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モーター スポーツ コラム 2021年9月3日

SUPER GT 第3戦:堤 優威(No.244 たかのこの湯 GR Supra GT) 「安堵の気持ちとうれしさと、申し訳なさの全部が混ざっていた」

SUPER GT あの瞬間 by 島村 元子
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No.244 たかのこの湯 GR Supra GT

第3戦を制したNo.244 たかのこの湯 GR Supra GT

「SUPER GT あの瞬間」と題して、レース内容をドライバー自身に振り返ってもらう本企画。一部映像化し本コラムの最終ページで視聴可能である一方、本コラムでは余すことなく全文を紹介する。

レース終盤まで、手に汗握る攻防戦が繰り広げられた第3戦鈴鹿。予選3位から速さを活かしたレース運びでトップ争いを続けたNo.244 たかのこの湯 RC F GT3。終盤、粘りに粘って逆転を果たし、チームとしてはもちろん、ふたりのドライバーにとっても初優勝を達成した。今シーズン、レギュラードライバーの座を掴み、SUPER GT初勝利を飾った堤 優威選手にその戦いを振り返ってもらう。

──堤選手にとってはもちろん、今回はチーム初優勝でもありました。レース直後、翌日で気持ちに変化はありましたか?
堤:優勝した当日はホントうれしかったのですが、僕自身あまり実感がないというか、こみ上げてくるものが今思うと少なかったんです。でもやっぱり時間が経つにつれて連絡をくださる方がたくさんいて……。お祝いの言葉をいただき、そこでやっと優勝できたんだという実感が湧いてきて、次の日くらいが一番うれしかったです。ニヤニヤしていたかはわからないですが、J SPORTSさんの動画を振り返って見たり、写真を見て『あのときこうだったな』とか思い出しながら感傷に浸っていました。

──昨シーズンの最終戦、244号車からスポット参戦、今シーズンはレギュラードライバーの座を掴みました。ご自身のことを「与えられたチャンスをモノにするタイプ」だと思いますか?
堤:僕自身、あまり昔からレースに対してヤル気はあったんですが、希望どおり乗れない(=参戦できない)という環境にいたので、走りでどうにかするしかないと常に思っています。大事な局面で結果を出してきたし、運が良かったことも多々あって、ここ1、2年は運と実力が噛み合い、このような環境にいられるということは自分でも頑張ったことだと思いますが、周りの人も支えてくださったのがホント大きいかなと思います。

──運と実力が噛み合って、ということですが、ドライバーとしての自分の強み、アピールポイントはどんなところですか?
堤:僕はどんなクルマ__今まで乗ったクルマだけですが、初めて乗ったときからある程度タイムを出すことができて、そのクルマの特性を掴むのが自分としては早いかなと思います。なので、昨年も代役で(SUPER GTに)参戦させていただいた(※1)んですが、どのクルマもすぐに乗ることができました。結果的に最終戦でたかのこの湯のMax Racing(244号車)さんに乗らせていただいて、そのときにミスなく結果を残せたのが、今に繋がっているのかなと思います。

※1:昨シーズン、第2戦から第5戦まではNo.35 arto RC F GT3で、第7戦はNo.6 ADVICS muta MC86に、最終戦ではNo.244 たかのこの湯 RC F GT3からスポット参戦している。

レース前に笑顔を見せる堤選手

レース前に笑顔を見せる堤選手

──前回、第4戦もてぎで予選2位、決勝4位の結果を残したことがいい流れとなり、今回の快進撃に繋がったと思いますか?
堤:今年からGR Supraをメンテナンスしてくれている土屋エンジニアリングの土屋武士さん、(チーム監督の)田中哲也さんとともに、イチからクルマを作り上げていく中で、タイヤテストに参加させてもらったということもありますが、前回のもてぎからドライバーとクルマがうまく合致してきたというか、(クルマのことを)うまく理解できたことでセッティングを進める方向などもわかって、やっとモノになってきた感じがします。

