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2000年の番組開始から15年以上に渡り、良質かつ多彩な企画で人気を博してきた、J SPORTSオリジナルサッカー番組「Foot!」。
2011年8月から、週5日放送のデイリーサッカーニュースとしてリニューアルし、世界のサッカー情報を余す ことなく紹介する。

Ben’s Foot! notes 2016年11月09日

16/17 Ben's Foot! notes ~Week 13~<後半>

foot!
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Week 13 後半: フーリガンの再登場?ウェストハムの新スタ問題

●新しいホームである、ロンドン・スタジアムで勝つようになるのに時間がかかったウェストハム。

●しかし、試合結果以上に大きな問題がある。

●それは、フーリガン時代を彷彿させる、サポーターの暴動事件である。

●これまで、一番著しかったのはEFLカップ、チェルシー戦の事件だった。

●新スタでロンドン・ダービーが初めて開催された試合では、サポーター同士でコインや壊した椅子を投げ込む事件などがあった。

●ウェストハムはその事件に参加した、凡そ200人のサポーターを特定し、永久入場禁止処分を下すという。

Karren Brady、副会長
●"Football doesn't want these people and, with over 55,000 supporters on our season ticket waiting list, we certainly don't need them at West Ham."
「フットボールにはあのような人たちが要らない。ウェストハムでは年間チケットのウェイティングリストに5万5000人もいるし、暴動を起こした人たちはもう二度と来なくて良い。」
https://twitter.com/karren_brady?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor

Slaven Bilic、監督
●"[I was] hurt... The club didn't deserve it, the players don't deserve it definitely, the fans didn't deserve it."
「それを見て、私も傷ついた。クラブも、選手たちも、真のファンたちも、このようなことをされるいわれはなかった。」
http://www.bbc.com/sport/football/37810269  



今季のタイムライン: 8月~現在に至るまでトラブルだらけ

出典:The Guardian紙

8月4日、NK Domzale戦
ELの予選から参加することになった為、初のホーム戦は予定より3日早く開催することになった。一部のサポーターからは、チケットに書いてある指定席番号が存在しない、或いは席に着いたら視界を遮るものがある、というようなクレームがあった。

8月21日、ボーンマス戦
「管理ミス」により、ウェストスタンドでの年間チケット保持者56人に席がなかった。その多くは仕方がなく、コンクリートの階段で試合を観戦することに。

8月25日、Astra Giurgiu戦
番狂わせでEL敗退。ホームサポーター同士がスタンドで喧嘩する映像がSNSに投稿された。ロンドン警視庁によると、傷害罪の疑惑で1人がスタジアムから外へ連れ出され、逮捕されたという。

9月10日、ワトフォード戦
ウェストハムが2点リードから2−4で大逆転負けを喫す。緩衝ゾーンの警備員がサポーター同士の衝突を止め切れず、10人のサポーターが強制的に外へ追い出されることに。クラブは「暴行に関与するサポーターには永久入場禁止を下すことがある」と発表。

9月13日
イギリスのエマージェンシー・サービス(警察・消防・救急)が利用する、「Airwave」という無線システムはロンドン・スタジアム内では利用できないことが明らかになる。その為、試合開催日に警察による対策することが不可能だと、ロンドン警視庁が発表する。

10月1日、ミドルスブラ戦
警備員の警戒線を突破し、ミドルスブラのサポーターを襲ったウェストハムのサポーター3人が逮捕される。ボトルやコインを投げ込まれたというクレームも。

10月26日、チェルシー戦
後半終了前、サポーター同士の喧嘩が見られる。サポーターは席を壊したり、コインや席の欠片などを投げ込む。



国会議員が「また起こった場合は無観客試合」を呼び掛ける
出典: Evening Standard紙、2016年10月27日

Mark Field国会議員
(シティーズ・オブ・ロンドン&ウェストミンスター選挙区、フットボール議員連盟副会長)

●"None of these problems were unforeseeable given the nature of the stadium.
「スタジアムの状況を考慮すれば、これらの問題は予測不可能ではなかった。」

●"Within the next 14 days, the West Ham board should present a detailed plan to the Football Association and Premier League outlining what they are going to do about security.
「ウェストハムのトップは14日以内に、スタジアムの安全をどうするかについて徹底的な対策企画をFAとプレミアリーグに提出するべきだ。」

●"There have been clear failings. If there is a repeat of the violence, the next two or three home games for West Ham should be played behind closed doors."
「これまで、失敗と不備があったことが明らかだ。暴行事件が再発する場合は、ウェストハムのホーム戦2、3試合は無観客試合にするべきだ。」


出典: Daily Telegraph紙、2016年10月27日
Damian Collins国会議員
(フォークストン&ハイズ選挙区、カルチャー・メディア・スポーツ議会特別委員会会長)

"[West Ham] should face playing behind closed doors if they can't police the ground properly."
「もしウェストハムがスタジアムの治安と秩序を維持することが出来なければ、試合は無観客試合にするべきだ。」



