兼ね合いで(リザルト的には)1周遅れになってたんですけど、SCが入っちゃうとそこが詰まってすごい余計プレッシャーになるんで、「頼むから、誰も止まらないでくれ」と思いながら走ってました。特にすごく難しいコンディションだったのはコース上にいた誰もがわかってるし、すごく大変な走行だったんですけども、そのギャップが大きかったので自分的にもすごい安心、安定する走りを……あまり無理せず周回遅れもしっかりと抜きやすいところでパスしたりとか、そういう気遣いができたのは前半の加藤さんの走りとチームの戦略のおかげかなと思います。

表彰台でトロフィーを掲げる加藤選手と堤選手

表彰台でトロフィーを掲げる加藤選手と堤選手

──迎えたファイナルラップ。すでに独走状態でしたが、どのような気持ちで走りましたか?

堤:チームから無線で「ファイナルアップだから頑張って」って言われて、わかってるけど”絶対ミスれない、もうここで飛び出したら映像も抜かれるし、自分の(ドライバー)人生も終わっちゃう”って思いつつ、すっごい気をつけながらだけど攻めながら走りました。やっぱり(アクセルを)抜きすぎてもいけないし、なんか今までどおり走ろうかなと思って。緊張しましたけどあまり抜きすぎもせず走りました。

──張り詰めていた気持ちが緩んだのはいつでしたか?

堤:最終コーナーを上がってきたときですかね。最後コーナー上って下って……でチェッカーなんですけど、最終コーナーをしっかりクリアした時点で、安堵の気持ちというか「あ〜良かった」って。ホッとしました(笑)。もう、”ヨッシャ!”っていう感じより、ホッとしたっていうほうが大きくて。正直、チームのほうが喜んでたんじゃないかなってぐらいです。もう、僕に交代するときにほぼほぼ勝利が見えていた形だったし、あとは僕が失敗しなきゃ勝てる状況だったので、うれしさよりも安心の気持ちが勝さってましたね。

──開発に苦労をされたチームとしては、GR86 GTそしてブリヂストンタイヤとの初優勝という大きな成果を上げることができました。

堤:新型のGR86 GTという車両で勝ったのが大きいです。今年は(GT300で)ブリヂストンタイヤさんがなかなか勝利がなかったので、その中で勝利できたのも大きいですし、自分自身にとっては通算2勝目ですが、一年に一回勝っているのはすごく大きなことかなと思います。

──目前のオートポリス戦は37kgのサクセスウェイトで臨みますが、目標は?

堤:例年どおりだとブリヂストンタイヤが結構有利なサーキットだと思っています。チャンピオンをもちろん目指してはいるんですけど、その中でクルマ、タイヤ、ブレーキともに最大限のパフォーマンスを発揮して、しっかりといい結果につなげられるよう、全力で取り組みたいと思ってます。実のところ、オートポリスと僕の相性はめちゃくちゃ悪いので(苦笑)、今週のレースに向けていい結果が出るといいなと思ってます。

──それでは、最後に恒例のここ直近の「ちょっとした幸せ」を教えてください。

堤:今、86レースで毎年、十勝(スピードウェイ)来るんですけど、帯広で昨日初めて行ったスープカレー屋さん……阪口良平選手に教えてもらったところすごいおいしくて。幸せというか、来年も絶対行こうって思いました。おいしくって、おしゃれで、皆さんにおすすめしたいなっていうスープカレー屋さんでしたね。帯広のアパホテルの近くにある”夜のスープカレー屋さん”って言って、夜から朝方にかけてやってるスープカレー屋さんなんですけど、野菜もゴロゴロ入ってるしすごいおいしかったです。舌が大人になったこともあるかもしれないですけど(笑)、スパイスも効いてて、スープカレーおいしい! って初めて思いました。

文:島村元子

島村元子

島村 元子

日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。

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