──鈴鹿戦ではノックアウト予選Q1(B組)を担当。A、B組でのトップタイムになったことは大きな自信になりましたか? 一方でQ2担当の三宅淳詞選手にはプレッシャーがかかったかもしれませんね。
堤:セクター1で前にランボルギーニがいて、ちょっとだけミスをしてしまったんですが、それ以外は完璧なアタックで、僕自身も出ると思わなかったタイムが出て非常に自信に繋がりました。チームの士気も上がったので、ホントいいアタックだったかなと思います。実は開幕戦の岡山でも僕がQ1を担当してトップだったときに、(Q2担当の)彼(=三宅)が非常にプレッシャーを感じていて……。今回も僕が(Q1で)トップを獲り、彼にもチームからのポール(ポジション)への期待がすごく高まっていた中で、途中までナイスなアタックだったんですが、最後のシケインでちょっとミスをしてしまって……。それがなければトップだったかもしれないんですが、トップ(タイムをマークしたNo.61 SUBARU BRZ R&D SPORT)山内(英輝)選手も速かったので。三宅選手のアタックもすごく頑張ったし、特に責めることもなく『明日頑張ればいいよ!』と声をかけました。

──今季ベストリザルトからの決勝を前に、チームではどのような戦略を立てたのでしょうか?
堤:3番手からのスタートだったので、スタート後、僕に交代するまでの間でどのポジションにいるか、後続とのタイム差を気にかけて、その時点でタイヤは無交換か、2輪交換か、4輪交換でいくか……という作戦は立てていました。実際、三宅選手はトップに立ってから(※2)ペースが速く、後ろのフェラーリ(9号車)を離していたし、今回は僕らのクルマのセットアップが本当に決まっていて、逃げられるなと思っていました。ただその中で(タイヤ)無交換をするチーム(※3)がいたので、(自分のチームが作業を終えて)ピットを出たときは、『前に行かれちゃうかな』と思いました。案の定(先に)行かれましたが、ただタイヤが新しい分、ペースには自信がありました。

※2:13周目のダンロップコーナー入口で、クラストップの61号車を抜いてトップに浮上。このとき、3番手のNo. 9 PACIFIC NAC CARGUY Ferrariも61号車を逆転し、2位に上がった。その後、244号車は24周終わりでピットイン、タイヤ4本交換を行う。

※3:13周目の時点で4位に着けていたNo. 5 マッハ車検 GTNET MC86マッハ号は、21周終わりのピット作業でタイヤ無交換を敢行する。

──コースに戻ると、ひと足先にタイヤ無交換でコースに復帰した5号車に先行され、事実上のトップを譲る形に。コースインしたときの気持ちはどのようなものでしたか?
堤:ピットを出た瞬間はまだ1位でしたが、タイヤが冷えていて1~2コーナーでパスされてしまって。チーム的にはたぶん1位でおさえてほしかったと思うんですが、僕は内心そんなに焦っていなくて『いつか抜けるだろうな』と思っていました。

5号車との激しいバトルで観衆を魅了した

5号車との激しいバトルで観衆を魅了した

──レース後半の35周目あたりから西コースで雨が降り始めました。5号車を追う中でなにか変化はありましたか? また、背後からベテランの小暮選手も迫ってきました。
堤:車両の差として、我々のSupraは速いと言われてはいますが、僕らのSupraはコーナリングが速く、逆にストレートは5号車に比べて遅かったんです。そういうところで抜くまでに至らないというか、追いつきはするけれど抜けないというフラストレーションが結構溜まり、ちょっと難しい展開でした。彼(5号車の平木玲次)も結構ブロックがうまくて、おさえるべき要所要所でしっかりとおさえていたのでなかなか難しかったです。後方からは88号車(JLOC ランボルギーニ GT3/小暮卓史)が来ていましたが、まず最初、5号車に追いついたときには後ろと7秒以上差があると言われていたので(5号車との)一騎打ちかなと思っていいました。ところが僕が(5号車を)仕掛け続けたあまり、前も僕を意識してかペースが下がっていて。(88号車に)追いつかれたときには『ちょっとどうしようかな』という気持ちになりましたね。ちょうどGT500クラスの3、4番手争いが熱かったので、その中で『GT500を利用してなんとか抜けないかな』とずっと思っていましたし、変に仕掛けると88号車にもやられてしまうと思っていたので、あまり無理な仕掛けはせずに時を待っていました。タイヤも4輪交換をしていたので、速さには自信がありました。