現地記者が指摘する、サポータートラブルの原因

出典: David Hytner記者、The Guardian紙、2016年10月27日

スタジアムのレイアウト
●新しいスタジアムで初めてのビッグマッチとなった、EFLカップのチェルシー戦。

●アウェイサポーター5182人に対して、ターンスタイル(ゲート)が8個しかなく、入場口が非常に狭いというクレームがあった。

●これにより、入場するのに時間がかかり、アウェイサポーターの怒りに繋がった他、群集事故にならないかという心配もあったという。

●分離がどうしても難しいという指摘がある。間に警備員が並ぶ緩衝ゾーンはあるが、特に帰りの際はアウェイ側のサポーターが通るルートはホーム側とすぐ隣である。

警備員
●キャパシティがアプトン・パークよりも遥かに多い為、警備員の人数を増やす必要もあった。経験の浅い警備員の割合が多くなった。

警察
●イギリスのエマージェンシー・サービス(警察・消防・救急)が利用する、「Airwave」という無線システムは来年の2月まで導入されない。
●しかし、それまでは中継車のような専門車をスタジアムの外で駐車することにより、警察の無線に必要な電波が届くように一時的な対策を設けることになった。

サポーター
●椅子を壊して、相手サポートに投げ込むという行為をしても良いと思っている大人がもちろん、何よりも一番大きな問題である。

●こんな行為をする人がいなければ、警察や警備の対策を強化する必要はそもそも、あまりないだろう。

●極一部ではあるが、初めてのことでもない。

●例えば、アプトン・パークで行われた最後の公式戦の前には、相手マンチェスター・ユナイテッドのチームバスがウェストハムのサポーターに襲われた。



この問題を受け、ベンが指摘する2つのテーマ

サッカーの暴行事件自体が社会問題ではない。むしろ、根本的な社会問題の現れである。
●まだまだ、1970年代や1980年代にあった「フーリガン時代」に戻ったわけではない。

●しかし、このような事件を完全に廃止できたとももちろん言えない。

●前ページに述べたように、一番大きな問題は、このような行為をする(しても良いと思っている)人がイギリスの社会にいることである。

●それを言い換えると、イギリス社会がそのような人を育てているのである。

●これまで、フーリガン問題などを廃止する為に、警察やサッカー界が力を上げて、色々な対策を実行してきたが、イギリスに限らず、イタリアや東欧の前例を確認してみると、フーリガン問題は全体的な社会不安と密接な相互関係を示すことが分かる。

●つまり、社会が全体的に健康であれば、フーリガン問題があまり起こらない。

●しかし、社会不安があれば、このような形で現れることがある。経済問題、社会経済問題、離職率、貧富の差、労使紛争というような背景があり、人々の不満がサッカー会場という舞台で表に出ることがある。

●リーマンショック→経済不況→キャメロン政権→緊縮財政政策→地方と労働者よりも首都圏とミドルクラスが優先される→地方と労働者が反発したくなる→EU離脱...というような近年のイギリス社会の流れについて、ますます心配。

●つまり、このような不満が暴行事件に繋がってきた面がある。暴行事件が不満の現れでもある。サッカースタジアムの安全はもちろんのこと、全体的にイギリス社会が心配。


ウェストハムにとって移転の目的は「イメチェン」だった。こんな事件で裏目に出ることも。
●ウェストハムは「人々の街中にあるスタジアム」から「金融街から電車一本でいける、最新のスタジアム」に移転することでイメチェンを図った。

●クラブのエンブレムに「LONDON」という文字を新たに入れるなど、古くから庶民の街だったウェストハムだけではなく、世界的大都市であるロンドンを強く意識したブランドに変わろうとしている。

●オリンピックスタジアムを中心に、新しく魅力的なイメージを作ることにより、クラブの「品」を上げることにより、より高収入の観客や、より豪華な選手、最終的にクラブに投資する投資家を引き付けるのが大きな目的である。

●しかし、新しいスタジアムが「大成功のロンドンオリンピック」という良いイメージよりも、「20世紀のようなフーリガンが再び現れた場所」というイメージになってしまうと、全てが大きくイメージダウンに終わってしまう恐れがある。



イメージダウンを1日でも早く避けるべく、クラブの対策5つ

出典: BBC、2016年10月29日

●社会から責任が問われたウェストハムはチェルシー戦の3日後、新たに5点の安全企画を発表した。

●これにより、1日でも早くスタジアムの安全を確保し、イメージダウンを避けたいところである。

(1)物の投げ込みをなくす為に、一階の緩衝ゾーンを広くし、両サポーターの間の距離を広げる。

(2)リスクと思われるグループをスタジアムから追い出す為に、「ゼロ・トレランス=一切容認しない」方針を導入し、一度でも暴行などに関与する人に永久入場禁止処分を下す。

(3)一階コンコースの通路で分離を強化する為に、より高いバリアを設置し、横幅10メートルの緩衝ゾーンを導入する。

(4)スタジアム周辺での衝突を避ける為に、ホーム側とアウェイ側の出口や退出ルートを物理的に分離する。つまり、アウェイ側の出口ゲートの両側に沿って物的障壁を設置することで、試合後にも両サポーターが混ざらないようにする。

