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No.1 STANLEY NSX-GT
2021年のSUPER GT最終戦。GT500クラスは“まさかの結末”でチャンピオンが決まった。
当初はNo.1 STANLEY NSX-GTの山本尚貴が2年連続のチャンピオンに輝くのではないかと思われていたが、GT300クラス同士でバトルをしていたNo.55 ARTA NSX GT3に接触されてしまい、大きく後退してしまった。最終的にNo.36au TOM’S GR Supra(関口雄飛/坪井翔)が16ポイント差を逆転し、シリーズ王者に輝いた。
レース後のパルクフェルメ。GT500初優勝と年間チャンピオンを獲得しガッツポーズをみせた坪井。そこへ真っ先に祝福に訪れたのが、チャンピオン争いに敗れた山本だった。
実は山本にとっては、この最終戦富士がSUPER GT参戦100戦目だった。その節目のレースで、彼の“進化した姿”を、我々は見ることになった。
パルクフェルメで坪井を讃えた後、チームクニミツのピットに戻るまで、観客席に向かって手を振る姿もみせた山本。第8戦の暫定表彰式後に行われたシリーズ表彰式、グランドフィナーレにも出席し、ファンの声援に応えていた。
さらにはメディアの取材も断ることなく、ひとつひとつの質問に丁寧に対応。決勝日の夜には、自身のInstagramも更新し、そこには接触した相手となった55号車の佐藤蓮を気遣うコメントも添えられていた。
こういった一連の山本の振る舞いをみて、称賛の声を贈る人はあとを絶たなかった。
正直、今回の1号車の結末は、不運以外の何物でもなかった。こういう形で1年間かけて積み上げてきたものが水の泡となり、普通だったら悔しさを爆発させたい気持ちもあるだろう。過去のレースを振り返っても、悔しさのあまり、下を向いたままサーキットを後にする彼の姿は何度も見てきた。
しかし、そういう経験を重ね、こういう時にどんな対応をしたほうがいいのか……本人としては残念な結末になったにも関わらず、そこだけは冷静になっていた。
「色んな先輩とかドライバーを見てきて、やっぱり負けたレースの時に、その人の素性が出ると思うんですよね。調子が良い時って、みんなにチヤホヤされるし、自分も勘違いしやすいです。仮にちょっと振る舞いが悪くても、結果が出ていると、それがなかなか目立たないですけど、結果が悪い時って、色々な意味で、その人の全てが出ると思います」
「(マシンを降りた時は)正直、頭の中は空っぽになっていましたし、みんな頑張ってここまでやってきたのに、その努力が一瞬で泡になっちゃったので、押し潰されそうな気持ちになっていました」
「どういう顔をして、みんなに会えばいいのか……多分、感情のままにいったら、収集がつかなくなりそうだったので、マシンを降りた後の数秒しかなかったですが、色々と自分の中で整理していました」
「まずは勝った36号車を讃えに行くべきだなと思いました。誰がどう見ても、今日の36号車は一番速かったし、チャンピオンに値する走りをしたから、タイトルを獲ったわけで、祝福するのは当たり前です」
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「自分の振る舞いが正しいかどうかは、他人が判断することですけど、自分が今できる限りの振る舞いをしたつもりです」
そして、ピットに戻ると、山本がチームスタッフに真っ先に口にしたのが「すみません」という言葉だった。
「やっぱりハンドルを握っているのは僕でしたから……。ちょっとペースが遅かったりしたら、逆に巻き込まれていなかったのかなとか、もうちょっとペースを上げるタイミングが早ければ、接触も避けられたのかなと、いろいろ考えてしまいました」
「これだけプレッシャーのかかるレースの中で、(牧野)任祐そうだし、メカニックさんも含めて、あの時点までは誰ひとりミスをしていなかったです。最後、自分のミスではないのかもしれないけど、ただ最後にハンドルを握っているのは僕だから……責任はあるし、謝っても結果は帰ってこないけど、謝ることしかできなかったです」
「気持ちを切り替えるには時間がかかるのかなと思いますけど、まだまだレース人生は長いですし、みんなの気持ちを落としすぎずに、上げないといけない。最後に『2022年、また頑張りましょう』と無線でも伝えられました。そこは自分でも、ちょっと大人になったのかなと思います」
このレースで何より印象的だったのが、山本は最後までチームメイトの牧野任祐を気遣っていたことだ。牧野は昨年末に髄膜炎を発症した影響で、2021年の開幕戦を欠場。武藤英紀が代打を務めた。
このため、山本と牧野の間にポイント差が生まれ、シーズンの早い段階から牧野のドライバーズタイトル獲得の可能性は絶たれている状態だった。それでも、嫌な顔ひとつせず、山本のため、チームのために各レースを戦った。
「仮にチャンピオンを獲ったとしても、彼のことを思うと『素直には喜べないんだろうな』と、ずっと考えていました。それを言ってしまうと、彼も気にしてしまうし、チームも連覇のために必死に頑張ってくれているから、それを僕がレース前に口にすることはできなかったですけど……心の中では、やっぱり1人でドライバーズタイトルを獲ることに抵抗感はありました」
「きっと任祐も辛かったと思います。病気をして、もうクルマに乗れないかもしれないというどん底まで落ちて、2021年の開幕戦も欠場することになりました。最終戦でチャンピオンはかかっているけど、どんなに頑張っても彼はドライバーズランキング2位にしかなれない状況でした。そのメンタルは、このサーキットにいる誰もが経験したことがないと思います。でも、彼は何ひとつ文句を言わずに、僕とチームのタイトルのためにひたむきに頑張ってくれていました。その姿勢はみんなの刺激になりましたし、彼のために頑張ろうという気持ちになりました」
「きっと、どこかで誰かが『2022年、牧野と一緒に獲れ!』と言われているような気がして……今はそう思っています。だから、2022年はチームと一緒に2人で獲りたいです」
2021年のSUPER GTにおける山本は、全く隙なく、サクセスウェイトなどで不利な状況でも、わずかなチャンスを見つけてポジションを上げる走りをみせてきた。それだけでなく、自分のことよりも周りを気遣う姿勢は、最終戦のみならず、今シーズン随所で見られてきた。
今では“現役最強の1人”と呼び声も高い山本だが、昔からこういったことが出来ていたかというと、そうではない。これも、SUPER GTという国内最高峰の舞台で100レースを戦い続け、その経験が彼を成長、進化させたことは言うまでもないだろう。
ある意味、これまでの99戦で培ってきたものを全て結集し、自身として、チームやホンダとして初めての2連覇獲得のために全力で臨んだ。
だが、結果は“負け”だった。さすがにレース直後は、冷静なコメントをしつつも、その表情をみると気持ちの整理はついていない様子だったが、“これもひとつの学び”と捉えていたのは、改めて彼らしいなと感じた瞬間だった。
「最後の1周まで何が起こるか分からないというのを、2020年に身をもって感じたひとりでした。だから、2021年も最後まで何が起こるか分からないと思って、ずっと気は張っていたんですけど……こういう“まさか”があるとは、思わなかったです」
「レースって難しいですね。100戦目という節目に、また大きなものを学びました」
山本の挑戦は、これで終わることなく、2022年から“101戦目”がスタートしていく。おそらく今頃は、節目の1戦で経験したことを糧にし、さらに強くなってサーキットに帰ってくることは間違いないだろう。
今度はどんなレースを我々に見せてくれるのか。2022年の開幕が、今から待ち遠しい。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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