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WRCファンの皆様、新年明けましておめでとうございます。本年もJ SPORTSのWRC番組とこのコラムをよろしくお願いします。
今年のコラムは従来の各ラリーのご案内に加えて、裏話や少し本題より逸れた話題などを加えて脱線気味のトーンにしたいと思います。昔話が多くなると思いますが、現在は皆様がネットなどで簡単に情報を入手出来る時代になりましたので“新旧比較”のつもりでお読みください。文脈が突然飛ぶかもしれません。気にせずに読み飛ばしてください。
新シーズン、各メーカーの陣容と展望
初戦なので今年の新体制をサマリーしておきます。
まず年間カレンダーです。このところ年間13戦で推移してきましたが昨年いろいろ話題になったラリー・ジャパン、サファリの再開運動、フランス(コルシカ)の残留運動などが注目を集めました。結論としてはジャパンが実現せず、コルシカは残留、国家絡みの運動でチリが入り、イベントは1つ増の年間14戦でシーズン開幕です。チリは第5戦アルゼンチンの後、第6戦として開催されます。
メーカーチームのドライバー移籍もありました。
昨年メーカー選手権を久々に獲得したトヨタはラトバラ、タナクに加えシトロエンを昨シーズンに離脱したクリス・ミークを加えた3台体制。ヒュンダイはヌーヴィル、ミケルセンの2台に加えてローブとソルドの半数ずつの参戦で3台目を構成。フォードはエヴァンス、スニネンにティデマンドの3台。シトロエンはオジェとトヨタを離れた新鋭ラッピの2台体制でスタートします。ごく最近になってヒュンダイの監督ミシェル・ナンダンが退社したとの情報が入りました。優秀なエンジニア出身の鬼才でしたがヒュンダイは昨年・一昨年とかなりチャンピオンに迫っていただけに残念です。
ファンの皆様はこのメーカーチームの体制でどのチームがシーズンを通して有利と思われますか?
シトロエンでロケットドライバーとして話題を振りまいたクリス・ミークをトヨタが採用したのは意外でしたが、チーム監督が元一流ドライバーのトミ・マキネンですから暴走気味のミークをコントロールするのはエンジニア出身の監督に比べ有利かと思います。もしミークが暴走的にならなければトヨタは最強チームになる可能性が大きいと思います。ただし、モンテと次のスエーデンは特殊路面ですから評価はシーズン中盤まで待つ必要があるでしょう。
ヒュンダイはヌーヴィルがもう少し安定した成績を上げることが必要です。ヌーヴィルは優勝回数も多いが低ポイントのラリーも多い。必ずしもドライバーの責任でない車両不具合もあり気の毒な面もありました。ミケルセンには安定したサポート役を期待しましょう。ローブが経験を生かした成績を挙げれば面白くなります。
一方でフォードはこれといった成績はあまり期待できないのではないかと思われます。
タイヤ戦略がカギとなるモンテ・カルロ
モンテ・カルロラリーは100年の歴史を持つ名門ラリーです。その起源は観光シーズンを外れた真冬にもコート・ダジュールに豊かな観光客を集めようとしたものでした。第1回の開催は何と1911年。かつてはヨーロッパ各地から長距離ドライブでモナコに集結するコンセントレーションランに続いてアルプス山中の激しいラリー走行、そして最終日は台数を絞った“追加テスト”、そこには有名なチュリニ峠の複数回通過などスケールの大きいラリーでした。
現在ではFIA統一スキームの標準方式に変わっていますが、真冬のアルプス山岳地のターマックにおける雪や氷を読んだタイヤ戦略の面白さはこのラリーの焦点です。日なたはドライ、日陰はスノーやアイス、これが同じSSの中に混在するラリーにおいては局地天気予報、アイスノート・クルーや観客の中に混じっている情報提供者などが活躍します。私が初めてモンテのサポートをした1970年頃はフランスの小さな村は電話が手動でした。交換台はフランス勢に独占されていて外国のチームは連絡網を切られたこともありました。
今年のモンテは名物だったモナコのカジノ広場でのセレモニアル・スタートがなく、24日(木)のガップでのナイトステージから始まります。最近のラリーはナイトステージが減っていますが、ここでは昼間のような強烈な明るさを誇る補助ランプを楽しむことが出来ます。
