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2000年の番組開始から15年以上に渡り、良質かつ多彩な企画で人気を博してきた、J SPORTSオリジナルサッカー番組「Foot!」。
2011年8月から、週5日放送のデイリーサッカーニュースとしてリニューアルし、世界のサッカー情報を余す ことなく紹介する。

Ben’s Foot! notes 2016年10月05日

16/17 Ben's Foot! notes ~Week 8~

foot!
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Week 8: Sam Allardyceの電撃解任

就任してたった67日で解任。イングランド代表歴代の正式監督として、最短の政権。
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11) Sven-Göran Eriksson、67試合、2001~2006年
12) Sir Bobby Robson、95試合、1982~1990年
13) Sir Alf Ramsey、113試合、1963~1974年
14) Sir Walter Winterbottom、139試合、1946~1962年

それを受けて、英国各メディアでは「アラダイス時代よりも長く続いたこと」の特集が相次ぐ
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出典:The Guardian紙、The Sun紙、Daily Mail紙、BBC

  
Sam Allardyceの退任に至る行為とは?

●良く言われているには、「おとり取材」の罠に陥った、Sam Allardyce。

●投資家団体の代表を装った、テレグラフ紙の記者と会談し、問題とされる様々な発言をしてしまった。その発言は隠しカメラに撮られ、映像が同紙のHPにアップされた。

最も大きな問題発言・問題行為とは:
●イングランド代表監督という立場を利用(悪用)し、高収入の「副業」を交渉した。

●「第三者による選手保有の禁止」というFA・FIFAのルールを「馬鹿馬鹿しい」と述べた。

●「第三者による選手保有の禁止」を回避する為のコツをアドバイスした。

●香港とシンガポールに渡り、選手の保有権に投資する予定の投資家団体に対して講演を行うことに仮合意した。


補足情報
●高収入の「副業」:
イングランド代表監督の年収は£300万だった。今回の「副業」は年に4回の講演に対して£40万の収入となる話だった。

●「第三者による選手保有の禁止」を回避する為のコツ:
Allardyceによると、エージェントの手数料を利用すれば良い。
つまり、選手の保有権を持つ投資家団体の一員として、FIFA公認選手代理人を1人入れれば良い。
その投資家団体が闇で保有権を取った選手がまた移籍すれば、エージェントの手に入る手数料は投資家の間で分ける。

●Allardyceによると、こんなことをやっているエージェントが「たくさんいる」という。


他にも、問題とされる発言が幾つかあった:
●前任者のRoy Hodgsonを「躊躇し過ぎ」と批判して、発音障害を揶揄した。
(※Hodgsonは英語の「r」という音をうまく発音できず、「w」のように発音する障害を持っている。)

●Hodgsonのアシスタント、Gary Nevilleを「良い影響ではなかった」と批判した。

●イングランド代表選手は「メンタルが弱い」と指摘した。

●雇用主であったFAを、「ウェンブリー・スタジアムの再建に£8億7000万も使って馬鹿だった」と批判した。

●FAの名誉会長であるウィリアム王子を、「アンバサダーの癖に全く顔を出してくれない」と批判した。

●ウィリアム王子の弟さん、ハリー王子のことを「やんちゃな男だな、エロい男だな、いつもお尻とか出している」と指摘した。

出典:Daily Telegraph紙、27~28日
記事1 記事2 記事3


必要なコンテクスト:英国(欧米)の「調査報道」文化

Wikipediaより、「調査報道」とは
●あるテーマ、事件に対し、警察・検察や行政官庁、企業側からの情報によるリーク、広報、プレスリリースなどからだけの情報に頼らず(これを中心情報とする報道は発表報道)、取材する側が主体性と継続性を持って様々なソースから情報を積み上げていくことによって新事実を突き止めていこうとするタイプの報道。


補足情報
●つまり、相当の時間、粘り、予算、サポートが必要である。

●数ヶ月、場合によっては数年もかけ、あるテーマや事件を徹底的に調べ、関係者と近い存在になり、内部情報を少しずつ集めたりし、捜査官や探偵のような調べ方をする。

●その間、他に何も記事を出せなくなるほど専任することが多い。だから、新聞記者の場合、その新聞社の信頼を得られた上で、最終的にはとんでもないストーリーを暴露できることを信じ、給料をもらいつつ、調べ続けることが多い。

