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モーター スポーツ コラム 2021年1月20日

2020スーパーフォーミュラ総集編:“悔しさ”から手にした“力強さ”……山本尚貴、2度目の国内二冠への道のり

モータースポーツコラム by 吉田 知弘
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スーパーフォーミュラとSUPER GTを制した山本尚貴

新型コロナウイルスの影響で、変則的なシーズンとなった2020年のスーパーフォーミュラ。当初の予定より約5ヶ月遅れの開幕となり、わずか4ヶ月で7戦をこなすハードスケジュールとなった。さらに感染防止対策のため、パドック内に立ち入る関係者を厳しく制限したほか、サーキットに集結する時間を低減するため、予選と決勝を同日開催に変更。レース中の給油も禁止してレース距離を短縮するなど、これまでとは戦い方も大きく異なった。

その異例とも言えるシーズンを最終的に制したのが、山本尚貴(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)だった。彼にとっては2013年、2018年に続いて3度目となる国内トップフォーミュラ制覇となったのだが、以前の2回とは異なる“力強さ”が際立ったシーズンだった。

2018年にスーパーフォーミュラとスーパーGT(GT500)を制し、国内二冠王に輝いた山本だが、2019年は一転して悔しいシーズンとなった。特にスーパーフォーミュラでは、ニック・キャシディ(VANTELIN TEAM TOM’S)と最終戦まで王座をかけて争ったが、一歩及ばずチャンピオン獲得ならず。初タイトルに歓喜するキャシディの後ろで、山本は人目をはばからず悔し涙を流していた。

「今年は何としてもチャンピオンを奪い返したい」

2019シーズン終了後、山本は我々の取材やイベントでのトークショーなどで、繰り返し強調していたのが、この言葉だった。

もちろん、チャンピオンを獲りたい気持ちはどのドライバーも抱いていることだが、その中で山本が意識していたのが「最終戦で必ずチャンピオン争いの渦中にいる」ということだった。

現在のスーパーフォーミュラでは、最終戦までチャンピオン争いがもつれ込み、そこでいかに良いレースができるかで年間王者の行方が左右している。山本はチャンピオン獲得のための第1ステップとして、目の前のレースも重要なのだが、最終戦に向けてどのようにしてポイントを稼いでいけるかを特に意識している姿が各レースで垣間見えた。

第1戦もてぎでは、他車の接触もありノーポイントとなり、第2戦岡山でもトップ争いが加わることができず6位に終わった。それでも、山本は「チャンピオン争い」を強く意識しているコメントを繰り返していた。第3戦SUGO、第4戦オートポリスでは表彰台に立つものの優勝はできず。山本は悔しい表情を見せながらも「チャンピオン争いを考えるとポイントを積み重ねることができた」と前向きに捉えようとしていた。

第3戦SUGOにて今シーズン初表彰台に上った山本尚貴(右)。シーズン序盤は平川亮(左)の強さが目立った。

最終的にチャンピオンを奪い返すため、山本は悔しいレースが続いても気持ちを切らすことなく前に進んだ。

そんな中、ターニングポイントの1戦が訪れる。2019年に悔し涙を流した鈴鹿サーキットだ。スケジュール変更に伴い、例年よりも遅い12月の開催となり、土曜日と日曜日で1戦ずつ行う変則ラウンドとなった。

その1レース目となる第5戦で“鈴鹿で強い山本尚貴”が帰ってきた。午前中の予選で1分34秒533を叩き出しポールポジションを獲得すると、決勝もスタートから後続を寄せ付けない走りでトップを死守。特にレース終盤には1分37秒850のファステストラップを叩き出し、後続のライバルを圧倒。2020シーズン初勝利をマークした。

レース後の記者会見をはじめ、その後応じてくれた取材の中で、山本は杉崎公俊エンジニアへの感謝の気持ちを伝えていた。

「今回は杉崎さんが用意してくれたクルマが素晴らしくて、彼の頑張りなくして、この勝利はなかったです。本当にエンジニアの杉崎さんには頭が上がらないです」

2019年の鈴鹿で経験した敗北は、山本にとっても、そして杉崎エンジニアにとっても悔しいもので、レース後はお互いが「申し訳なかった」と言い合って悔し涙を流していた。ただ、それで終わらせることなく、“今度こそ鈴鹿で勝つため”の準備をふたりで進めてきたのだ。