──迎えた38周目、ついにトップ奪還。その後、緊張することはなかったですか?
堤:あのときGT500クラスは来ていなかったのですが、僕らはダンロップコーナーが速かったので、平木選手は多分バックミラーで大きくなってくる(244号車の)姿を確認していたと思います。デグナーの1個目で彼がちょっと内側の縁石に乗ってしまい、クルマがはねたときに『ここしかない!』というところで2個目に向けてインに(クルマを)ねじ込んだ感じです。そのときは(監督の田中)哲也さんから『よくやった!』と言われて。『あと、落ち着いて走れよ」という言葉をいただきました。(クラストップを奪取後)僕自身、そんなに緊張はなくて普通に走っていれば後ろは引き離せるだろうと思っていたので、とくにミスすることもなく平常心で走ることができました。

──とはいえ、チェッカーわずかとなった46周目、ヒヤリとする場面(※4)がありましたよね!?
堤:(苦笑)。あのときも、チーム無線で(監督の田中)哲也さんから『もうちょっとやから安心していけよ』と言われてて、『了解です!』と。『GT500クラスが来てるから、ちゃんと避けてなぁ』、『了解です』と言った2秒後にああなってしまったので……。僕自身、しっかりと見てはいたんですが、GT500クラスの36号車(au TOM’S GR Supra)の坪井(翔)選手とは普段からしゃべる間柄なので、お互いちょっと油断したというか……。僕からしたら『来ないだろう』と思ったし、向こうも『避けてくれるだろう』と思った不注意から来る接触だったんです。お互いよく見えていたので、接触も最低限で抑えることができて、今思えば結構チームに対してはだいぶヒヤヒヤする場面だったと思いますが、無事走れて良かったです。(レース後)表彰台に向かうときに、(坪井から)『優威、さっきはゴメン』、『いや俺のほうこそゴメン』と言いました。のちほどLINEでも謝られて。『いや、大丈夫だよ』と返しました(笑)。

※4:S字コーナーの入り口でNo.36 au TOM’S GR Supraが244号車のインに飛び込み、接触。S字のグラベルを突っ切る形で244号車はコース復帰する。

──ヒヤリとした接触を経て、念願のクラストップチェッカーを受けました。そのときどのような気持ちが最初にありましたか?
堤:えっと……(苦笑)。無線で『ぶつかってすみません』と言いました(笑)。チェッカーのときに、チームから『よっしゃー! 優勝だよ!』と言われたときに『ありがとうございま~す』と。そのあとに『ほんと、ぶつかって申し訳ございませんでした~』って言いながら、1コーナーを曲がっていきました。みんな(優勝して)『よっしゃーっ』ってなる場面だと思うんですが、(接触で)たぶん左フロントのカナードが取れてしまったので、ドライブしていてちょっと曲がらなくなってしまったなと思いつつ最後まで走り切れるかなという不安とその中でチェッカーを受けたので、安堵の気持ちとうれしさと、申し訳なさの全部が混ざっていました。

