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モーター スポーツ コラム 2021年2月24日

【フォーミュラE開幕特集】今年から世界選手権になるフォーミュラE基礎講座

モータースポーツコラム by 辻野 ヒロシ
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フォーミュラE

今季からはF1やWRCと同じ「世界選手権」のステータスに昇格

いよいよ今季から世界選手権になる電気自動車レース「フォーミュラE」、そのシーズン7(2020年〜2021年)が2021年2月26日(金)〜27日(土)に中東サウジアラビアのディルイーヤで開幕します。J SPORTSでは今シーズンも生中継を中心に全戦を放送するほか、J SPORTSオンデマンドでのLIVE配信が実現しました。

電気自動車のフォーミュラカーレースであることは説明不要だと思いますが、その中身は何となくしか知らないという人も多いかと思います。そこで今回は「フォーミュラE基礎講座」として、フォーミュラEの基本中の基本を分かりやすく解説していきましょう。

フォーミュラEの特徴は大きく3つあると考えます。まず、一つ目は「自動車メーカーの参戦」です。

世界の自動車産業がどんどんと電気自動車や燃料電池車に代表される二酸化炭素を排出しない「カーボンニュートラル」の乗り物を作ることにシフトしてきているのは皆さんご存知だと思いますが、早い国では2025年に、多くの国で2030年にはガソリン車あるいはハイブリッド車の新車販売が禁止になってしまいます。もう直ぐ先の話ですね。

各国の自動車メーカーは次世代モビリティの覇権を取ろうと、イメージ戦略に躍起になっています。すでに電気自動車に取り組んでいたメーカーはもちろん、後発のメーカーもいかにも「やってます感」を出すためにあの手この手のプロモーションを仕掛けています。その一つが電気自動車レース「フォーミュラE」への参戦です。

始まったばかりのシーズン1(2014年〜15年)はルノー、アウディ、そしてインドのマヒンドラくらいだったのが、モーターなどのパワートレイン開発が許可されたシーズン2(2015年〜16年)からはDS(シトロエン)、シーズン3(2016年〜17年)からはジャガー、シーズン5(2018年〜19年)はルノーが日産にブランド変更したほか、BMWが参戦。そして昨シーズンのシーズン6(2019年〜20年)はメルセデスベンツとポルシェというモータースポーツの巨人が参戦してきました。

中国のNIOなどスタートアップの自動車メーカーも含めるとF1を上回る自動車メーカーがトライしてきたフォーミュラE。今シーズン(2020年〜21年)もDS、アウディ、ポルシェ、メルセデスベンツ、BMW、日産、ジャガー、マヒンドラ、NIOという世界各国の自動車メーカーが名を連ね、まさにバズってるモータースポーツと言えるのかもしれません。

そういった盛り上がりもあり、今季からはF1やWRCと同じ「世界選手権」のステータスに昇格。中身は昨シーズンと基本的には変わりませんが、フォーミュラEはスタートアップのレースから最高峰のプレミアレースへと昇格したというわけです。

そして、フォーミュラEの特徴2つ目は「都市型モータースポーツ」であることがあげられます。電気自動車のレースですから、エンジンのエキゾースト音がないため騒音問題になりにくいことから、そこをプラスに捉えて大都市の中心部で開催されています。

これまでもパリ、ニューヨーク、ロンドン、ローマ、モンテカルロ(モナコ)、チューリッヒ、香港などの中心部で市街地の行動を使ったレースが開催されてきましたし、アジアや南米のリゾート地のレースもありました。人里離れた場所にあることが多い常設サーキットと違い、街中の中心地でレースイベントが開催することで、新しいファン層を取り込もうとしているのです。

参戦する自動車メーカーとしても市販車を展示したりするプロモーションイベントとしては都市部は最高のロケーションですし、誘致する都市にとってもテレビ中継を通じてシティセールスができるというメリットがあります。F1で市街地レースをするよりも権利料も準備費用もかなり安く済むはずです。

現在のフォーミュラEは第二世代の「Gen2」というシャシーを全チームが使用する、いわゆるワンメイクのレースです。モーターやインバーターなどのパワートレインは各メーカーでの開発が許可されていますが、現状は最大出力250キロワット(340馬力)程度。さらに車重がドライバー込みで900kgと重いマシンになるのでスピード域としては決して刺激的な速さというわけではありません。

ただ、その分、1周2km〜3kmという短いコースでもレースができてしまうので、広大なエリアの市街地コースを作らなくても良いというメリットがあります。本来は今季からさらにパワーアップしたマシン「Gen2 EVO」を投入予定でしたが、コロナ禍の影響で来季に持ち越しされました。

そして、最後3つ目は「今までにないゲーム性」です。フォーミュラEのマシンはまだエンジン車のレーシングカーに比べるとスピードで劣る状態です。モータースポーツとして既存のレースと同じ土俵で戦っても迫力面で負けてしまいます。だからこそ、今までにない発想の「ゲーム的要素」を盛り込み、新しいファン層を拡大しようとしているのです。

例えば、初年度のシーズン1から設定されている「ファンブースト」。これはファンによるドライバー人気投票で上位5人になったドライバーがレース中に1度だけ最大出力250キロワットで走れるようになり、追い抜きチャンスを促進するシステムです。いわばパワーアップボーナスのようなもので、ファンも参加して楽しむレースを演出しています。

そして「マリオカートみたい」と話題になった「アタックモード」がシーズン5(2018−19年)から導入されました。アタックモードを有効化するためにアクティベーションゾーンを通過すると一時的に35kWのパワーアップが可能になるシステムです。アクティベーションゾーンはコースの最速ラインからは外れているので通過するとタイムロスしてしまいますが、ここぞ勝負所というタイミングではパワーアップの恩恵を受け、追い抜きがしやすくなるのです。どのタイミングで使うか、駆け引きとバトルもフォーミュラEの楽しみです。

既存のモータースポーツファンにはこういった演出に抵抗を示す人もいるのは事実ですが、「フォーミュラE」をきっかけにモータースポーツに関心を持つ新規ファン獲得を狙っているのです。特に若い世代は子供の頃からテレビゲームに親しんだ世代ですから、今後さらにゲーム性のある新しい演出が生まれてくるかもしれません。

そう、いろんな意味で既存のモータースポーツは違うアプローチを行ってきた「フォーミュラE」。今季はスケジュールがまだ完全には確定してはいませんが、世界選手権として大いに注目されるシーズンになると思います。まだ歴史が始まったばかりの新しいモータースポーツですから、今までモータースポーツを見てこなかった人にも楽しんでもらいたいと思います。

文:辻野ヒロシ

辻野 ヒロシ

辻野 ヒロシ

1976年 鈴鹿市出身。アメリカ留学後、ラジオDJとして2002年より京都、大阪、名古屋などで活動。並行して2004年から鈴鹿サーキットで場内実況のレースアナウンサーに。
以後、テレビ中継のアナウンサーやリポーターとしても活動し、現在は鈴鹿サーキットの7割以上のレースイベントで実況、MCを行う。ジャーナリストとしてもWEB媒体を中心に執筆。海外のF1グランプリやマカオF3など海外取材も行っている。

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