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SUPER GT 第5戦:山内英輝(No.61 SUBARU BRZ R&D SPORT)「楽しみながらレースができているので、僕は今すごく幸せ」
SUPER GT あの瞬間 by 島村 元子No.61 SUBARU BRZ R&D SPORT
「SUPER GT あの瞬間」と題して、レース内容をドライバー自身に振り返ってもらう本企画。一部映像化し本コラムの最終ページで視聴可能である一方、本コラムでは余すことなく全文を紹介する。
今シーズン、ニューマシンとなったNo.61 SUBARU BRZ R&D SPORT。予選では一発の速さを存分に発揮するも、思いの外、遠かったのが表彰台の真ん中だった。だが、チーム、関係者が一丸となって入念に改善策を練って挑んだSUGO戦で、ついに大願成就。ポール・トゥ・ウィンでシーズン初優勝が実現した。喜びのチェッカーを受けた山内英輝選手が戦いを振り返る。
──待望のニューマシンでの今季初優勝。自身3年ぶりの勝利でした。
山内:(勝利まで)すごく長かったので素直に嬉しかったですし、去年、勝てそうで勝てないレースが何回か続いて悔しい思いをしてきて、今年新しいクルマになって、みんなで一生懸命がんばった結果でこういう風に(勝利に)繋がったので、ほんとになんとも言えない……なかなか味わえない経験を、今、人生の中でできているなと思いますね。
──レース後、クルマを降りて、(コンビを組む)井口卓人選手の頭を頭をポンポンとやさしく叩いたのが印象的でした。
山内:(笑)。今年、井口選手は彼自身が新型のクルマになってから、うまく乗り切れてないという感覚があったみたいで……。今年、(開幕戦)岡山の(ノックアウト予選)Q1で敗退をしてしまって。彼自身の中であれがすごくショックだったというか、心にまだ傷が残っていて。ここのところレース始まる前にシミュレータへ行ったりとか、今年はトレーニングもすごく自分を追い込んでがんばっていて。(山内が)その光景を見ていたので、『よくがんばってくれたね』という気持ちが溢れ出ました。向こうの方が先輩(※1)なんですけど(苦笑)。でも、すごくがんばったなと思いました。
※1:井口は1988年2月生まれ、山内は同年10月生まれ。チームへの加入も井口が2013年(スポット参戦)、山内は’15年のため、どちらも井口が”先輩”になる。
──SUGOは“魔物が棲む”とよく言いますが、山内選手はそのSUGOで2度目のポール・トゥ・フィニッシュを達成しました。どうやら、SUGOとは相性が良いようですね!?
山内:みなさんよく“魔物”っておっしゃるんですけど、たぶん、友達になれてるんじゃないかなと思います(笑)。
──3年ぶりの勝利。改めて感じる思いは?
山内:勝った瞬間やレースが終わったあと……その日は『このまま次も勝ちにいきたい』という気持ちがすごく強かったんですけど、家に帰って妻に会って話をしていると、(勝つまでの間に)『いろいろあったんだなぁ』とすごく感じました。卓ちゃん(井口)ともそうですが、振り返るといろいろあって。3年間待ってくれていたファンであったり、色んな方だったり……たくさんの人から祝福のメールや電話をいただいて。2、3日は(優勝の)余韻に浸っていました(笑)。
──第2戦富士、第3戦鈴鹿でポールポジションを獲得したものの、レースは悔しい結果に終わりました。3度目のポール獲得となったSUGOに向けて、周到な準備をされたと思います。
山内:鈴鹿ではレースの事前にテストにも行き、クルマのバランスも良くて決勝にも自信があった中で挑んで……でも全然歯が立たなくて。『なぜだ!?』っていうところからまた新たに始めましたし、SUGOに行くまでにも色々やりました。去年からチーム……STI(スバルテクニカインターナショナル)さんもスバルさんも、R&Dさんも、みんな腹を割って『ここはこうだ』とか、いろいろしっかりと話ができているので、チームの雰囲気ががすごく良くて。やってる僕たちも楽しみながらレースができています。みなさんがほんとにがんばってくれているから、繋がった結果だと思います。レースが終わったあとのみんなの笑顔を見たときには、『あぁ、いいなぁ』と思いましたね。
また、今回は、チームから『これをやりたい』という提案があったんです。それで事前のオートポリスを走りました。ドライは走れなかったんですが、雨だとよりグリップが低くなるので、今まで課題だったリヤのナーバスさがより顕著に出ていました。(テストで)それを変えたことにより、すごく良くなったんです。本当にチームがクルマへの理解力が深まっているからこそ、できる技だと思います。またダンロップさんも開発能力がすごくて、僕たちに『こういう風にしたほうがいい』という提案があって……。みんなの話を聞いていると『どんどん濃い話をしているな』というか……(笑)。第三者みたいな言い方になりますが、話を聞いているとすごく楽しいですし、みんなと一緒にやっているなという感じがあって充実しているし、楽しみながらレースができているので、僕は今すごく幸せです。
──オートポリスでのテストは、チームにとって“恵みの雨”になったかもしれないですね。
山内:雨の中でもチームがやってくれたことで(クルマの動きが)ガラリと変わったので、雨の中で変わったのならドライで確実に変わるから大丈夫だろう、ということで自信に変えることができたということですね。
──一方、予選で速さを見せれば見せるほど、外野の心ない声も耳に入っていたと思います。複雑な思いがあったのでは?
