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24歳の青年は、皆に肩を叩かれても、ほんのわずかに口元を緩ませるだけで、視線をあげようとはしなかった。時折上げた視線は虚空をさまよっているようにも見えた。それは、前日の彼の表情とはまるで違っていた。
数日前のSNSで母国のヒーローたちと記念写真に収まっていた彼。満面の笑顔は少年のようだった。来日したラグビーのオールブラックスを表敬訪問した彼。「凄く緊張した。あんなに緊張したことはないよ。だって、オールブラックスの皆と会えるなんて、最高だった。レースのスタート前より緊張したよ」とニック・キャシディ選手は興奮して楽しそうに語っていた。それがスーパーGT最終戦、ツインリンクもてぎの土曜日、予選前のひとコマ。
2017年にはチームメイトの平川 亮選手との最年少コンビ、23歳でチャンピオンを獲得、今年も連覇するべく、臨んだもてぎ、同ポイントのTeam KUNIMITSU NSXとの対決となった。互いに前でゴールすればチャンピオン獲得。キャシディ選手自身も順位アップに成功。セカンドスティントでライバルNSXと3位争いを演じ、平川が最短0.4秒まで迫った。元F1世界チャンピオン、ジェンソン・バトン選手は若き平川選手の猛追を老練な走りで退けた。結果3ポイント差で連覇ならず。平川選手の落胆も大きかったが、第1スティントを終えて、ゴールまでのレースをモニターで見ていたキャシディ選手が残り4周で間隔が広がった瞬間に彼は天を仰いだ。
2週間前、スーパーフォーミュラの最終戦で作戦通りに2位へ順位アップ、終盤の猛追を見せるも0.6秒差でゴール、チャンピオン獲得はならなかった。シーズン半ば、スーパーGTとスーパーフォーミュラでダブルクラウンの可能性が生じたのに終わってみれば、両シリーズともランキング2位。彼に起こったことは、ネガティブと捉えられがちだけれど、国内で戦うプロフェッショナルレーシングドライバーの中で今最も勢いのある彼がこの年に起きたことをどのようにこれからの糧にするかは、彼次第。陽炎か蜃気楼の近づけば消えてしまったチャンピオンだけれど、キャシディの時代到来を期待させるに十分なシーズンであったのだから。
そして、今週末は、マカオGPです。
20世紀終わりから21世紀の始まりに生まれた若きドライバーたちによる予測不能な青春モータースポーツドラマが展開します。今年はどんなドラマ展開なのか楽しみにしています。現地から解説させていただきます。
高橋 二朗
日本モータースポーツ記者会。 Autosport誌(英)日本特約ライターでもあり、国内外で精力的に取材活動をするモータースポーツジャーナリストの第一人者。1983年からルマン24時間レースを取材。1989年にはインディー500マイルレースで東洋人としては初めてピットリポートを現地から衛星生中継した。J SPORTSで放送のSUPER GTのピットレポーターおよび、GTトークバラエティ「GTV」のメインMCをつとめる。
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