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笹原右京選手(No.16 Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT)「雨が降ってきたときの判断として、僕らの頭の中にはもうステイアウトしかなかった」
SUPER GT あの瞬間 by 島村 元子3位表彰台でトロフィーを掲げる笹原選手と大湯選手
レースでの出来事をドライバー自身に振り返ってもらう「SUPER GT あの瞬間」。レースでの秘話、ドライバーのホンネを“深掘り”し、映像とコラムでお届けします!
第6戦SUGOの決勝。序盤に雨が降り出し、その後も変化する天候と路面コンディションを味方につけ、いかにしてライバルを出し抜くかがカギとなるレースが繰り広げられた。的確かつ冷静な判断の下、コース上のドライバーふたりが着実に力を出し切り、今シーズン待望の表彰台を手にしたのがNo.16 Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT。チーム3年目の笹原右京には、率直にうれしいと思える3位だったという。
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──待望の今シーズン初となる3位表彰台を獲得。まずはお気持ち聞かせてください。
笹原右京:率直にうれしかったですね。僕自身としては(2020年第4戦もてぎに次ぐ)2回目の表彰台になるわけですが、チームがダンロップ(タイヤ)に変わって初めての表彰台で。昨年も(表彰台が)獲れそうなレースや場面はいくつかあったんですが、“本当にレースって難しいな”っていうのを、僕らは日々感じていたので。前回の鈴鹿では本当に勝てそうな手応えがありながら、セーフティカーだったりいろんなそういった部分で(結果を)残せなかった部分があったんですけど、逆に今回のSUGOはそれを活かし切れたというか、これまでの経験……何をどうすべきかっていうのをチーム全体として力を出し切れた結果として3位だったので。トップの2台(3号車、23号車)には全然及ばなかったんですけれど、チーム全体として、今あるすべてのものを出せたので、素直にうれしい結果だったと思います。
──予選では大湯都史樹選手がQ1をトップ通過。一方で笹原選手が担当したQ2は7番手に。Q2では他メーカーのタイヤユーザーの台頭が影響しましたか?
笹原:そうですね。ただ、今はどういったことでQ2でのパフォーマンスが低下してしまったのか事細かく理解する必要があるというのが率直な気持ちです。(セッション中の)コンディションも変化してるだろうし、シビアなところで戦っているので、そういった細かな積み重ねの部分が、最終的にQ2ではパフォーマンスを発揮できない状態だったのかなとは思うので。本当に結果は悔しいですけれど、ただこれをひとつの事例として(受け止め)、しっかり解析できるか、理解できるかが今後に繋がるとは思うので、今のうちにこういったことを経験できて良かったのかなとは思ってます。
──さまざまな条件下でいろんな引き出しを作ることが重要になりますね。
笹原:はい。SUPER GTはふたりドライバーがいて、タイヤメーカーもそれぞれあるし、常に進化していく、変化していくので基準を作るのがすごく難しい状況なんです。その時その時で変わっちゃうと思うので。今回、決勝は3位でしたが、予選は予選として別に切り分けて(考えて)、分析が必要かなと思います。
──決勝では天気が急変。状況を気にかけた戦略が必要になったと思います。16号車としてはどのようなプランを組み立てていましたか?
笹原:基本的に、「もしかしたら雨が降るかも」というのは事前に頭の中にはありました。もちろん、どういうストラテジーで行くかは決まっていたんです。その中で「雨が降ったらどうする、こうする」っていうのもある程度幅を持たせようと話し合っていました。本当に雨が降ってきたときの判断としては、正直僕らの頭の中には基本もうステイアウトしかなかったんですよね。もちろんウェットタイヤがどういうパフォーマンスになるかっていうこともわからなかったし予想もつかなかったけれど、反面、そういったコンディションで走れるドライ(スリック)タイヤが、僕らにあったかなっていう感覚もあったので。あともうひとつは、“もう失うものが何もない”っていう……常に全開でチャレンジしていくっていうのが、この16号車の今のスタイルなので、とにかくチャレンジして……逆に言うと、表彰台だったり大量ポイントを獲得するのは今大会しかチャンスが限られたので。
今回、フルハンデ(ウェイト)での最後のレースになるし、次戦から(搭載ウェイトが)半分になってしまうので、やっぱり何かチャレンジをしていかないと、と思っていました。みんなと同じことをやっていても勝てないという感覚が公式練習のときからあったので、その点をチーム全員が共有して、かつそこでこのストラテジーを判断できたことがすごく良かったなと思います。常にコミュニケーションを取り続けられたことが正しい判断に繋がったのかなと思うので、そこはチーム力ですね。チーム全体の力っていうのが、大きかったと思います。
──チームとしてステイアウトするのが良いという確信があった。つまり、あれはギャンブルではなく戦略のひとつだったのですね。
笹原:そうです。もちろん、最終的にFCY(フルコースイエロー)とか、そういった部分に助けられたっていうのは大きいと思うんですけど、あのタイミングであの順位にいられたことがまず一番大きかったと思います。チーム自ら(表彰台を)掴みに行けたのは、やっぱりこのステイアウトっていうところがあったと思います。あれは、表彰台に乗れるか乗れないかの流れを自分たちが作った大きな一歩だったと思います。
──同時ピットインとなった23号車にはコース復帰時に逆転されてしまいましたが、コースに戻ると大湯選手が活躍を見せました。その様子をどう見ていましたか?