山内:あったと思います。予選が終わったら、色んな人から『今日はいいよ』みたいな感じで結構言われていたので。悔しかったですし、そういう風に見られてしまう自分たちが悪いんですけど、それを挽回できましたね。
──予選では自身の手でポールポジションを獲り、会見で「明日必ずここに戻ってきます」とコメントされました。思いを口にすることで、自身にもチームにも気合いを入れようと思われたのでしょうか?
山日:チームにも……というとそんな偉い立場でもないですが、みんなでがんばろうという気持ちを僕たちから発信していかないと、チームにプレッシャーもかからないし、僕自身にもプレッシャーをかけていかないといけないタイミングだったと思いました。どういう状況であれ、トップを守りきろうという気持ちは結構強かったですね。不安もありましたが、自信もすごくありました。チームが作ってくれたクルマを信じるということをシンプルに考えて挑もうと思いました。井口選手とふたりで前日の夜から当日の朝までずーっと言い合って、現場に入りました。
井口選手がスタートドライバーを担当
──迎えた決勝。なんと井口選手が久々にスタートドライバーを担当したことに驚きました。この理由は?
山内:これは、もともとなぜ僕がスタートドライバーをずっと担当しているのかよくわからないのですが……。今までは(第1スティントと第2スティントの周回数が)半分半分じゃないと決勝を走り切ることができなかったですが、今年に入ってガソリンの搭載量が(旧車よりも)増えた分、戦略として第1スティントをショートにできるので、後半が長くなって(第2スティントを担当する)井口選手の負担が大きくなっていました(※2)。
僕、後半(を担当するのは)あまり好きじゃないんですけど……最初に早く終わらせたいので(苦笑)、できればスタート(担当)がいいなと思うんですが、前半が短くなって後半が長くなるのであれば、と思い、『大変なところはお互いちゃんとシェアしてがんばろう』というようなことをSUGOの金曜日のミーティングでしゃべっていたら、いきなりそこでもう、『今回からそうしよう』ということになって……。(山内自身は)『……ん、うん』と思いながら……(承諾した)(苦笑)。
※2:参考までに、開幕戦岡山では第1スティントの山内が29周、第2スティントの井口が47周を担当。また、第4戦もてぎは山内の第1スティントが19周だったのに対し、第2スティントの井口は39周を担当している。
山内英輝選手
──一方の井口選手も、久々のスタート担当で不安はなかったのでしょうか?
山内:卓ちゃん、めちゃくちゃ緊張してて……。僕、もう結構色んなところでしゃべってますが、ヘルメットを被ってから無線のジャックをいつもなら簡単にピッと挿しているんですが、全然差し口が見つからなくて、逆に反対から入れようとしているところのシーンを見て……。『緊張しすぎじゃない!?』って言ったんですが、『これは大丈夫なのかなぁ!?』って(笑)。緊張感がすごく伝わって、ものすごく不安になりました。でも、走り始めたらすぐ(後続との)2、3秒のマージンがパッとできたので、『あっ、大丈夫だな』と思いました。それまでは結構ドキドキしていました。
──ルーティンのピットインは37周終わり。タイミングとしては戦略どおりでしたか?
