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久永辰徳、牛鼻健、有村圭一郎。選手権日本一をともに勝ち獲った「鹿実の同級生トリオ」がプレミアの舞台に揃った日 高円宮杯プレミアリーグWESTアビスパ福岡U-18×神村学園高等部マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史同級生の鹿実トリオ。左から神村学園・有村圭一郎監督、福岡U-18・久永辰徳監督、牛鼻健コーチ
同じ地元で生まれ育ち、同じ高校へと集い、選手権で全国制覇を成し遂げた3人が、それから30年近い時を経て、同じ高校生の指導者という立場になって、年代最高峰の舞台で再会する。これはある意味で、奇跡のようなことではないだろうか。
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高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグ 2025 WEST 第19節-1 大津高校 vs. 神村学園高等部
配信期間 : 2025年11月22日午後0:50 ~
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高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグ 2025 EAST 第19節-2 前橋育英高校 vs. FC東京U-18
配信期間 : 2025年11月24日午前10:50 ~
「高校の同級生とこういう形でやれるというのはめったにないことですから。前期はウチが勝ちましたけど、今日はアビスパの方が躍動していましたね。これからもお互いに刺激し合いながら、良い選手を育てられたらいいのかなと思います」(神村学園高等部・有村圭一郎監督)
久永辰徳、牛鼻健、有村圭一郎。1996年1月8日。鹿児島実業高校の選手として国立競技場のピッチに立ち、静岡学園高校との両校優勝という形で日本一に輝いた3人は今、かつての自分たちのようにサッカーと生きる高校生たちと、日々真剣に向き合っている。
「心の中に秘めているモノはあるかもしれないですけど、指導者同士の対決だからといって、『絶対に負けられねえ』というのはあまりないかなって。なんかそんな感じなんですよね」。アビスパ福岡U-18の牛鼻健コーチは、今節で実現した“再会”について、率直な想いを口にする。
プレミアリーグWEST第18節。福岡U-18がホームで神村学園高等部を迎え撃つ九州対決。個人的に興味を持っていたポイントがあった。福岡U-18の久永辰徳監督、牛鼻コーチ、そして神村学園の有村圭一郎監督は、いずれも鹿児島実業の出身。しかも、同級生として3年間をともに過ごした間柄だ。
「一昨年ぐらいまではヒサも鹿児島にいたので、その時は練習を見てもらったりもしましたし、この高校年代の最高峰のステージで戦えるというのは、本当に刺激をもらえますよね。やっぱりお互いに負けたくないですよ」と話すのは有村監督。高校時代から2人とは仲が良かったという。
さらに久永監督も「神村には栢野という同級生もコーチでいるので、今日もいると良かったんですけどね」と語ったように、この日のベンチには入っていなかったものの、神村学園には彼らの同級生の栢野裕一コーチも在籍している。
当時の雑誌を紐解くと、栢野コーチは選手権の登録メンバー20人の中で唯一普通科に通っており、学内トップの成績を誇っていたとのこと。他の選手より1時間授業が多いため、遅れて練習に参加しながらレギュラーを勝ち獲り、決勝での2ゴールを含む大会5得点をマークしている。ちなみに久永監督曰く「アイツが点を獲れたのは僕のアシストがあったからですから(笑)」とのこと。確かに5点中2点は久永監督のアシストだったという記録も残っている。
今年のインターハイでは神村学園が悲願の全国優勝を達成。牛鼻コーチはそれを知ると、すぐに有村監督へ連絡したそうだ。「本当に嬉しくて、優勝をした後にすぐケイに『おめでとう』というメッセージを送りました。やっぱり鹿実でプレーした指導者がそういう成果や結果を残してくれると、凄く親近感があるというか、『アイツ、鹿実だぞ。良かったなあ』というような気持ちが凄く出てきますよね」。やはり同じ釜の飯を食った仲間の絆は強い。
ただ、いざ試合となると、久永監督も牛鼻コーチと同じような感覚を抱いていたようだ。「同級生と試合するなんて不思議ですよ。でも、そこまで『鹿実の同級生との試合だ』とかは感じないんです。やっぱり自チームのことで必死なんでしょうね」。ひとたびキックオフしてしまえば、目の前のピッチに集中するしかない。そこに“同級生対決”という感傷のようなものは介在しないというのも、何とも勝負の世界に生きている人たちのリアルという趣で、非常に興味深い。
アビスパ福岡U-18を率いる久永監督
この日の一戦は神村学園が立ち上がりから攻勢に出たが、前半のうちに先制した福岡U-18は、後半の最初の15分間でさらに3点を追加。「ヒサの性格もよく知っていますし、どんなことをしてくるかというのも何となくわかりますけど、それを表現するのは子どもたちで、ウチの子たちはしっくり来ないというか、噛み合わないなという感じでしたね。今日のアビスパは強かったです。してやられました」とは有村監督。試合は4-0でホームチームが快勝。前半戦では神村学園が勝利を収めていたため、今季の対戦成績は1勝1敗のイーブンという結果となった。
「なかなか同じ高校の、同じ年のヤツらが、これだけサッカー界で仕事を続けているのも奇跡みたいなことだと思いますし、刺激になりますよね。平瀬(智行)もベガルタ仙台でスカウトをしていますし、そういう意味ではみんなそれぞれの道でサッカーを頑張ってきたんだなという想いはありますね」(有村監督)
「もちろんこうやって会えるのは嬉しいですよ。しかもこういうプレミアリーグという土俵で、試合ができることなんてないじゃないですか。あっちにも鹿実出身の監督とコーチがいて、こっちにも牛鼻がいて、同級生がサッカー界でこうやって生きていっているのって、やっぱりいいですよね」(久永監督)
2人の指揮官の言葉に加えて、牛鼻コーチが教えてくれた話が、強く印象に残った。「松沢先生(松沢隆司監督・当時)も自分が教えた選手が、将来こうやってまた選手を教えて、そうやって繋がっていくことを凄く期待されていたという話をよく聞きます。そういった中で同年代ではなくても、自分より年上の指導者の方も、年下の指導者の人もいる中で、鹿実の選手が名前をしっかり残してくれていっているのは嬉しいですよね。そういうことも含めて、『鹿実でサッカーしていて良かったなあ』と思います」
福岡U-18はシビアな残留争いに身を置いているが、牛鼻コーチには来季に向けてひそかな“野望”があるという
「前期は残り組を見ていて、後期からベンチに入るようになったので、やっぱり地元に行きたいですね。地元に帰ると違った空気感も味わえますし、『帰ってきたな』という感じもある中で、いろいろなことを感じられる環境だと思うので、そのためには何とかプレミアに残留して、来シーズンは鹿児島で凱旋試合ができればいいかなと思います」
来季は栢野コーチも含めた4人が地元で顔を揃えられるように。それ以上に何より今、目の前のトレーニングを一生懸命頑張っている彼らが、憂いなく今シーズンを終えられるように。久永監督と牛鼻コーチの同級生コンビは、この日の“再会”を糧に、残された4試合に向かって、選手たちとともに闘志の炎を燃やし続け、自分にできることをすべてやり切り、プレミアリーグ残留を全力で奪い取る。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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