●フリーランスの場合は、非常にハイリスクハイリターンである。最終的に何かを暴露できたら高いお金になるかもしれないが、調べている間は収入源がなくなる場合が多い。


その顕著な例:FIFAの汚職を暴露した、英国人ジャーナリストのAndrew Jennings氏
●1990年代にIOC(国際オリンピック委員会)の汚職を暴露してから、2001年から14年もかけてFIFAを追いかけ、汚職を暴露したイギリス人ジャーナリスト(現在73歳)。

●FIFAの汚職をずっと調べ続け、それを暴露する本を3冊出版した。ドキュメンタリーも3本製作し、BBCにて放送された。

●その内容がスイスの警察やアメリカのFBI(連邦捜査局)の注目を引き、協力することに。それが去年、Blatter元会長の解任や、FIFA役員の逮捕に繋がった。


英国をはじめ、欧米では「調査報道」の文化が根強く、重要な存在とされている。
●英国の高級紙は専門的な調査班を設けることが多い。その記者たちに数ヶ月~数年間に1つのテーマに集中する自由や予算を与える。

●新聞社や業界の誇り、自慢でもある。「調査報道」の目的は「公益」の為だから。

●警察や捜査班にもあまり調べられない(調べにくい)テーマなどについて、記者ならではのスキルにより、「公益」の為にスキャンダルや真実を明かすことができる。

●その調査報道の対象として、政治が圧倒的に多い。
内閣や国会議員、政治家などが国民(とその利益)の為には働かなければならないが、もしその立場を利用したり、予算をプライベートの目的に回したりしていれば、そのスキャンダルをマスコミが発見して暴露できれば、公益になるだろう。


因みに、日本ではあまりそういう文化が根付いていないのは...
●日本の官公庁などに記者クラブがある為、大手マスコミが発表報道に陥りやすく、調査報道をしようとするフリージャーナリストが取材活動しづらいと指摘されている(Wiki)。

●安倍政権になってから、日本の「報道の自由」が国際的に問題視されるようになってきた。「国境なき記者団による報道の自由度ランキング」では現在72位まで下落。

●特に、特定秘密保護法が日本の調査報道にとって大きな障害だと指摘されている。 

テレグラフ紙の「おとり取材」

「おとり取材」も「調査報道」の一種(一つの方法)であるが、特に気をつけなければならない
●一応、場合によっては「おとり取材」も認められる。

●しかし、何よりも「公益である」ことが前提である。それについては厳しい世界である。

●「公益」でなければ、ルール違反になったり、違法行為になったりすることがある。

●例えば、著名人に普段、絶対にやらないことをやらせるために圧力をかけたり脅かしたりするような行為はもちろんアウト。

●また、芸能人のプライベートなどについて、スクープしたりすることはもちろんあるが、対象が相当地位のある人ではなければ、「公益」にはならない。その為、「おとり取材」という方法を利用して芸能人の浮気などを暴露することは基本的に出来ない。

●但し「家族中心の価値観」を主張して当選した政治家であれば、「公益」とされるだろう。

●とにかく、新聞をはじめとする報道機関として、「おとり取材」によって得られた情報を報道するなら、その「公益」を主張し、疑問される場合はそれを証明する必要がある。


今回のテレグラフ紙の具体的なやり方
●テレグラフ紙の説明によると、「英国フットボール界に於いて、賄賂や汚職の事件が多々ある」という情報が届いていた。

●その為、特別調査班が10ヶ月をかけ、情報を集める企画を進めた。「フットボール界では、どのようなことが普通に行われているか」というテーマについて、取材を始めた。

●2人のジャーナリスト(匿名)は、「投資家団体の代表」を装い、まず複数人のエージェントにアプローチした。

●第3者による投資の機会を入り口に、そのエージェントが誰を連れてくるのか、どんな話に乗ってくるのか、という視点で会談の機会を作った。

●なお、「第3者による選手の保有」についてルールは曖昧ではなく、完全に違反なので、会談でその話題を振った時点で、相手が完全にクリーンであれば乗らないはず。

●ただ、その常識ではなく、そのような話でも有りという常識の相手だったら、それは既にグレー(ブラック?)なところに入っているので、「では、この人の常識ではどこまでが有りなのか」とテレグラフ紙の記者が探ってみた。


