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モーター スポーツ コラム 2021年12月6日

それぞれの感情が交錯した2021 SUPER GT最終戦

モータースポーツコラム by 吉田 知弘
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劇的な展開で今季初優勝、そして逆転で年間総合優勝を果たしたNo.36 au TOM’S GR Supra

2021年のSUPER GT最終戦。GT500クラスは、今年も予想外な形でチャンピオン争いの決着がついた。

レース序盤からトヨタGRスープラ勢が先行していくこととなったが、2年連続チャンピオンがかかるNo.1 STANLEY NSX-GTも4番手を死守。このままいけば、山本尚貴が2年連続でドライバーズタイトル獲得し、チームクニミツのみならずホンダにとっても初の連覇を達成すると、誰もが信じて疑わないレース展開だった。

チェッカーまで残り15周となった51周目の1コーナー。順調に走っていた1号車に対し、“まさか”の事態が発生する。ちょうど、1号車の真後ろでGT300クラスの王座争いをしていたNo.55 ARTA NSX GT3(佐藤蓮)が、No.61 SUBARU BRZ R&D SPORTを追い抜きにかかったのだが、そのまま勢い余って1号車に接触してしまったのだ。

1号車はすぐコースに戻ったが、右フロントのタイロッドが曲がってしまい、クルマはまっすぐ走れる状態ではなかった。

「ぶつかってしまった後、クルマが普通に走らないと分かった瞬間に、全身の力が抜けてしまった感じがありました。あの瞬間に“タイトルは無理だ”と悟りました。でも、走れるのだったら、最後まで走らせてほしいとお願いして、ピットに戻りました」

「自分は今までもそうやってきましたし、これだけタイトルを獲ってきた数につながっていると思います。自分のスタイルは曲げたくないと思いました。クルマは完全に元通りには戻らなかったですけど、最後コースに戻らせてもらって、チェッカーを受けさせてもらいました。本当に感謝しています」(山本)

これで、トップを走るNo.36 au TOM’S GR Supra(関口雄飛/坪井翔)にチャンスが巡ってくることになった。序盤から力強いペースで走っていた彼らは、最後までペースを緩めることなく、周回を重ね、今季初優勝をマーク。同時に、16ポイント差を逆転し、2021シーズンの年間王者に輝いた。

トムスにとっては昨シーズンの雪辱を果たす優勝となった。関口雄飛(左)、伊藤大輔監督(中央)、坪井翔(右)

昨年も劇的な形で勝敗が決したのだが、今年も誰ひとりとして予想していなかった結末に、サーキットは騒然とした。

1号車に接触してしまった55号車の佐藤。もちろん、目の前にいる61号車を追い抜こうとしていた中で起きてしまったアクシデントで、故意ではない。ARTAの鈴木亜久里監督、土屋圭市エグゼクティブアドバイザー、さらにはコンビを組む高木真一や55号車担当の岡島慎太郎エンジニアも同行し、すぐにチームクニミツのピットへ謝罪に向かった。その中でも佐藤は1号車の関係者に対し、深々と頭を下げていた。

今回はチームクニミツの高橋国光総監督も現場に来ていたのだが、実際にどんな会話をしていたか分からないが、長い時間話し込んでいる様子がみられた。その後も佐藤を始めARTA首脳陣がチームクニミツのピットやホスピタリティに足を運ぶ姿が何度か見られた。

夜になって、各チームの撤収作業が進むパドック。遠目ではあるが、ショックのあまり全身の力が抜けて座り込んでいる佐藤を見かけた。

直接話をすることは叶わなかったが、自分がやってしまったことを心の底から受け止め、事の重大さに今にも押し潰されそうになっている……彼の背中を見て、そう感じた。

正直、自分たちのクラスのバトルに専念するあまり、他クラスの車両に接触してしまうというケースは、過去には何度か見られてきた。これがSUPER GTというレースの難しさでもあるのだが、今回佐藤がぶつかってしまった相手はGT500クラスでチャンピオン最有力候補。山本だけでなく、チームクニミツ、そしてホンダ勢のGT500クラス連覇の可能性が、自身のミスで消えてしまった……。

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その時、佐藤が何を考えて、厳しく冷え込む富士スピードウェイでの夜を過ごしていたのか……。想像するだけで、こちらも胸が痛くなった。

一方、まさかの形で連覇の可能性が潰えてしまった山本。パルクフェルメでマシンを降りると、真っ先にチャンピオンを獲得した36号車のもとへ向かい祝福していた。その後も、ピットに戻りながらファンの声援に応えるように手を振るなど、身体の中から込み上げてくる悔しさを抑え込み、大人な対応を見せていたが、悔し涙を流す相方の牧野任祐やチームクルーたちを目にした瞬間、我慢していた涙が一気にこぼれ落ちている様子だった。