(5)不適切な行為に対して抑止力を上げる為に、一部の警備員に手持ちビデオカメラを携帯させる。これまでは警備員の装甲にカメラが付いていたが、相手がはっきりカメラを見えるようにすることで予防を強化する。 



イメージダウンを更に悪化させる、スタジアム建設費問題

出典: The Guardian紙、2016年11月1日

●しかし、実際に移転する前から、ウェストハムがオリンピックスタジアムを利用する上で大きなイメージ問題があった。

●それは、オリンピックスタジアムが主に税金のお金で建てられたが、サッカー用に再建する為にも大きなコストがかかったにもかかわらず、ウェストハムが負担する割合が非常に小さいことである。

●去年、Boris Johnson(前ロンドン市長)によると、スタジアム再建のコストが最終的に£2億7200万になったといわれた。

●そのうち、ウェストハムが負担したのは£1500万である。また、毎年£250万の「家賃」を支払うことになっている。

●しかし、今年から新たにロンドン市長になったSadiq Khanが蓋を明けたら、実際のコストが更に高騰していたことが分かった!

●このニュースが去る11月1日に公になった。


Sadiq Khan市長のスポークスマンがこうコメントした:
●"The mayor is deeply concerned about the finances of the Olympic Stadium, which have clearly been left in a total and utter mess by the previous administration at City Hall.
「Khan市長はオリンピックスタジアムの財政について深く憂慮している。前市長によって、めちゃくちゃな状態に残されたことが明らかになった。」

●"The former mayor announced just last year that the total cost for transforming the stadium was £272m. In reality this is £323m - a difference of more than £50m. Sadiq has ordered a detailed investigation into the full range of financial issues surrounding the stadium."
「前市長は去年、スタジアム再建の総コストが最終的に£2億7200万になったと発表した。しかし、実際の価格は£3億2300万だということが分かった。つまり、£5000万位上の差額だ。これを受けて、スタジアムの財政を取り巻く問題について、Sadiqが徹底的な調査を命じた。」

このお金は一体どこから来る?
●なお、高騰の原因として、可動式のスタンドや、場内の大画面、またこれから設置される外壁画面が予算オーバーになったことが挙げられた。

●また、総コストが予算より£5000万位上も高騰したが、もちろんウェストハムが負担する分は変わらない。何とか税金でカバーするしかない。

●これはウェストハムのせいではないが、クラブのイメージには悪影響ばかり!

●因みに、元々のオリンピックスタジアム建設費にかかるコストも含むと、スタジアム建設・再建の総コストが£7億5200万に上っている。



スタジアム専門家が「立て壊して、一からやり直すべき」と言う

出典: BBC、2016年10月31日

●元バーンリーFWでスタジアム建設専門家のPaul Fletcher氏がこの一週間、様々なメディアにてウェストハムのスタジアム問題について話している。

●経歴:ボルトン、ハダーズフィールド、コヴェントリーの新スタジアム建設にかかわり、ウェンブリー・スタジアムのコマーシャル・ディレクターも担当したことがある。

Paul Fletcher氏の言葉
●"Either we go on as we are for the next 30 or 40 years or we knock it down and start again.
「このまま中途半端な状態で30、40年も続けるか、早く立て壊して一からやり直すか、という2つの選択肢しかない。」

●"Something has to give. If you want to satisfy spectators the only way to get those spectators near that pitch is to knock it down and start again.
「現実を受け入れる必要がある。サポーターはピッチから遠くて不満を抱えている。サポーターをピッチの近くまで移動するためには、スタジアムを早く立て壊して一からやり直すしかない。」

●"I said what you must do is design a football stadium that converts to an athletics stadium for two weeks of its lifetime.
「私は元々のオリンピックスタジアムの企画段階でアドバイスを聞かれた。そして、私は『2週間だけ陸上競技場として使える、フットボールスタジアムを建てるべきだ』と最初から薦めたよ。」

●"What they've done is tried to convert an athletics stadium into a football pitch and, in my opinion, it doesn't work.
「しかし、先方はまず陸上競技場を建て、後からフットボールスタジアムにコンバートしようとした。私の意見では、あまり良いものができたとは言えない。」



纏め:年間チケット保持者でもある現地記者の言葉

出典: Jacob Steinberg記者、The Guardian紙、2016年10月26日
●"There were 11,000 empty seats inside a ground with a capacity of 57,000... West Ham should ask themselves why their first derby under lights did not take place in front of a sell-out crowd.
「あのチェルシー戦のとき、5万7000人収容のスタジアムに空席が1万1000人分もあった。新しいホームグラウンドで初めてのロンドン・ダービーという記念すべき試合だったが、満員にならなかったのは何故しょう?」

●"Quite simply, it was the consequence of the shortcomings in security in previous matches. People will stay away if they do not feel safe. The price of a ticket should not come with the threat of a coin or seat landing on your head."
「答えは簡単だ。それまでの試合では安全の問題が続いていたからだ。人が安心して試合に行けないと思ったら、わざわざ足を運ぶのを諦める。コインや椅子の欠片を頭に投げ込まれるリスクが伴うチケットは、普通買わないだろう。」

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