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まさに圧勝で第6戦を制したNo.3 CRAFTSPORTS MOTUL Z
スポーツランドSUGOを舞台にして行われた2022 SUPER GT第6戦。今年のSUGOの魔物は様々な波乱を用意していた。
この週末は台風14号の影響か、気温こそ30度を下回っているものの、湿度は常に75%を超えているという蒸し暑さを感じるコンディションとなった。公式練習から予選にかけては目立った混乱もなく終了したのだが、予選後の車検でGT300クラスのQ2トップタイムを記録したNo.96 K-tunes RC F GT3がサクセスウェイト搭載量違反(指定された重量が乗っていななかった)により、タイム抹消。さらにNo.5 マッハ車検エアバスター MC86 マッハ号が燃料搭載量違反(規定されているタンク容量の要件を満たしていなかった)により、こちらもタイム抹消となった。
さらに予選日の夜には前戦の第5戦鈴鹿でGT300クラス5年ぶりの勝利を果たしたNo.4 グッドスマイル初音ミク AMGの谷口信輝が腹痛を訴え救急搬送。診察の結果、虫垂炎であることが判明し、そのまま緊急入院となった。
決勝日のウォームアップ走行時には、5号車が最終コーナーを走っている最中に突然マシンの電源が全て落ちるというトラブルに見舞われ、コース脇にマシンを止めた。乗っていた平木玲次は「一歩間違っていたらクラッシュになっていた」と、いつになく険しい表情を見せた。
“今年もSUGO大会は、何か荒れている……。”
そう感じざるを得ない週末だった。そして極めつけは、決勝レースでの“気まぐれな天候”だ。
各チームが頭を悩ませる天候下で第6戦はスタートした
曇り空の中でレースがスタートし、13周を過ぎたあたりから雨が降り始め、大半のマシンが一斉にピットインしウエットタイヤに交換した。なかにはスリックタイヤでステイアウトを試みたチームもいたが、雨模様となったレース中盤で注目を集めたのが、ミシュランタイヤを履くNo.23 MOTUL AUTECH ZとNo.3 CRAFTSPORTS MOTUL Zだった。
昨シーズン途中から新しい溝のレイアウトを採用したウエットタイヤを現場に持ち込んでいたミシュラン。奇しくもドライコンディションでのレースが続き、実戦投入するのは今戦が初めてとなったのだが、周囲の予想を遥かに上回るパフォーマンスを披露。ライバルに対して1周あたり2秒以上早いペースで周回し、あっという間にワンツーを独占。レースの折り返しを迎える頃には、ライバルたちも“お手上げ”というムードになっていた。
しかし、その2台の“赤いZ”にも分岐点が生まれた。レース後半の44周目。コース後半のSPコーナーでGT300の1台が接触を受けスピン。コースの端に立ち往生してしまった。なかなか再スタートが切れない様子だったこともあり“セーフティカー、もしくはフルコースイエロー(FCY)の導入”が頭の中によぎった2台がピットインを決断。ちょうどレースも折り返しということもあり、23号車は前半スティントを務めたロニー・クインタレッリから松田次生に交代。同時に新しいウエットタイヤに交換した。
これに対して、2番手を走行していた3号車もピットインを想定していたのだが、彼らが最終コーナーに進入するところでコースオフしていた車両が再スタートしイエローフラッグが解除された。それを見た3号車のピットは、千代にステイアウトを急きょ指示。レース序盤に履いたウエットタイヤで粘ることを決断した。
ミシュランのウェットタイヤは驚くべきパフォーマンスを披露した
「途中ちょっと雨が増えたときに僕らは少しペースが厳しくなって、23号車に対して離されたくなかったので、「タイヤを変えたい」っていうリクエストを出しました。そのときにピットの島田監督と根岸エンジニアが冷静に判断してくれて、ステイすることを選びました。もう状況が刻々と変化する中で、今回の“魔物”は天候だったなという感じでした」(千代)
この判断が吉と出た。次第に雨が止んで路面が乾き始めていき、3号車は55周目に2度目のピットストップを敢行。ここで高星明誠に交代するとともにスリックタイヤに履き替えた。一方の23号車はスリックタイヤに交換するためのピットストップを強いられることとなり、3号車より1回多いピット回数に。この結果、約1分近い差ができた。
この遅れを取り戻すべく23号車の松田も必死にペースを上げたが、逃げる3号車の高星も、雨が再び降り始めていることを考慮し、リスクを背負わない確実な走りを徹底。最終的に9.1秒差まで迫られたが、そのまま逃げ切った3号車が今季2勝目をマークした。
レース後のパルクフェルメで歓喜する千代と高星。その一方で、23号車の松田とクインタレッリの表情は悔しさに満ち溢れていた。
「本当に悔しいレースでした。でも、仕方ないです。あの1回のピットが命取りとなりました。(44周目のアクシデントを見て)僕たちはあそこでFCYが入ると思ってピットインしたんですけど、結果的にFCYが出ませんでした。それが誤算でした。FCYが入らなければ、そのまま走り続けるつもりだったので……」(松田)
悲喜交々の結末となった第6戦SUGOだが、総じて振り返ると、雨の中でも日産の新型Z陣営の強さがとにかく光った。3号車と23号車のワンツーフィニッシュはもちろんのこと、今回ランキングトップで臨んだNo.12 カルソニック IMPUL Z(平峰一貴/ベルトラン・バケット)も、14番手スタートから、目まぐるしく変わる天候に上手く対応していき、5位フィニッシュを獲得。今回は89kgで燃料リストリクター制限も一番厳しいステージ3だったのだが、その中で6ポイントを獲得できたというのは、大きな意味を持つだろう。
終わってみれば、GT500クラスのランキングトップ3は日産勢が占めることとなった。なかでも、瞬時の判断で勝利を呼び込み、結果として再びランキング首位を取り戻すことになった3号車にとっては、残り2戦に向けて勢いをつける1戦になったことは間違いないはずだ。
ここにきて頭ひとつ抜けた感のある日産勢に対して、トヨタ、ホンダのライバル陣営はどう挑んでいくのか。残り2戦……ますます目が離せない。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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