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モーター スポーツ コラム 2018年6月19日

ようやく開いた扉。ル・マンで愛されるために、さらなるストーリーを

モータースポーツコラム by 平野 隆治
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「ライバル不在」「勝って当たり前」……。そんな声が事前にも、事後にも渦巻いていた2018年のル・マン24時間。TOYOTA GAZOO Racingの初優勝は、LMP1のライバルたちがことごとくトラブルに見舞われていたこともあり、はた目にはイージーに成し遂げられたように見受けられるかもしれない。しかし、現地でそれを見守っていた立場からすると、そんな安易なものではない。

週末、チーム全体がどこかピリピリしていた。本来ル・マンというのは真剣な勝負の場でもありながらも、参加する側も楽しまなければいけない場所だ。ただ、パドックでも一種異様な空気を放ち続け、金曜の恒例のパレードでもドライバーたちは笑顔はみせていたものの、他チームの倍のスピードで駆け抜けてしまった。これはファンはもちろん、カメラマンたちにも大不評。「こんなことだから勝てないんだ」という声まで聞かれた。

レースがスタートしてからも、LMP1の非ハイブリッド搭載車との差は開く一方。ヨーロッパ人のジャーナリストからも「Boring(退屈だな)」という声が聞かれた。テレビも激戦が続くLM-GTE Proの戦いを追い続ける。ただその裏側で、冷静に、かつ高い緊張感をもちながら戦い続けたTOYOTA GAZOO Racingは、最後まで手綱をゆるめることなくチェッカーまで走りきった。心配されたトラブルは、7号車に序盤から起きたセンサーのトラブル以外ほとんど起きなかった。

トヨタが勝利に値する理由

筆者は今回のTOYOTA GAZOO Racingの勝利は賞賛に値するものだと思う。特にトヨタさんからお金をもらっているわけではない(この仕事を続けているなかで、直接なり間接なりで仕事をしたことは片手ほどもない)し、ヨイショするつもりもさらさらない。

ただ、ライバルたちがLMP1の活動を終えるなかで、この活動を続けるには大きな力が必要だったということがまず大事だ。もちろんメーカーワークスのライバルがいたら、今年も勝利はなかったかもしれないが。

そして、3位に食い込んだ3号車レベリオンR13との差はわずか12周だったのも加えておきたい。彼らは3分20秒前後のラップタイムを刻んでおり、12周差だと40分あれば追いつける計算になる。もしトヨタ勢にトラブルが起きた場合、その余裕は40分しかなかったのだ。大きなトラブルがひとつあればあっという間に追い抜かれる。手綱をゆるめる余裕などあるはずもない。その状況下で、これまで24時間を満足に走りきれなかったTS050ハイブリッドは、ワン・ツーという結果を残したからだ。

たしかに、プッシュせず走る余裕こそあったのかもしれない。終盤に7号車の小林可夢偉が「直前まで無線でピットに入ると言っていたのに、通り過ぎてしまった」というミスを犯したのも余裕があったからこそだろう。それでもトラブルなく、かつ一定のペース以上で走りきることが与えられた大きなミッションだったのだ。筆者は毎年、このル・マン24時間は「己の技術で、24時間を速く、かつ確実に走りきるレース」だと訴えてきたが、それを果たした彼らには、ル・マンウイナーの称号がふさわしい。

「とにかくホッとしました」とレース後繰り返した中嶋一貴の言葉は、ある意味“ホンネ”だろう。マスコミ好みの感動的なセリフではなかったが、長年現地で見てきた身からすると、この言葉はとても重みを感じる。

初勝利を輝かせるために、さらなるストーリーを

2012年からの挑戦は、6回目でようやく実を結ぶことになった。トヨタはル・マン24時間で勝利を掴んだことによって、歴史の扉をようやく開き、“名脇役”から脱することができたのだと思う。そして、筆者はトヨタに望むのは、今度はさらに“ストーリー”を築いてほしいと思うのだ。そして、ル・マンに愛される存在になって欲しい。

近年ではポルシェ、アウディ、過去にはメルセデスやジャガー、プジョー、ルノー、フェラーリ、フォード……。世界の自動車メーカーは、ル・マン24時間で“ストーリー”を築くことによって、そのメーカーの性能の高さ、信頼性の高さを示してきた。これは一度勝つだけでは築かれないし、来たるべきライバルと戦い、今度は勝者として振る舞ってこそ築かれるものだ。

そして、トヨタはこのル・マン/WECの活動をよりプロモーションに活かす努力をし、ル・マンで愛される存在になって欲しいと心から願う。ウイナーとして名を連ねることはできたが、その存在感はル・マンではまだまだだ。ポルシェやBMWの旗を振る人は多くても、トヨタの旗を振る人はまだほとんどいない。世界各国のファン、メディアに愛され、市販車のプロモーションに繋げるという面では、まだまだヨーロッパやアメリカのメーカーに学ぶべきところはたくさんある。

なんのためにモータースポーツを戦うのか。ヨーロッパのメーカーはその点は特に巧妙で、今季カテゴリーは違ってしまったが、今年のル・マンで最も存在感があったのはやはりポルシェだっただろう。トヨタは今年、会場内でGRスーパースポーツ・コンセプトの発表などを行ったが、今後さらにプロモーションとの密接な関係を築いて欲しいと願っている。

「良かったわね。おばあちゃんが日本の人たちへのお祝いにケーキを焼いてくれたよ」

ル・マン24時間の決勝レースが終わり、取り急ぎの原稿を書き終えテルトルルージュ先の民宿に戻ると、宿のママがそう教えてくれた。トヨタの初優勝は、フランスの地元の人々にもしっかり届けられている。ウイナーズクラブへの扉はようやく開いた。今年の歴史的勝利をより世界に響かせるために、トヨタにはさらなる伝説を作る努力を願いたい。

注記)FIA世界耐久選手権(WEC)が2012年に復活してからの挑戦回数。
トヨタのル・マン24時間レースへの挑戦は1985年から20回目。

平野 隆治

平野 隆治

1976年横浜市出身。モータースポーツ専門誌、サイトの編集部員を経て、2015年からモータースポーツを中心にした“自称なんでも屋”に転身。SUPER GTは10年以上ほぼ全戦現地で取材をこなしてきた。

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