チームにとっても悲願の初優勝を果たした

チームにとっても悲願の初優勝を果たした

──心底うれしい気持ちが出てきたのは、いつになってからですか?
堤:表彰台が終わってからですかね。結構(レース中は)車内も熱いし、乗り終わったあとは結構疲れていて。インタビューのときもマスクをするので呼吸が苦しくて。落ち着いたのは、表彰式が終わったときくらいに、やっとうれしいなという気持ちになりました。チームのみなさんとは(ピットの)片付けが終わるくらいにやっと合流して。最後には記念撮影もしましたが、感謝の気持ちを無線で伝えただけだったので、ちゃんと顔を見て『ありがとうございました』と言えて良かったです。まだ4戦目ですが、ありがとうという気持ちが大きくて、このチームで良かったなと思いました。あと、チームオーナー(大野剛嗣エントラント代表)がコロナ禍でサーキットに来られておらず、まず電話ですぐに報告させていただきました。チーム結成2年目ですが、(オーナーからは)『まず表彰台』とずっと言われていたのですが、初表彰台が初優勝ということでいいプレゼントができたかなと思います。レース後、三宅選手は『人のレースを観てるの、こんなに心臓が痛いんだ』って言ってました。(堤が)5号車に引っかかっているときも、控室でずっと『どいてくれ!』と連呼していたそうです。僕より彼のほうが熱かったかもしれないですね。

──初優勝の”意地悪な”お祝いとして、コースオフしたことをイジられませんでしたか?
堤:いやぁもう結構いろんな人から、『なにダート走ってんの!?』とか、写真を送られてきて、『なにやってんの?』って(苦笑)。『単独(のコーフオフ)じゃないよね?』って。『単独じゃないですよ』って返しましたし。『最後までヒヤヒヤさせてエンターテインメントなレースをしてくれて、観てる方としては楽しかったよ』と言ってもらいました。

──シリーズランキングトップでシーズン後半戦に入ります。この先の抱負を聞かせてください。
堤:ポイントランキングトップとなり、サクセスウェイト102kgになる中で、SUGO戦、オートポリス戦を迎えますが、クルマ的には非常に得意だと思います。またドライバー自身もSUGOはふたりとも得意ですし、後半戦はシリーズを考えると1戦も落とせない戦いになってくると思いますので、ミスなくチームと走り切ることが大事かなと思います。その中で結果が出ればうれしいのですが、ドライバー、チームともにミスなく(レースを)終えることが、最後に笑って(シーズンを)終えられることになるのかなと思いますね。

──ところで、堤選手は社員ドライバー(※5)だそうですね。
堤:僕がこの会社に入ったのは、TOYOTA GAZOO Racing 86/BRZワンメイクレースというレースからなんですが、そこから会社のサポートを受け、SUPER GTのGT300クラスで勝つことができるまで成長させていただいたので、この先、GT500に挑戦したいという気持ちがさらに大きくなりました。どういう形であれ、GT500クラスに参戦したいなという気持ちはあるので、がんばります。ぜひ、みなさんファンになってください! 僕自身も目立ちたい派なんですが、レースがもっともっと有名なものになってほしいなとも思います。

※5:株式会社東名に所属。同社では、TbyTwo CABANA Racingを運営する。

趣味のゴルフではベストスコア79で腕前を持つ堤選手

趣味のゴルフではベストスコア79で腕前を持つ堤選手

──最後に。最近、感じた小さな幸せを教えてください。
堤:ゴルフが趣味なんですが、今やり続けて2年終えたところで、初めてベストスコアの79が出せました。自分の中でレースで勝ったことのようにうれしかったです。ゴルフって集中力が大事なスポーツなので、例えば1回ミスしても次(のホール)までには引きずらないだとか、同じことの繰り返しとかレースと似ている部分が多いと思います。負けず嫌いの人がうまくなるスポーツだなというところではレースと似ていて、メンタルトレーニングだったり運動するので、良いスポーツかなと思います。

文:島村元子

【SUPER GT あの瞬間】

第3戦:堤優威選手(No.244 たかのこの湯 GR Supra GT)

島村元子

島村 元子

日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。

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