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片岡龍也選手(No.4 グッドスマイル 初音ミク AMG) 「タイヤを新品にして戻すよ」っていうことだけだった
SUPER GT あの瞬間 by 島村 元子No.4 グッドスマイル 初音ミク AMG
レースでの出来事をドライバー自身に振り返ってもらう「SUPER GT あの瞬間」。レースでの秘話、ドライバーのホンネを“深掘り”し、映像とコラムでお届けします!
第4戦富士でレース序盤にGT300クラストップの座を奪ったNo.4 グッドスマイル 初音ミク AMG。安定感ある速さを武器に、谷口信輝、片岡龍也両選手が快進撃を披露する。彼らの頭に浮かんでいたのは2017年を最後に遠ざかっていた勝利だったが、終盤に待っていたのは、まさかのタイヤパンクだった。優勝に向けて積み上げたものが水泡に帰してしまった瞬間、ステアリングを握っていた片岡選手は何を思ったのか……。
──スタート直後から早速攻めの走りを見せて、6周目のパナソニックコーナーで61号車(SUBARU BRZ R&D SPORT)を逆転。片岡選手としては、ここでトップに! という気持ちだったのですか。
片岡龍也:本当はスタート直後に仕掛けていきたいと思ったんですが、まずスタート前に雨が降ったことでAコーナー付近が少し濡れているところもあり……オープニングラップはグリップの確認も含めてちょっといつもよりおとなしめに行くことで、まずオープニングラップで(逆転する)チャンスはあまりなかったかなっていうのと、あとはオープニングラップ直後のクラッシュによって、1コーナー立ち上がりからAコーナーでイエローフラッグが出てしまい、ちょっと勝負のかけどころが減ってしまったので、その分61号車を抜くのに後半セクターしかチャンスがなくなってしまいました。イメージとしてはもう少し早く処理したかったんですが、6周目までかかってしまったなぁという感じです。
──予選グリッドは今シーズンベスト。総体的に好調だったということですね。
片岡:土曜日に走り始めてから、まず自分たちの調子がそこそこであることと、レースラップが結構いい感じだという確認は取れていました。ただ予選になるとタイム上げてくるチームが結構多いので、自分たちがどの位置にいるのかなというところでしたが、想定より良くて……3番手でした。またレースラップ自体は自信があるので、そこからスタートしていい流れを作れたら、結構チャンスがあるかなという思いでスタートしていましたね。もともとグッドスマイル(レーシング)としては、比較的荒れるレースとか長いレースは強いっていう印象はあるし、谷口(信輝)さんにしても僕にしても、特に今さら何も慌てることはないので(笑)。自分たちができること、ペースを守ってやることには長けていると思うので、その実力とともに(レース)距離が長ければチャンスが増えていく方向かなという認識はしていました。
──チームによっていろんな策が練られる中、スタンダードな形(片岡→谷口→片岡)でステントを刻みました。なぜこの戦略になったのですか。
片岡:スタンダードな作戦でも十分に勝てる可能性があったので、もはや奇抜な作戦を採る必要はないだろうと。あとはやはり練習走行時よりも(決勝の)路気温が上がっていたので、タイヤへの負担も考えて均等に行った方がリスクが排除できるだろうということで、基本的に三分割の作戦を選びました。
──早々に61号車を抜いて2番手を走る中、クラストップの65号車(LEON PYRAMID AMG)が18周目に足回りのトラブルで緊急ピットインしました。これでトップに立ちましたが、その時のどのような心境でしたか。
片岡:事前の段階で65号車の調子がいいことも分かっていて、決勝のペースを無線で確認しながら走ったんですけど、ちょっと気温が上がったことによって(65号車と)イーブン(の戦いになる)かなと思っていたところが、若干65号車に有利な展開というか実際に65号車の方が速いペースで周回を重ねていたので、順当にそのまま行かれてしまうと少し追いつくことは難しいなという思いの中で65号車の緊急ピットを見ました。このときは(65号車に)申し訳ないですけど、こちらにチャンスが巡ってきたというか……。なので、最大のライバルだと思っていた65号車の脱落によって、自分たちがかなり優勝の可能性が高いところに来たなっていう思いはありましたね。