今年のSSの構成は20キロ程度の中距離が中心ですが勝負のポイントはやはりタイヤの選択。スタッド、ドライ、ウエットをどう選択するかでタイムが大幅に違います。
シーズン開幕戦なのでベテラン、新進気鋭が車とのマッチングを図りながら最も難しいラリーに挑戦します。ここでは経験がものをいいます。オジェやローブあたりのフランス人経験者が有利とみます。
ラリー概要は下記のとおりです。
SS本数 | SS km | Liaison km | Total km | |
---|---|---|---|---|
Day 1 (1/24) | 2 | 41.35 km | 85.92 km | 127.27 km |
Day 2 (1/25) | 6 | 125.12 km | 331.94 km | 457.06 km |
Day 3 (1/26) | 4 | 93.38 km | 464.14 km | 557.52 km |
Day 4 (1/27) | 4 | 63.98 km | 160.60 km | 224.58 km |
Total | 16 | 323.83 km | 1042.60 km | 1366.43 km |
ラリー・ジャパン開催に想うこと
話題は全く変わりますが、昨年あたりからラリー・ジャパンの復活話が世間を賑やかせました。
1970年代のWRC創設以来、世界各国の自動車クラブが世界選手権開催に名乗りを揚げました。ラリーはレースと異なり機材が大きいので世界転戦の負担が大きいため年間のイベント数は制限せざるを得ません。自動車メーカーは年間6戦から8戦程度が適当と考えてきました。一方で希望者は増えるばかりです。ここ40年位毎年この議論を繰り返しています。モータースポーツはヨーロッパが中心という伝統的思想と、一方で世界選手権というには“世界的広がりを持つべき”との議論が交錯しています。WRCは現在アジアとアフリカが抜けています。総数に限りがあるとすれば、新しいところを入れるとなると既存のラリーを落とさなければなりません。FIAの会長選挙の候補者が投票の支持を得るためにラリー開催を推挙することもあるようです。かくして今までにWRC格で開催したイベントは現在の14ラリーの2倍位ありました。順序不同でキプロス、アイルランド、ノルウェー、ポーランド、ギリシャ、ケニア、アイボリーコースト、モロッコ、インドネシア、中国、アメリカ、ヨルダン、日本など。これまでに開催国を持ち回り形式にし、隔年開催とか3年に2回とか種々試みてきた歴史があります。一方でFIAはラリー規模の統一、サービス制限、メカニック人数制限、使用する車両の台数制限、主たる部品の使用数制限、体制(部品・サービス)のヨーロッパ外でのロジスティックスなど合理化の取り組みを強化し、コストを下げることでイベント数の確保に努めています。その結果、規模が画一化して個性が減少し、昔ほど面白くなくなったと嘆くオールド・ファンもいます。WRC開催を望む主催者はたくさんいますがギリシャのように財政的な理由で出来ないところもあります。サーキットレースに比べて入場料収入が殆ど無いのですからスポンサーだけが頼りです。メキシコやトルコのように国家予算の補助を受けているところもあります。
WRCには開催環境がその国らしい特徴や個性があり見て楽しいことが求められています。それにはトップドライバー達の走りが充分見られる環境が是非必要です。できるだけ多くのSSに観客が導入できるのかを主催者は考えてもらいたいものです。日本開催には道路使用、通信インフラの整備、ヘリの航行の自由度、救急体制、オフィシャルやマーシャルの確保と教育、など課題山積です。公道上のモータースポーツに対する社会的同意を得ることが一番のテーマとなるでしょう。日本開催の可否を注目したいと思います。
福井 敏雄
1960年代から欧州トヨタの輸出部員としてブリュッセルに駐在。1968年、トヨタ初参戦となったモンテカルロからラリー活動をサポート。トヨタ・モータースポーツ部のラリー担当部長、TTE(トヨタ・チーム・ヨーロッパ)副社長を歴任し、1995年までのトヨタのWRC圧勝劇を実現させた。
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