笹原:まずステイアウトしてからもしっかりコースに留まって、他車の(タイヤ)パフォーマンスも影響してか、順位もアップすることができました。ウェットタイヤに替えてからも、確実に今何をすべきかっていう目的をしっかり持って、走りで表してくれたのがわかりましたね。ウェットでもダンロップ勢が速く見える場面もあったと思うんですけど、実は周りのパフォーマンス(の関係)で結構(ペースの)上がり下がりが激しかったり、やっぱり速いところとしては、ミシュランの2台(3号車、23号車)が圧倒的にズバ抜けて速かったので、その中で今大事なことは何なのか、全開でプッシュすることなのか、タイヤをうまくケアしつつもしばらく耐え忍ぶのかっていうことを、僕たちの今までのレース経験値とかその辺の勘みたいな部分で……彼もすごい頭を使ってレースしてたのかなと。その点は本当によく耐えてくれたなって思います。
──36周終わりで笹原選手に交代。引き続きウェットタイヤを装着しましたが、その後コースコンディションが急速に変化しました。
笹原:ウェットタイヤでコースインしたんですが、思った以上に「多分これ、急速に(路面が)乾いてきちゃうな」っていう状況でした。それこそドライバーの心情としては、“コースインしたら最初から最後までとにかく全開で(アクセルを)踏み倒して攻め続けたい”っていう思いはあるんですが、今それをやってしまったら、その先に繋がらないかもしれないという部分が非常にありましたね。本当はもっと速く走れるのに、そうしちゃいけないというか……。葛藤がすごくあったんですよ。ただ、ガマンすることによって先に繋がるっていう、なんとなくの感覚があったので、大湯選手もそうだったんですけど、“耐えるレース”、“ガマンする大切さ”っていう……その思いがありましたね。 ただ、ガマンする、つまり頭をよく使って最終的にどこを目指すのか、何を得るのかっていうところが目的としてしっかりとあったので、コースインのあと、順位はもちろん落としたくないけど今ここで順位を落としても何をすべきかを徹底してやれたことが、その次にドライタイヤに替えるタイミングであったり、展開や流れを引き寄せられたのかなと。レースを振り返ると、それがふたつ目のポイントだったかなと思います。
No.16 Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT
──今回は不安定なコンディション下では、コース上のライバルだけでなく、もうひとりの自分が敵だったかもしれませんね。
笹原:本当に間違いなくそうだったかなっていうのはありました。攻めたい気持ちを耐えた次は、ウェットタイヤで最後まで走れるわけはないと思っていましたし、いずれにせよすごくドライアップしてくることをもう体感してたので。どのタイミングで正しい判断を下せるかっていうのが大事なポイントになると思っていたし、それまでは最低限(タイヤを)持たせないといけないと思ったし。本当にすごく難しかったです。
──そんな中、49周目終わりでピットイン。レース後にコメントされていましたが、 ピットに入りたいと思ったタイミングでチームが指示を出してくれたそうですね。
笹原:事前に、自分からチーム側へ情報をトスしていました。タイヤが結構厳しかったし、路面が結構ドライアップしてきてたので。同時にチームも視野を広くレース全体を見渡していました。もっと早い段階でドライタイヤを履いてたチームもいたので、自分たちの状況と比較しながら他車のタイムとか状況を追いつつ……本当にそういう場面になればなるほど、一周遅れて(ピットに)入るか一周早く入るかで、“運命の別れ道”みたいなところだったので。本当に自分がもう入りたいと思ったタイミングで呼んでくれたのは、常にコミュニケーションが取れていたから。これが一番大きいですね。加えて、(タイヤを)替えてドライでコースインした時に、タイヤを含めてどういうパフォーマンスを発揮するかをちゃんと把握できていたことが、その戦略に踏み切れた一番の要因だったと思います。
──笹原選手からは、「チームと一緒に」、「またチームとミーティングをして……」というコメントをよくお聞きします。チームとは濃密なコミュニケーションが取れているのですね。
笹原:SUPER GTではドライバーがふたりいるし、タイヤメーカーさんもいろいろ関わったりするし、結局のところ最後はやっぱり“人と人”だと思っています。うまくいく、うまくいかないというのは、そこでいかにコミュニケーションを取ってお互いを理解して前に進めるか、なので。そこが大事だというのは、SUPER GTに参戦してからすごく感じています。初めて表彰台を獲ったのは、2020年のデビューのときだったんですけど、あの時と今回の表彰台では、自分の感覚というか、立場がもうまったく違います。今はどちらかというとチームを引っ張っていかないといけないところも結構あるんですが、表彰台に乗るまでの苦労であったり、いろんなことを踏まえても、本当に大変だったということを自分でより理解できました。今は、“次は優勝”というところで、それを目指せる土台がようやく出来上がりつつあると思います。優勝を目指すために、また何か次の一手を考えないといけないし、もっと(チームを)引っ張っていかないといけないと感じてます。
──コンビを組む大湯都史樹とは、お互いライバルという部分で“ヤル気”を駆り立ててくれる存在ではないですか?