No.1 STANLEY NSX-GTは、よもやの形で年間王者を逃してしまった。

それでも、山本はグランドフィナーレが終わると、メディアの取材を断ることなく、しっかりと我々の質問に答えてくれた。

彼は、いつもは言葉を選んで丁寧にコメントをするのだが、この時は、どこか思いつくままに話している印象を受けた。避けようがなかったアクシデントとは言いながらも、やはり本音としては割り切ることができない……その気持ちが、こちらにも伝わってきた。

「最後の1周まで何が起こるか分からないということを、昨年感じたひとりでした。なので、今年も最後まで何が起こるか分からないと思って、ずっと気は張っていたんですけど……こういう“まさか”があるとは、思わなかったです」

「今回、逃した魚の大きさを考えると、そんなにすぐに気持ちを切り替えられるほどのものではありません。ライバルに負けないために、1年間必死に色んなことを頑張ってきました。ポイントランキングトップで最終戦に来て、(チャンピオンが)獲れるところを走っていたのに、こういう終わり方になってしまったから、余計に残念な気持ちにはなっています。ポジティブにはなりづらいんですけど……きっと、どこかで『来年、牧野と一緒に(タイトルを)獲れ』と言われているような気がして、今はそう思って、自分を沈めています」

「レースって難しいですね……。参戦100戦目で、また大きなものを学びました」(山本)

そして、大逆転でチャンピオンに輝いた36号車。まさかの結末に、レース直後はチャンピオンを獲得したという実感が湧いていない様子だったが、2人のドライバーは今シーズン一番の笑顔を見せていた。

振り返ると、今季の36号車は悔しいレースばかりが続いていた。開幕戦の岡山では同じGRスープラ同士のバトルに敗れ、悔しい2位フィニッシュ。第2戦富士では、終盤トップに立つも、マシントラブルが発生し優勝争いからの脱落を余儀なくされた。

開幕戦での14号車と36号車の激しいスープラ同士のバトルはファンを熱くさせた。

シーズンを通して安定した走りは見せていたものの、一番欲しかった優勝という2文字を手にできていなかった。だからこそ、“最終戦で何としても勝ちたい”という強い思いで臨んでいたのだ。

「自分自身も今年はノーミスで高い次元で走れていたので、非常に満足していましたし、そこは胸を張っていいかなと思っていました。チャンピオン争いの権利はあるものの、条件としては厳しい状況。どちらかというとチャンピオンを意識するというよりは、今年できていなかった“1勝”をしたいと思って臨みました。それが形になって、非常に嬉しいです」(関口)

「今シーズン開幕戦で14号車とのバトルに競り負けて2位に終わってしまったことから始まり……悔しい思いばかりしてきた1年でした。でも、最終戦でこうして勝つことができて、チャンピオンも獲得できました。今シーズンは、他のカテゴリーも含めてうまくいっていなかったので、最後に笑って終えることができて本当に嬉しいです。今年頑張ってきたことが結果で報われて本当に良かったです」(坪井)

万が一、1号車がアクシデントに見舞われた時、チャンスが巡ってくるポジションにいたのが、他でもない36号車だった。レース前の時点で16ポイントの差がついていたため、仮に1号車がノーポイントで終わったとしても、36号車が2位以下であれば、逆転王座を獲得できなかった。

“ライバルに何かあった時に、チャンピオンを狙えるポジションにいる”。それも、レースの世界では重要なことであり、今回のチャンピオン争いを語る上で、欠かすことのできない事実のひとつだ。

ライバルの1号車山本も「誰がどう見ても、今回の36号車は一番速かったし、チャンピオンに値する走りをしたから、タイトルを獲ったわけです。彼らを祝福するのは当たり前のことです」と、レース終了後すぐに彼らを祝福しにパルクフェルメに向かった。

こうして幕を閉じた2021シーズンのSUPER GT。とはいえ……今回の結末を、心の中でうまく消化できていない人は、きっと少なくないだろう。

正直、言葉として「これがレース」と片付けることは簡単だが、当事者たちの心境を考えると、そんな一言で済ますことは到底できない。

この1戦を表すのに、ふさわしい言葉はないのか……。その答えを一生懸命探してみたものの、ピッタリと当てはまる言葉や表現は見つからなかった。

それでも、あえて言うとするならば……全てを理解した上で「これがレース」と言うしかないのかもしれない。

様々な感情が交錯した2021年の最終戦だったが、どんな想いがあるにせよ、時は止まってくれない。数ヶ月後には、2022シーズンの開幕戦を迎える。

その時に、色々な想いを抱えたドライバーたちが、今回のレースをどう受け止め、次のシーズンに向けてスタートを切るのか。その様子を、今までと変わらず、現場で追いかけていこうと思う。

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文:吉田 知弘

吉田 知弘

吉田 知弘

幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ

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