「得意な鈴鹿だからこそ、2019年の最終戦では全然うまく走れない感覚がありました。それはTEAM MUGENで調子よく走っていた頃のフィーリングが体の中にあって……申し訳ないけど、あの時のフィーリングとはかけ離れていたし、合わせ込むことができませんでした」

「その理由が何なのかをずっと杉崎さんと話し合ってきました。いろんなアイディアを出してきました。その全てが組み合わさって、この鈴鹿で素晴らしいパフォーマンスを発揮できるクルマを作り上げてくれました。同じ鈴鹿サーキットで2019年はお互い悔し涙を流した1戦でしたが、今回はこうして勝つことができて、リベンジをしっかりとできました。今までの自分のレースの中で、トップ3に入るくらい嬉しかった勝利です」

鈴鹿マイスターの本領を発揮し、第5戦で今シーズン初優勝。レース後、勝つための準備をしてくれた杉崎エンジニアと喜びを爆発させた。

翌日の第6戦ではマシントラブルのためリタイアとなってしまったのだが、明らかに山本の目つきが変わったのは、ここからだった。最終戦ではチャンピオン獲得候補のドライバーが集まって記者会見が行われる。山本は、この場に2018年、2019年に続いて3年連続の登場となったが、以前の2回とは異なり、確固たる自信を持った表情で、堂々と質問に答えていた姿が印象的だった。

この最終戦では同点対決となった平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)のみならず、野尻智紀(TEAM MUGEN)やニック・キャシディ(VANTELIN TEAM TOM’S)など、他のチャンピオン候補も山本を脅かす存在となったが、どんな窮地に立たされても山本は冷静さを失わなかった。“チャンピオン獲得のためにやるべきこと”を確実に遂行し、自身3度目となるチャンピオンを獲得した。

レース結果としては優勝や表彰台ではなく5位ではあったが、山本がチャンピオンを獲得するにふさわしい“力強さ”が感じられた1戦だった。

振り返ってみると、山本は過去に経験した敗北から何かを学び、それを力に変えて結果を出している。スーパーフォーミュラで言えば、2017年はチームメイトとなったピエール・ガスリーが大活躍を見せた一方で山本は満足にポイントが獲得できなかった。そこで経験したことを2018年に活かし、様々な結果に柔軟に対応していって、スーパーフォーミュラ、SUPER GTの国内二冠に輝いた。

そして2019年の得意だったはずの鈴鹿で敗北した悔しさを糧にチームとともに努力を続け、見事にリベンジを果たしたとともに、そこからチャンピオン獲得に向けて一気に突き進んでいった。

2019シーズンの終わりに山本はこのようなコメントをしていた。

「良かった時や勝った時よりも、負けた時の方が“得られるもの”が多いのかなと思います。この悔しさを晴らすには、ライバルに勝つことでしか打ち消せない。それが自分にとってモチベーションになっているのかなと改めて感じた部分もあります。このまま終わらないようにしなければいけませんし、このままでは終われません。絶対に巻き返したいなと思います」

レースの世界のみならず、どんな勝負ごとにおいて“負けること”は悔しいし、時には辛く感じるもの。そういう意味で山本は逃げ出したくなるくらい辛く悔しい想いを負けた時に経験してきた。ただ、彼はそこから逃げ出さずに何がダメだったのかを分析し、悔しさから手に入れた新たな強さが存分に発揮されていた印象だった。それこそが、山本が手強いライバルが多いスーパーフォーミュラで、頭ひとつ抜け出してチャンピオンを勝ち取ることができた大きな要因のひとつだったのかもしれない。

昨シーズンの悔しさを力に変えた山本 尚貴。今シーズンの最終戦は笑顔に溢れていた。

結果を見ても分かる通り『国内レースにおける“現役最強”』というにふさわしいドライバーと言っても過言ではないだろう。ライバルたちの間でも、すっかり「打倒ヤマモト」が合言葉になりつつあり、2021年は彼をどう攻略してチャンピオンを掴み取るのかが焦点となっていきそうだ。

そんな山本は、TCS NAKAJIMA RACINGに移籍して新シーズンを迎える。ナカジマレーシングは山本にとって国内トップフォーミュラデビューを果たした思い出の多いチーム。そこで、今度はどのような活躍を見せてくれるのか。それに対し、ライバルは、若手ドライバーたちは、どのように王者に立ち向かっていくのか…2021シーズンの開幕が待ち遠しい。

文:吉田 知弘

吉田 知弘

吉田 知弘

幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ

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