──晴れてトップに立ち、26周目終わりでルーティン1回目を実施。タイミングとしてはいかがでしたか。
片岡:ちょっと4周ぐらい早かったんです。一応(GT300クラスの全周回数を)90ラップで想定していたので30ラップずつで切りたかったんですけど、すでにそのピットを済ませた……周回遅れになるのかどうかはわからないですが、他の車両が何台もが前に入ってきてしまって。で、なかなかそれを自力で追い越していくのも難しく、1ラップあたり1秒ぐらいロスするような形になってしまったので、(当初予定していた30周でのピットインまで)あと4周も引っ張るともったいない(ロスタイムが増える)ので、少しだけ早めました。
──結果的には“裏トップ”、事実上のトップでそのままバトンが谷口選手へ繋がりました。順調な展開となっただけに、ピットで待機しているときの気持ちはどのようなものでしたか。
片岡:自分が最初ファーストスティントを乗っているので、マシンの手応え(はある)……あとは、一番心配であった気温に関しては少し下がってくる方向だったので、自分がもう一度バトンを受け取る頃には、最初に自分が乗っていた時よりも多分状態はいいと想定してました。ただその一方で、11号車(GAINER TANAX GT-R)がかなり近いところにいるなというのは分かっていたんです。今回、いろんなチームが脱落していく中で、最後は結果的に61号車が来たんですけど、途中は11号車が(優勝争いする)ライバルとしての本命かなと思ったので。自分が交代するタイミングでバックミラーを見ていると、11号車も同時にピットにしてきて……6~7秒あとなのかな!? バックミラーで見てると作業終えて出てきた。 だからアウトラップの時点で、多分ギャップが最初10秒以内で始まっていたと思うので、とりあえずタイヤを労わりながらウォームアップして。11号車との距離を確認しながら走っていると、少し余裕ありそうだなっていう感じでした。
最後のスティント……仕事としては、やはりコールド(タイヤ)からのペースを上げていくところ(が大事なの)で、落ち着いた時点で(11号車と)どれぐらいのギャップがあるかが一番のポイントだと思ってましたね。そこに関しては順調にギャップも少し作り、自分のタイヤも完全に温まって、安定した状態を作って……うしろのラップタイムと自分のラップタイム、ギャップを聞きながら行くと、基本的にはかなりいい状態のところにまでいたので、どちらかというと、あとはこのペースでチェッカーまで行くというところまで組み立てられていた印象でしたね。
──理想的なレース展開となり、第3スティントの滑り出しも上々。一方、2回目のピットインは50秒ほどピットに入っていました。これはどうしてでしょうか。
片岡:とにかく今回の作戦は、タイヤを労わるというところを重視していたので、極力走行中の重量を軽くしたいということで燃料の搭載量を抑えてたんですよね。その他のチームは多分、(ガソリン)満タン(でスタートして、1回目のルーティンストップでも)満タン、(2回目は)スプラッシュとか、(スタートは)満タン、(1回目は)スプラッシュ、(2回目は)満タン、っていう形を採っていたと思うんですけど、 我々は2回に分けて必要量を給油するという作戦にしたので。なので多分トータルで(ピットに)止まってる時間は(他チームと)変わらないんですけど、大概のチームが2回目のルーティンはすごい短いストップになる中で、我々はフルに(ピット作業で)止まって……。そういう意味では、(2回目のピットワークでは)11号車と我々で作業時間が20秒ぐらい違うだろうっていうのは予想していたし、実際にピットアウトした時点で何秒差になるんだろうなっていうところを注視していたんです。
──緻密にシナリオを練り上げて攻めの勝負に挑んでトップに立ちましたが、77周目の1コーナーで信じられないこと……つまり、左フロントタイヤのパンクが起きてしまいました。状況を改めて教えてください。