笹原:本当に速い選手だと思いますし、SUPER GTでペアを組んで、あんなふうにスピードを出せるパートナーがいるっていうのはとても心強い。本当の意味で、まだまだ僕らふたりの力を存分に引き出せてはいないと思っているんで、本当に力を出せたときは、多分もっとすごいことが起きるんじゃないかなって。そこは、ふたりとも自信を感じてる部分だと思っています。そのために、まず何をしなくちゃいけないかってところをチームと共にコツコツ準備していければなと思ってます。
No.16 Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT
──次戦のオートポリスは、昨シーズン自身初のポールポジション獲得をした場所です。一方、決勝ではタイヤトラブルに見舞われて戦線離脱。今回はリベンジ戦になりますね。
笹原:オートポリスはもともと僕らふたりとしてもすごく好きなコースのひとつで、気持ちよく走れる得意なコースでもあるんです。あと、ダンロップタイヤのパフォーマンスも去年はすごい噛み合ってくれて、ポールポジションを獲得しました。レースではタイヤが脱落するまでトップを走れていたんで、まずひとつ、去年のリベンジをしたいですね。もちろん予選で一番速いタイムを出すことは常に目指してるし、優勝も目指しています。実のところ、毎戦ポール・トゥ・ウィンを目指すっていう気持ちでやってますが、その上で去年は最後の周回まで走ることができなかったのであのまま走ったらどうなっていたかはわからないし、(次回は)その点に関してある程度予想をしていかないといけない。しっかりと日曜日に笑えるようにというか、日曜日に喜べるようにっていうのがチームレッドブル無限として求めているところなので、日曜日にレースが終わった時にSUGOよりも喜べる結果だったらすごくうれしいし、そこを目指していきたいですね。
──それでは、最後に恒例のここ直近の「ちょっとした幸せ」を教えてください。
笹原:さっきの「日曜日に笑えるように」っていう話の続きじゃないんですけど、SUGOの日曜日は、本当に久しぶりに「ある程度笑って帰れる日が来たな」って思ったんです。それだけでちょっと幸せを感じたっていうのはありますね。ドライバーもそうかもしれないですけど、チームのメカニックさんであったりエンジニアさんやレースに関わるすべてのスタッフの人たちが、本当に日々努力して……。僕はスーパーフォーミュラもチーム無限で走らせてもらってるので本当に仲良くさせていただいてるんですけど、コミュニケーションを取る中で、日頃から皆さんの努力する姿を見て感じてたんです。それが結果になって返ってきたらうれしいけど、(レースウィークの)日曜日の結果がなかなか結びつかないことが本当に多かったので……。 今回は優勝ではないですけど、ちょっと報われたというか、喜んでるみなさんの顔を見られて、それだけで幸せでしたね。
──チームの雰囲気もいい方向に変わりましたか?
笹原:ちょっと肩の荷が下りたというか、いい意味で張り詰めた空気が少し柔らかくなったかなっていう雰囲気はあります。どれだけ頑張っても努力しても結びつかないっていう……なんかジレンマみたいなのものをいろいろ感じていたと思うんで、ひとつ結果になって返ってきただけでもすぐに空気が変わったのがわかりました。次のステップや次にすべき努力や準備に向けても、今の16号車というかチームレッドブル無限に一番必要なことだったんだと思いました。というのも、前回(2020年)表彰台を獲得してからここSUGOに至るまで、暗闇の中をひたすらガムシャラに突き進んでるみたいな印象だったので。だから、今回、ある程度の結果をひとつ残せたことは、チームみんなのためにも自分たちのためにもすごい良かったかなと思います。
文:島村元子
島村 元子
日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。
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