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【スーパーバイク世界選手権 第12戦 アルゼンチン:プレビュー】新王者誕生なるか?チャンピオン争いは三人に
モータースポーツコラム by 辻野 ヒロシ新王者誕生なるか?チャンピオン争いは三人に
「FIMスーパーバイク世界選手権」はヨーロッパを越えてついに海を渡ります。第12戦は南米アルゼンチンのサーキット・サンファン・ヴィクリムで10月15日(金)〜17日(日)に開催。同サーキットでは2019年以来2年ぶりにスーパーバイク世界選手権のレースが行われることになりました。
ヨーロッパや中東以外でのレースが可能になるということは、ようやくモータースポーツ界でもコロナ禍の出口が見えてきたという印象ですね。今年の夏の段階では開催はかなり厳しいと見られていた、陸続きになっていない国での開催=フライアウェイ戦ですが、大西洋を越えて開催されることになりました。
「FIMスーパーバイク世界選手権」の2021年シーズンも残すところ2戦=6レース。しかしながら、チャンピオン争いが熾烈になるクライマックスの2戦がアルゼンチン、そして全員が初走行のインドネシアの新サーキットとレース展開が予想しづらいコースであることも、チャンピオン争いに向けた興味をより掻き立てる要素となっています。
チャンピオン争いに残っているのは今季、それぞれのメーカーの代表としてレースを牽引してきたファクトリーライダーたち、ランキング首位のトプラク・ラズガットリオグル(ヤマハ)=478点、ランキング2位のジョナサン・レイ(カワサキ)=454点、そしてランキング3位のスコット・レディング(ドゥカティ)=424点。第12戦アルゼンチンの3レースが終了した時点で、首位のラズガットリオグルが2位以下に25点+12点+25点の62点以上をつけていればインドネシア戦を待たずしてチャンピオン決定となります。
前回のアルガルヴェのレースは波乱の展開となり、レース1でジョナサン・レイ(カワサキ)がまさかの転倒。そして雨のレースになったスーパーポールレースでもレイはトップ走行中に続けて転倒。これでチャンピオン争いの流れは完全にトプラク・ラズガットリオグル(ヤマハ)に傾いたかと思いきや、なんとレース1でレイが転倒したのと同じポイントで転倒。ここにきてラズガットリオグルもノーポイントレースを作ってしまったのです。
いやぁこれぞ真のチャンピオン争いですよ。毎度毎度の上位3人によるスリリングなトップ争いはいつも面白いのですが、チャンピオン候補たちがミスを繰り返したり、そのミスがライバルにも連鎖したりと、ここまで安定した走りを展開してきた上位ランカーたちが限界点を越えてしまう。しかも6年連続でチャンピオンを獲得してきた生きるレジェンド、ジョナサン・レイ(カワサキ)までもが転倒してしまうという状況は普通ではありません。
トプラク・ラズガットリオグル(ヤマハ)のレース2の転倒は参戦4年目にしてチャンピオンが見えてきた彼にのしかかる大きなプレッシャーを感じますし、そういう意味でも今季の「FIMスーパーバイク世界選手権」は特別ですね。そんなチャンピオン候補の筆頭、トプラク・ラズガットリオグルのプロフィールを改めて紹介しておきましょう。
ラズガットリオグルはトルコ出身の24歳。スーパースポーツ世界選手権で5度のチャンピオンを獲得したトルコ人ライダー、ケナン・ソフォーグルに見出され、弟子として指導を受けながら、2018年からFIMスーパーバイク世界選手権」に参戦しています。
師匠のソフォーグルと違い、ラズガットリオグルは600ccのスーパースポーツ世界選手権ではなく、さらに市販車状態に近いストック車両で争うスーパーストック欧州選手権などに参戦。その才能を評価され、カワサキのサテライトチームからデビューすることになりました。
1年目からいきなり印象的な走りを展開し、イギリスのドニントンパークでは2位表彰台を獲得。存在感を示し、翌年は鈴鹿8耐のKawasaki Racing Teamのライダーにも選ばれるほど高い評価を受けました。
そんな高い評価を得るに至ったレースの一つが、2018年のアルゼンチン、サーキット・サンファン・ヴィクリムのレースです。1周約4.3kmの新設コースで初開催されたレースで3位表彰台を獲得したのです。当時はレイ、メランドリなどすでにベテランの領域に入ったライダーたちが強さを見せていた時代。そんな中で若干21歳の若手ルーキーがメーカーの息がかかった1000ccバイクを乗りこなす姿は衝撃的でした。
将来的にはカワサキのファクトリーチームに入ると見られていたラズガットリオグルでしたが、レイを中心にした体制のカワサキを離れ、ヤマハ入りを決断。ヤマハYZF-R1の進化もあり、今まさに王座を手中におさめようとしています。
大事な局面で過去4レース表彰台に上がっているアルゼンチンでのレース。チャンピオン争いの追い風はラズガットリオグルに向けて吹いていると考えていいでしょう。ここでタイトルを決めるかどうかはレイの成績次第ということになりますが、少なくとも王手をかけることになるのか、それともプレッシャーから窮地に追い込まれるのか、今季の最重要レースはこのアルゼンチンでのレースになることでしょう。
文:辻野ヒロシ
辻野 ヒロシ
1976年 鈴鹿市出身。アメリカ留学後、ラジオDJとして2002年より京都、大阪、名古屋などで活動。並行して2004年から鈴鹿サーキットで場内実況のレースアナウンサーに。
以後、テレビ中継のアナウンサーやリポーターとしても活動し、現在は鈴鹿サーキットの7割以上のレースイベントで実況、MCを行う。ジャーナリストとしてもWEB媒体を中心に執筆。海外のF1グランプリやマカオF3など海外取材も行っている。
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