片岡:あの時は基本的に(トラブルの)前兆なく、ブレーキングした瞬間に……。過去にも経験はあるのでブレーキを踏んで1秒もしないうちにパンクしたっていうことには気づくんですけど、信じたくはないので。一応ハンドル切るところまで行って、舵が効かないのを確認して……あとは、メーターで空気圧をチェックすると、もちろんそこはゼロ(表示)になるので……信じたくはないですけどね(苦笑)。 “パンク決定”ということで。しかも1コーナーですから(ピットに)戻るまでまた距離が長くて。でもスピード上げるとタイヤが破けてクルマを壊しちゃいますし。極力急ぎたいけど、急げないしっていう。何よりも優勝の権利がもうなくなることがそこで決まっているので……残念なんですけど、この辺も長いことレースやってると、そういうこともあるし。むしろ(レース後クルマを)降りてからの方が悔しいですけど、乗ってるときって意外と冷静なんです。シンプルに残念と思いながらも、もしかすると(タイヤ交換してコース復帰したら)ポイントが獲れるかもしれないっていう思いがあるから。とりあえず、チェッカーを極力一番短い時間で目指そうとはしていました。
──もう一瞬にして描いてた風景が変わってしまったわけですね。狙った獲物は、ほんともう目の前にありました。
片岡:かなりありましたね。あの時点ではほぼ手中に(勝利を)収めたかなぁと。『ゴールするまでわからないけど、でも行ける(勝てる)よね』っていうような。あとは、我々は2017年までは年に一回は必ず勝つような状態でしたけど、ここ5年ぐらい苦しいシーズンが続いているので、ほんとに久しぶりのチャンスというところで……。関係者、チーム自体もそうですし、我々のチームはファンが非常に多いので、かなりみんないろんな思いがあったと思うんですけど。もう少しお預けということになりましたね。
No.4 グッドスマイル 初音ミク AMG
──パンク後、一周ゆっくり戻ってくる間に、どのような無線のやり取りがありましたか。
片岡:とりあえずタイヤを変えて、もう一回コースに戻すっていうだけで……。チームの方もあの状況に若干落胆してしまうところもあったし。 特に細かいことは考えられず、とりあえず「タイヤを新品にして戻すよ」っていうことだけでした。勝つレースをしているときって、勝ちがこぼれると正直言ってもうそれ以外考えられなくなってしまうのかな、というとこですよね(苦笑)。
──タイヤを交換し、気持ちも切り替えチェッカーを受けました。レースを終えて、開口一番、長年一緒に戦う谷口選手とどんな話をされましたか。
片岡:なんでしょうね……『なんでパンクしちゃったんだろうね』っていうところだけですよね。それしかないですね。今回に関して言うと、全部同じタイヤで(全スティントを)行ってるので。 特にあのタイヤだけが違ったわけでもないですし、ファーストスティント、セカンドスティント含めて実績のあるものだったので、ほんとに予想外で何が起きてしまったのかっていうことは、結局わからないんです。ただ、今回はチームとして、ドライバーも含めかなり万全を尽くしてきたのにっていう思いはあります。どうしても富士を走ると左のフロントへの負荷が高いので、特にメルセデスはフロントエンジンで、またフロント(タイヤ)の幅も細い方の設定になってるので、ライバルに対してもかなり負荷が高いことは間違いないんです。とは言え、(メルセデスとしての)ウィークポイントがそこにあることもわかってはいるので、極力セッティング含め乗り方もケアはしていたんですが……というところです。
──レース後はミーティングを行なったとか。どのようなものでしたか。
片岡:ミーティングといっても、もう(レースを)振り返ったところでしょうがないので、 その次の鈴鹿に向けたミーティングと、あとは、グッドスマイルレージングとして、今いろんな試みをしていて……今回は来日してないですけど、パフォーマンスエンジニアもリモートで参加しており、今回はストラテジストっていうか作戦専用の人……ソフトをお試しというか、今回初トライしていたので、それの機能に対して今回はデータ取りだったので活用はできてないんですが、今後それをどう活かすかとか、使ってみての問題点だとか、どちらかというと『今回のレース、残念だったね』っていうよりは、 今回のレースで得たものを、次にどうしていくかっていうミーティングが中心でした。あとは、今後どうしてもタイヤへの負荷は高くなってしまうので、タイヤメーカーさんへの今後の相談であったりとか、我々が今後何を求めていくのかっていうところもまとめてはいました。基本的にはどちらかというと、もう(気持ちを)切り替えたミーティングでしたね。
──なるほど。ところでリモートでミーティングに参加されストラテジストというのは?