山内:本来はもうちょっと短かったです。最初のタイヤが柔らかめだったので後半は硬い方で行くしかないだろうと言っていたのですが、井口選手のペースがずっと良かったので、(2位の55号車)ARTAにはちょっと追いつかれてはいましたが、できるだけ引っ張ってほしいなという感じがありました。井口選手がしっかりタイヤのマネージメントをしてくれたおかげで、約半分まで行って、僕も後半ソフトで行けたので、それが今回一番大きかったと思いますね。30周手前くらいでソフト(タイヤ)が終わっていたら、(山内のスティントで)ハード側を選ぶしかないので。そしたらたぶんなかなかどこまで引き離せるかとか、ペース的にもソフトより落ちたので、そこの判断は大きかったと思いますね。
──交代後、ほどなくしてセーフティカーが導入され、後続とのギャップが縮まりました。どういうことに気を遣いましたか?
山内:いつもスタートをやっているので、(リスタートで)接戦になることに対しては何も思わないんですが、前に周回遅れの車両が4台くらいいて、それをうまくパスしていかないと……(いけなかった)。(GT300クラスの)GT-RやNSX GT3はストレートが速いので、僕らの(特性である)コーナー(での速さ)をうまく出し切って行かないとストレートで抜かれてしまうので、そこは気をつけていました。(そんな中、後続の55号車からの追突を受けて)左リヤのエアロ自体がほとんど取れてしまって……。逆に(気持ちに)“スイッチ”が入った感じでした。“カチン”と来て、そこで完全にスイッチが入った感じでした(笑)。なので、その勢いで前の4台にも割って入り、それで逆にARTAさんはそこ(4台)に詰まりながら抜いてきた感じだったので、マージンがそこでうまく作れた感じでしたね。
ポール・トゥ・ウィンでシーズン初優勝
──最後は後続に約11秒の大差をつけて念願のポール・トゥ・ウィンを達成。チェッカーを受けた瞬間はどんな気持ちでしたか?
山内:最初にも言いましたが、素直に嬉しかったですね。(優勝まで)長かったですし、やっと勝ったという気持ちも強かったです。ここからもっと勝っていく!という気持ちが強かったので、無線でも最初はうれしい気持ちを伝えたあとに冷静にクルマの症状であったり話をしていたのですが、チームの返事は『今は(そういうことを)しゃべらなくていいよ。あとで聞くから』と……。たぶん、僕の話は聞いてなかったんだと思います(笑)。ちょっと温度差があるなと思いながら、(パルクフェルメに)帰ってきました。
でも、僕、後半を走って勝ったのは初めてだったんです。自分自身でチェッカーを受けたのも初めてだったので、正直(チェッカーまでの)2~3周は手足が震えましたね。『結構、緊張するな』とは思いました。ここでGT500に当たったりとかなにかミスしたらすべてが台無しになるので。そこは結構ドキドキしましたね。あと、(パルクフェルメに)帰ってきてクルマを停めると、卓ちゃんがクルマをバンバンと叩きながらずーっとこっちを見て、なんか最高の出迎えをしてくれたなと思いましたね。
──有言実行の成果を残し、次のオートポリス戦に向けては?
山内:実際にはリヤの不安定要素というものは、まだ完全には消えていないですし、僕たちが今持っているクルマをより速くするためには、直していかないといけない部分もあります。一方でオートポリスは井口選手の地元でもあるので、彼が色んな運を持ってきてくれると思いますので、彼頼みでがんばっていきたいと思います。さすがに100kgの(サクセス)ウェイトを積んで(※3)……ってなると思うんですけど、そんなことは言わずに勝てるようにがんばっていきたいなと思います。
※3:SUGOでの勝利により、61号車の獲得ポイントは合計39点。サクセスウェイトは獲得ポイントの3倍になるため、実際は117kgだが、GT300クラスでは搭載ウエイトの上限は100kgに定められている。
幸せの瞬間を語る山内選手
──最後に、この企画恒例の今日あった“ちょとした幸せ”を教えてください。
山内:子供とのテレビ電話、ですね。ずっとこの2~3週間、家に居られないんです。帰ってきて、すぐそのまま出てしまうという感じなので、今、妻と子供は実家にいるんです。みなさんには勘違いされたくないんですけど、愛想を尽かされた訳ではなく(笑)、僕が家にいないので実家の方が安心して子供を育てられると思うので。
だから毎日寝る前にテレビ電話をして、妻と子供と会話をするときが一番幸せですね。今、5ヶ月目入ったところなんですけど、子供がテレビ電話でも顔を見たら“わぁー!”って笑ってくれるので……可愛いですね。気に入ったオモチャを抱きかかえている写真を送ってくれるんですけど、たまらなく可愛いですね。(携帯電話の)待ち受け画面になってます(笑)。
文:島村元子
【SUPER GT あの瞬間】
第5戦:山内英輝選手(No.61 SUBARU BRZ R&D SPORT)
島村 元子
日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。
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