Allardyce事件の他にも毎日、暴露記事を掲載
●サウサンプトンのアシスタント、Eric Black:
「有望な選手を特定のエージェントと契約を結ぶよう説得してもらえる為に、給料が低い2部以下のクラブのコーチに賄賂を払えば良い」というアドバイスをした。

●バーンズリーのアシスタント、Tommy Wright:
上記の為に£5000の賄賂を受けた。この報道の結果、解任されることになった。

●3人のエージェントが明かす、裏金好きなプレミアリーグ監督8人*
(*記事では監督は全員匿名。現在、仕事がない監督も含まれている。)
例えば、選手の移籍、昇給、出場ボーナスの一部を裏で貰いたがる監督。

●元スパーズやQPRの監督Harry Redknapp
第3者による選手の保有というビジネスに興味を示した。監督を勤めたチームの選手たちが自分たちの勝利に賭博したエピソードを話した。 

英国メディアでは、アラダイス事件・解任について賛否両論

Matthew Syed記者、The Times紙:「The FA should have stood by its man」
●"I have called the sports editor of this newspaper a fool. I have described my wife as unreasonable. I have gone after the Dalai Lama, too.
「私はこの新聞のスポーツ編集長を馬鹿と呼んだことがある。自分の奥さんが理不尽だと言ったことがある。ダライ・ラマまで、私は批判したことがある。」

●"That is what happens in private. We let off steam. We release tension. We say things that have little to do with what we might say in public, after mature reflection.
「プライベートでは、こんなことがあるのだ。溜まったストレスを解消する。鬱憤を晴らす。冷静で考えた上、公で言うこととは、全く違うことを言ってしまう。」

●"It is not just mistaken, but morally egregious, therefore, to take private words spoken in a Mayfair hotel, to people who pretended to be businessmen and say: "He must be sacked."
「だから、メイフェアのホテルでビジネスマンを装った相手に対して、プライベートなつもりで話した内容を聞き、『彼を解任するべき』という主張は間違っているだけではなく、道徳的に甚だしいだろう。」

●http://www.thetimes.co.uk/article/the-fa-should-have-stood-by-its-man-07zmk38lk?shareToken=4f604a2e683806d1f06dc850d8d2fff3 Daniel


Taylor記者、The Guardian紙:
「Arrogant clot, for sure, but did this really merit ditching Allardyce?」

●He is a clot, that's for sure... Allardyce has caused his employer an extreme form of embarrassment. He had his chance, he blew it and one of the most arrogant men in the business will have a long time to mull over what he should have done differently.
「アラダイスは馬鹿だというのは確かだ。彼は雇用主に多大な困惑を引き起こした。せっかくもらったチャンスを自ら台無しにした。フットボール業界で最も傲慢な男の1人である彼は、これで自分の誤りについて熟考する時間がたくさん得られそうだ。」

●Whether that means he deserved to lose his job is another matter entirely.
「しかし、今回の行為で本当に解任すべきのか?それは全く別の話だ。」

●This is a manager talking in what he thinks is an off-the-record environment, possibly half-cut, with an undercover journalist chucking in a question he knows may elicit an unguarded answer.
「彼は話している環境がオフレコだと考えていたし、酔っ払っていたかもしれない。そこでジャーナリストという正体を隠した相手が、気を許した隙を突いた。」

●It is the kind of journalism the Telegraph would once have considered beneath it and, even with a man's P45 on the way, it is difficult to find the killer line, no matter how many times you read it.
「かつては、テレグラフ紙はこのようなジャーナリズムを見下しただろう。また、アラダイスの言葉を何回読んでも、本当に悪意を証明するような部分は見当たらない。」

●https://www.theguardian.com/football/blog/2016/sep/27/sam-allardyce-arrogant-clot-england-manager


Roy Greenslade教授、シティ大学ロンドン、The Guardian紙(報道を評論するコラム)
(Daily Mirror紙の元編集長。現在、シティ大学ロンドンにてジャーナリストの教授)

