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プレミア王者を支えた最上級生の矜持。「鹿島アントラーズユースの3年生」が背中で見せ続けた真摯な日常の価値 高円宮杯プレミアリーグファイナル 鹿島アントラーズユース×ヴィッセル神戸U-18マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史鹿島アントラーズユースのプレミアリーグ制覇を支えた3年生たち
試合に出ているか、出ていないかは、はっきり言って関係ない。目の前の1つのキックと、目の前の1つのダッシュと、どこまで真摯に向き合えるか。それだけがチームの雰囲気を、その人の評価を、決定づける。その信念を心のど真ん中に携えてきた最上級生が、常にグループを引っ張ってきたのだ。それは強いに決まっている。
「このチームは1,2年生が注目されがちですけど、僕自身は3年生が一番頑張ってきたんじゃないかなと思っていて、1,2年生も3年生のおかげでこのプレミア優勝ができたと思っているんじゃないかなって。3年生が結果を出すと全員が喜んでいましたし、そういうチームになれたことが凄く良かったです」
キャプテンを務めてきた大川佑梧は、“同級生”たちの存在について笑顔でそう口にする。10年ぶりにプレミアリーグ制覇を手繰り寄せた鹿島アントラーズユース。そのチームをピッチ内外で逞しく支えてきた3年生たちの奮闘は、絶対に語り落とせない。
プレミアリーグの日本一を決めるファイナル。WEST王者のヴィッセル神戸U-18との一戦に臨む、鹿島ユースのスタメンリストに書き込まれた3年生は4人のみ。吉田湊海や元砂晏翔仁ウデンバ、平島大悟を筆頭に、1,2年生で先発を勝ち獲った選手は全員が年代別代表経験者であり、もちろん彼らの活躍がEAST制覇に貢献してきたことは間違いない。
ただ、言うまでもなくチームの活動は試合だけではない。むしろ日常のトレーニングこそが、グループの空気感を左右する重要なポイントだ。中野洋司監督は今年の3年生について「本当にサッカーが好きで、朝練も自主的にやったり、居残りでやったり、オフの日にもグラウンドに来て練習する選手も多いので、純粋にサッカーが好きな選手が多いところと、その気持ちを持ち続けてしっかりやってきてくれているので、継続してレベルアップしているのかなと感じています」と語っている。
2年生の福岡勇和は、1つ上の先輩たちが普段から示してくれる姿勢について、こんなことを教えてくれた。「火曜にキツい走りの練習があるんですけど、そういう中でも3年生が頑張っているところが、今年のチームが強い理由なのかなと思います。試合に出ている、出ていないに関係なく、練習から率先して声を出してくれましたし、背中で見せ続けてくれて、3年生のことはずっと頼りにしていました」
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大川もそんな後輩の言葉を肯定する。「週末の試合に出れない悔しさを抱えた3年生が、次の週の始動の火曜日の走りの練習でも、GPSの数字で見た時に一番頑張っているんです。そういうところは自分にも真似できないというか、そこが本当に彼らの凄さで、チーム全員が真似するべきところだったと思います」
シーズンを振り返れば、コンスタントに出場機会を得ることは叶わなかった3年生が、意地を見せるシーンを何度も目にしてきた。
7月29日。クラブユース選手権準決勝。FC東京U-18とのゲームはPK戦へともつれ込む。ここで存在感を打ち出したのが3年生のGK菊田修斗。相手の2人目と4人目のキックを鮮やかに弾き出し、チームの決勝進出にきっちり貢献してみせる。
実は試合中の失点は、守護神の判断ミスが遠因になっていた。中野監督からも「アイツは自作自演です(笑)」と茶化された菊田は、「『ああ、よかった……』と。もうそれだけです。自分がやらかして、今までみんなが頑張ってきたものを無駄にしなくて良かったなと思いました」と安堵の表情を浮かべる。
結果的に決勝も制し、夏の日本一に輝いた鹿島ユースにとって、セミファイナルで3年生GKが披露した“2本のPKストップ”がもたらしたものの意味は、見逃すことができない。
クラブユース選手権準決勝。PKストップにガッツポーズを見せる菊田修斗
10月5日。プレミアリーグEAST第16節。流通経済大柏高校とのアウェイゲームで真価を発揮したのは、3年生FWの高木輝人だ。スコアレスで迎えた50分。岩土そらのクロスに対して力強く宙を舞うと、豪快なヘディングをゴールへ突き刺す。
シーズン序盤は定位置を掴み、得点も重ねていたものの、肩の脱臼で戦線離脱。復帰後も弟の瑛人がスタメンで起用されてきた中、練習から好パフォーマンスを重ねたことで、再び勝ち獲ったチャンスに結果で応えてみせる。
「瑛人も湊海もいて、スタメンになるのはなかなか難しかったですけど、『腐らずに頑張ろう』と思ってきた中でチャンスをもらったので、結果を出せて良かったなと思います。点を決めてより自信も付いたので、次に繋げていきたいですね」と笑った3年生FWは、以降の試合でもスタメンを確保。試合前の集合写真では、負傷離脱を強いられた弟のユニフォームを掲げる姿も印象的だった。