片岡:チームはHWA(※1)のカスタマーサポートを受けてるんですけど、前回の鈴鹿の時には来日してもらいました。リモートでやると時差があるので、向こう(ドイツ)で待ってる方は、いつも眠い目をこすりながら対応してもらってるんです。現場は現場で河野(高男チーフエンジニア)さんがいろいろ考えますけど、常にリアルタイムでデータを確認してもらって、さらに専門的な知識から、もっとこうした方がいいんじゃないかっていうアドバイスを(HWAから)もらうんです。我々は、(BoPの問題等)ちょっと不平不満を漏らしながら不利だ不利だと言ってるところはあるんですけど、とはいえ、自分たちができることは最大に努力して、少しでもその差を埋めようっていう取り組みはずっとしています。そういう意味で言うと、今回の富士は(優勝できる)チャンスだったというか、もともと富士のBoPは、我々にとって結構戦えるという印象を持っていたので、今回の富士には期待していたし、実際に予想外の路気温もあり……。周りが苦戦してくれたこともあったのか、チャンスが来ていましたから。多分、リモートでドイツから見守ってる人も含め、(優勝がなくなり)かなり気持ちの落差があったかなと思いますね(苦笑)。
※1:HWA(ハンス・ヴェルナー・アウフレヒトの略)で、メルセデスAMGのレース部門が独立したもの。Mercedes AMGのカスタマーサポートを担っており、チームは2020年からエンジニアリングサポートを受けている。
──“富士スペシャル”というべき最高のチャンスだったので、見ていたファンの皆さんもすごく残念な気持ちはあったと思います。一方で次回の鈴鹿でも改進撃を!と周りから期待されているのではないですか。
片岡:先ほど富士にはチャンスがあると言った反面、鈴鹿は正直その見積もりっていうと苦しい戦いかなとは思っているんです。ただこういった苦しい流れの中……ここ最近の鈴鹿はほんとに下位に沈むので、そういう意味で言うと、今回はそこまで沈まずにパフォーマンスを少しずつ上げておきたい。もちろんいつもチャンスが来るわけではないのですが、ただどういったチャンスが来るかわかりませんから、もしかすると鈴鹿も何か予想外のことが起きるかもしれないですしね。ただ我々はこの数年、レースによってほんとにすごい差があるんですけど、 決して毎回努力の量が違うわけではないので、引き続き続やれることはやってベストな状態で挑みたいなと思っています。
──では、恒例のここ24時間の“ちょっとした幸せ”を聞かせてください!
片岡:24時間以内に感じた幸せ……。なかなか難しい質問ですね(苦笑)。普段と変わらない日常なので、特にこれといった起伏がありませんけど。まあ、今日も健康にこうやってインタビューを受けられてることが1番の幸せかなと思います。もうほんとね、年間のホテル暮らしの日数が多すぎて。なかなか家に帰れることが少ないので家に帰れることが一番幸せなんですけど、なかなか帰れてないので(苦笑)。(この取材後)とりあえず二日後に帰りますけど、この一ヶ月くらい帰れてません。僕の場合、すごくレースにたくさん携わらせてもらってるので。乗ってるときもあれば乗らないときもあるんですけど、日々レースのことばっかり考えてるような状態なので、そういう意味で言うと自分がいざ乗るときでも“脳のウォーミングアップ”は終わっているので(笑)、いいかなと思います。いろんな立場でレースに携わることで、多面的っていうかいろんな方向からレースを見れるので、乗りながらも結構監督目線じゃないですけど、いろんなこと考えながら走ってますね。
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【SUPER GT あの瞬間】SUPER GT 2022 第4戦:片岡龍也選手(No.4 グッドスマイル 初音ミク AMG)
文:島村元子
島村 元子
日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。
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