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チーム移籍後初勝利を飾った山本尚貴(右)と中嶋悟監督(左)
今年2度目の“2レース開催”となったモビリティリゾートもてぎでの2022全日本スーパーフォーミュラ選手権。シーズンも終盤戦に突入ということでチャンピオン争いに注目が集まりがちだったが、土曜日の第7戦、日曜日の第8戦ともに見応えあるレースが繰り広げられた。
まずは土曜日の第7戦。午前中の公式予選でトップを奪ったのは、過去3度のスーパーフォーミュラチャンピオンに輝いている山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)だった。栃木県出身の彼にとっては、モビリティリゾートもてぎは地元レース。この日も、朝から彼を応援するファンが多数スタンドに詰め掛けていたが、大いに沸き上がった。
2020年に3度目のタイトルを獲得した山本は、自身が国内トップフォーミュラデビューの時にお世話になった中嶋悟監督に恩返しがしたいとチーム移籍を決断。2021年よりTCS NAKAJIMA RACING加入が決まった。
しかし、いざ年が明けてシーズン前の公式テストが始まると、原因不明の不調に悩まされることに。鈴鹿サーキットでの公式テスト1日目は、ライバルたちが順調にテストメニューをこなしていく中、山本はタイムアタックのシミュレーションもできず、最下位に沈み、これまでスーパーフォーミュラでは見せたことがないほど険しい表情をしていたを今でも覚えている。
そこから、山本とチームは長いトンネルに入り込んでしまい、このシーズンは第1戦富士での6位が最高位という結果になった。
その流れは2022シーズンになっても好転はせず。特に第4戦オートポリスでは、パフォーマンスを引き出すことができず、決勝ではトラブルやアクシデントなく走行するも、周回遅れという屈辱的な結果に。「こんな経験は初めてです……」と、レース後に肩を落としていた山本がいた。
その後、第5戦SUGO、第6戦富士と復調の兆しは見せるものの、うまく歯車がかみ合わず、上位入賞を果たすことができない。一方で、今季デビューしたルーキードライバーをはじめ、若手ドライバーも台頭してきている。世代交代の波が押し寄せてきているのは間違い無いのだが、山本は勝利のために諦めることはなかった。
そして迎えた第7戦もてぎ。午前中の公式予選で約2年ぶりのポールポジションを獲得すると、決勝レースは直前に降り出した雨の影響で、ウエットコンディションでのレースとなったが、10年以上にわたる国内トップフォーミュラでの経験を存分に活かし、トップを死守。最後は2番手以下を引き離す走りをみせ、TCS NAKAJIMA RACINGでの“待望の1勝目”を勝ち取った。
山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)
「(トップフォーミュラにステップアップした)2010年に中嶋さんのチームで走りましたが、その時はルーキーだったこともあって、何ひとつ結果を残せずにチームを移籍することになりました。そこから経験と実績を積んで……中嶋さんのところで成績を残したいとリクエストをして、ここに来たにも関わらず、何ひとつ成長してきたところを見せられずに、ここまで1年半を過ごしてきてしまいました。その(結果を残せない)期間が長くなればなるほど、自分で感じている以上の重荷がかかっていて『こんなはずじゃないのに…』と思いながら、正直キツかったです」
「でも、僕以上にキツかったのは、加藤エンジニアをはじめメカニックの皆さんだったと思います。チャンピオンとして、チームに加入したにも関わらず、成績が出ないとなると、やっぱり(不振の)矛先はエンジニアとかクルマに向いてしまいがちですし、そう思ってしまっていた部分もあると思います。早く、そこから脱出してもらいたかったです。僕だけじゃなくて、チームも苦しんでいましたけど……こうしてひとつ結果を残すことができました」
「(レース後)パルクフェルメでの中嶋さんの笑顔を見たときに『ひとつ恩返しができたのかな』と思いましたし、スタッフのみんなが喜んでいる姿を見て、改めてこのチームに加入して、結果を残せてよかったなと思いました」
山本尚貴はレース後喜びを爆発させた
もてぎ大会が開催される1ヶ月前に、山本は母校である作新学院の小学部を対象に講演を行い、夢や目標を持つことの大切さを生徒たちに語り、レースウィーク中は生徒と保護者を招待。“諦めないことの重要さ”を、山本自身がレースで証明した。
「生徒の皆さんの前で『今はうまくいっていないけど、努力し続けていれば、必ず良いチャンスが来る』ということを話して、このもてぎ大会に来ました。そう話した手前、責任もありましたし、カッコ悪いところは見せられないと思っていました。だから、土曜日からたくさんの生徒さんが観てくれていたところで、良いところを見せられてホッとした気持ちもあります。そこで(生徒の皆さんが)何か感じるもの、得るものがあれば、招待させてもらった意味はあったのかなと思います」
山本は、過去に幾度も苦しい状況に直面したが、その都度「こういう時こそ腐らずに前を向く」と自分自身に言い聞かせ、突破口を見出してきた。さすがに今回は結果を残すまでに時間はかかってしまったが、“最後まで諦めなかった”からこそ、結果を残す瞬間を迎えることができたのかもしれない。
しかし、山本とチームにとっての復活劇は、これからが本番だ。もてぎ大会での現状について「登山に例えると登り始めたばかり」と例える加藤エンジニア。この第7戦が終わったあともパルクフェルメで山本と握手しながら「次はドライで勝ちましょうね」と言っていた。その気持ちは山本も同じだ。
それをある意味で象徴したのが翌日の第8戦。予選ではQ1で速さを見せるも、Q2でライバルを上回ることができず、中団グループからのスタートとなった。それで展開も後手となり、結果的にポイント圏外でフィニッシュすることとなった。
それでも、第7戦での優勝で、流れが変わったことは間違いない。10月の最終大会では、さらなる復活劇を期待できそうだ。
文:吉田 知弘
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吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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