●These may have been private indiscretions, but his position as an FA employee in parallel with his public role as the England football manager elevated them into public significance.
「今回の失言は、確かにプライベートな環境ではあったが、FAの雇用下にある立場、それからイングランド代表監督という公共な立場を考えた上では、公共の利益が必然的に絡んでくる。」

●There is a clear public interest justification in knowing that a man employed by the Football Association is offering advice on how to circumvent its rules.
「FAの雇用下にある代表監督が、FAのルールを回避すべく他人にアドバイスをしているならば、その事態を公に知らせるのが明らかに公益になる。」

●I cannot see how the Telegraph could have obtained the story any other way, so it is compliant with the editors' code of practice (as overseen by the Independent Press Standards Organisation (Ipso).
「テレグラフ紙はおとり取材の他に、その情報を手に入れる方法が無かったので、新聞報道規制に準拠している。」

●https://www.theguardian.com/media/greenslade/2016/sep/28/public-interest-was-at-the-heart-of-the-sam-allardyce-revelations

●https://www.theguardian.com/media/greenslade/2016/sep/27/why-the-daily-telegraphs-sam-allardyce-sting-was-justified



ベンの意見

人情話として見ると、Allardyceは可哀想だが...
●トップになる為に一生働いた人間が、やっと辿り着いたら夢が67日で消えてしまった。

●イングランド北部でワーキングクラス出身。良いものはただでもらえないので働かねばという精神。現役時代では一部リーグ経験があるが、代表クラスではなかった。

●監督キャリアはアイルランドリーグでスタートし、イングランド4部・3部・2部のマイナーなクラブで成績を残し、ボルトン時代でプレミアリーグ昇格・定着・UEFAカップ出場をもたらした。

●それでもビッグクラブからはなかなかオファーが来なかった。「俺の名前がアラダイスではなくてアラディーチーとかだったら評価されている」と嘆いた。
つまり、外国人でイメージが格好良い監督だったら同じ仕事でも評価されるが、アラダイスが幾ら良い仕事をやっても気づかれない。

●25年間の監督キャリアを通じて、その被害妄想(?)を持ちながら苦労し、ずっと頑張った結果、やっとイングランド代表監督という夢の仕事に就いた。

●そんな夢が叶ってからたった67日で消えてしまうなんて、めっちゃ可哀想だろう!


しかし、FAとして厳しいスタンスを取るのが正しい
●しかし、テレグラフ紙の映像を見たら解任されても仕方がないとベンは思った。

●何故なら、やはり「第3者による選手の保有」は笑って済むような問題ではないからだ。

●AllardyceやRedknappなど、「何が問題なのか分からない」という人は、「クラブにとって普段買えないようなトップクラスの選手を買えるようになるので、Win-Win」と主張。

●しかし、第3者に利益をもたらす為に移籍する必要がある為、第3者に保有権を持たれている選手が「奴隷扱い」になる恐れがある。何度も強制的に移籍させられる、など。

●FAは世界に先立って、2008/09から「第3者による選手の保有」を禁止した。

●FIFAがやっと禁止したのは2015年5月1日だった。


それから、何と言っても...
●FIFAやUEFAの汚職について、FAをはじめとするイングランドのフットボール界が最初からずっと非常に厳しいスタンスを取っている。

●だから、FAとイングランドフットボール界の顔である、代表監督が少しでもクリーンじゃないという疑いがあれば、世界にクリーンを求める立場が弱くなるわけだ。

Jim White記者、Daily Telegraph紙
●Theirs is an organisation which had lectured Fifa on its inadequate responses to corrupt practices, and here they were with their principal employee right under their noses seemingly happy to flog himself to those seeking to break the rules. He had to go.
「FAという組織がずっとFIFAの汚職や物足りない改革について説教してきた。そのFAの最も知名度が高い雇用者が、あからさまにFAのルールを破りたがる団体と平気で協力する姿を見せてしまった。だから、解任するしかなかった。」

●http://www.telegraph.co.uk/football/2016/10/01/the-festering-cesspool-of-greed-that-is-at-the-heart-of-english/

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