流通経済大柏高校戦。ゴール後に咆哮する高木輝人
11月22日。プレミアリーグEAST第19節。同時期に開催されていたU-17ワールドカップ組の吉田、元砂、平島の3人に加え、大黒柱の大川も欠場となった川崎フロンターレU-18戦で、得点という明確な結果を残したのは2人の3年生だった。
大貫琉偉のゴールで1点をリードしていた26分。左から岩土がクロスを上げると、中央のこぼれ球に正木裕翔がいち早く反応。豪快なシュートをゴールネットへ叩き込む。後半戦はこれが2試合目のスタメンだった3年生FWの一撃。チームメイトも大喜びでスコアラーへと駆け寄る。
後半に入ると川崎U-18に追い付かれたが、勝ち越しゴールが生まれたのは73分。大貫が丁寧に送り届けた左CKへ飛び込んだのは、3年生MFの佐藤湧斗。162センチのアタッカーが頭で合わせた1点が決勝点となり、メルカリスタジアムに歓喜のオブラディが響き渡る。
「泥臭くやっていれば、必ずボールはこぼれてくると信じて走っていって、ボールが来たのであとは決めるだけでした。なかなか最近はスタメンで出れなくて、途中出場から出ても結果が獲れなくて、自分の中での怒りや悔しさをパワーに変えて今までやってきたので、それが今日の結果に出たのかなと思います」(正木)
川崎フロンターレU-18戦。試合後にチームメイトと勝利を喜ぶ正木裕翔(中央の9番)
「自分は1年を通してずっとスタメンで出ているわけではなくて、もっとチームに貢献できたらなという部分がずっとあったので、1つ貢献できたことは嬉しいですけど、自分だけで獲ったゴールではないですし、むしろみんなの方が頑張ってきてくれて、最後に自分が運良く決めた形になったので、みんなへの感謝の気持ちの方が大きいですね」(佐藤)
川崎フロンターレU-18戦。ゴール後にチームメイトとポーズを決める佐藤湧斗(8番)
この勝利の2日後。他チームの試合を受けて、鹿島ユースのプレミアEAST制覇が決定する。「活躍している3年生は休日でも午前中に自主練に行ったり、努力してきた人ばかりなので、それが結果として結ばれるのは当然なんじゃないかなと思います」と話すのは3年生MFの中川天蒼。結果的に優勝を引き寄せることになった一戦で、決して出場機会に恵まれなくても、ちゃんと努力を積み上げてきた2人の3年生がゴールを奪ったのは、きっと偶然ではない。
ファイナルの勝敗の行方が、日本一の栄冠が委ねられた、運命のPK戦。神戸U-18の5人目のキックがクロスバーを越えると、鹿島ユースの選手たちは思い思いに感情を爆発させる。たどり着いたプレミアの頂。気づけばみんな泣いていた。一転して表彰式では、笑顔の花が咲き誇る。チーム全員で掴んだ高校年代三冠という偉業。誇らしげに記念写真へ収まる3年生たちの表情は、最高の輝きを放っていた。
中野監督が試合後の記者会見で語った話も印象深い。「本当に3年生の見えない力というか、試合に出て引っ張るグループも、試合になかなか絡めないけれど、裏でしっかりやってチームを支えてくれているグループもいますし、3年生の力は、この三冠にも大きな役割を果たしてくれたんじゃないかなと凄く感じています。この場を借りて感謝を伝えたいと思います」。彼らの取り組みを見守り続けてきた指揮官が紡いだ言葉が、3年生たちのチームに示した価値を過不足なく表している。
ここから先は次のステージへと足を踏み入れ、新たな道へと進んでいく。プロのキャリアを歩み出す者も、大学でサッカーと向き合う者も、それぞれがそれぞれの時間を過ごしていくことになるが、このチームで築き上げた絆は、いつまでも、いつまでも、変わることはない。
「今年の3年生はみんな仲が良いですし、練習でもともに高いレベルを求め合いながらやってきた関係性なので、絆は深いと思います。みんなプロになりたいと思ってユースに来たので、大学に行ってもまた鹿島に戻ってこれるように、お互いにプロを目指して頑張っていきたいです」(朝比奈叶和)
「本当に鹿島に来て良かったなと思いますし、強いて言えばもっとこのメンバーで一緒にやりたいんですけど、それぞれ大学に行って、次は対戦相手としてやることもあるはずなので、みんなには絶対に負けたくないなと思います」(中川)
「今年の3年生には試合に出れないからふてくれるような選手が本当にいなくて、そういう姿勢は1,2年生にも伝わりますし、出ている選手たちにも『やらなきゃな』と思わせてくれたので、本当にそこは感謝していますし、良いチームを作るうえで一番必要なことだったかなって。また3年生とどこかで一緒にやることができたら嬉しいので、そのためにも自分はプロの世界で頑張りたいと思います」(大川)
試合に出ているか、出ていないかは、はっきり言って関係ない。鹿島アントラーズの選手であるという矜持を胸に、真摯な日常を積み重ねた先で、2025年のプレミアリーグの頂上へ堂々と登り詰めた3年生たちに、最大限の敬意と大きな拍手を。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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