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備えるのは絶対的なキングの素養。東京ヴェルディユース・仲山獅恩は常に「与えられた場面」で結果を出し続ける 【NEXT TEENS FILE.】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史東京ヴェルディユース・仲山獅恩
もはやその佇まいには、風格すら漂っている。先人たちが紡いできた歴史と伝統が染み込んでいる“ランド”でその才覚を育まれ、さらなる大きなステージを手繰り寄せるための準備を整えてきた背番号10は、ただひたすらに自身の進むべき道だけを、まっすぐに見つめてきた。
「サッカーは点を決めるところが大事なので、今はそこにこだわってやっていきたいですし、自分が決めればチームも勝てると思うので、そこだけにフォーカスして、1試合で3点獲るぐらいの意識でやっていきたいと思っています」
プレミアリーグEASTの得点ランキングトップを独走する、東京ヴェルディユースの絶対的キング。仲山獅恩は自分に課せられた役割を、寄せられた期待を、はるかに超えるパフォーマンスを出し続けるため、いつだって日々のやるべきことと丁寧に向き合っている。
チームとしては11年ぶりに帰ってきたプレミアリーグの開幕戦。川崎フロンターレU-18のアウェイに乗り込んだ東京Vユースは、先制されながらも、いったんは逆転したものの、終盤に再逆転を許して2-3で惜敗。黒星スタートを突き付けられる。
90分を通じて、その圧倒的な存在感は際立っていた。1人で放ったシュートの数は実に9本。入っていてもおかしくないものも十分にあったが、この日はノーゴールに終わった仲山が、試合後に話していた言葉が強く印象に残った。
「さっきデータを見たらシュートを9本も打っていて、1点も獲れていないというのは自分の問題ですし、もう負けたゲームの責任は全部自分にあるので、他の選手が引きずる必要はないと思います」
ごくごく普通に口を衝いた『負けたゲームの責任は全部自分にある』というフレーズの本気度は、それからシーズンが進んでいく中で披露していく仲山本人のプレーに、はっきりと滲んでいく。
圧巻だったのは第5節の鹿島アントラーズユース戦だ。1つ前の試合でプレミア初得点を記録していた背番号10は、その一戦でも躍動。相手のGKに激しいプレッシャーを掛け、ボールを奪い切って先制点を叩き出すと、最終盤にもシンプルなフィードを引き出し、GKとの1対1も確実に制してダメ押しゴール。難敵撃破の主役を鮮やかにさらってみせる。
以降もコンスタントに得点を積み重ねていく中で、もちろん相手のマークも厳しくならないはずがない。だが、それを逆手に取れば、チームメイトにはより多くのチャンスをもたらせる。
「自分のところにいつも2,3枚いるなというのは感じているので、自分がちょっと下りて、スペースを作って、他の人を走らせたりとか、あとは自分でちょっと下りてから背後を取ったりということは考えています。相手の重心を見て、どの選手が出てきて、どこが空いているというのは常に把握できているので、いいプレーができているのかなと感じています」
ジュニアユース時代にも指導を仰いでいる小笠原資暁監督から与えられているのは、3-4-2-1システムの1トップ。170センチというサイズを考えれば、“ゼロトップ”のような役割を思い浮かべがちだが、仲山は基本的に最前線に力強く立ち、周囲を生かしつつ、自身でもゴールを狙うスタンスを貫いている。
ホームで川崎U-18を迎え撃った第12節。開幕戦で逆転負けを喫した相手に、仲山は前半の内に2得点をゲット。チームは2点をリードした後半に退場者を出し、打ち合いの末に3-3と引き分けたものの、これで4戦連発となった背番号10は、いつも通り、淡々と、冷静に、言葉を紡ぐ。
「結果という形では2点獲れたので、そこは良かったかなと思うんですけど、自分はハットトリックできた試合がまだ1試合もないので、その最後の1点というところに磨きを掛けないと、今日みたいに2点差だと追い付かれて、引き分けや負けに持っていかれる試合もあると思うので、練習から決め切るところに挑戦していきたいなと思います」
翌節にアウェイで行われたFC東京U-18との『東京ダービー』は、その週にトップチームの練習に参加していた流れもあって、欠場することになったが、再びスタメンで登場した第14節のホーム・横浜FCユース戦で、とうとう仲山の“ケチャップ”が爆発する。
自ら獲得したPKを正確に沈める。右サイドからのクロスを完璧なダイレクトボレー。スルーパスに抜け出し、マーカーも外して豪快にグサリ。そして、強引な仕掛けから、強引なシュートをねじ込む。重ねたゴールはなんと4つ。まさにピッチに君臨する緑の王様として、ランドの夜空に華やかな花火を、何度も、何度も、打ち上げた。
ただ、もちろんそんな結果で浮かれるタマではない。今季初のハットトリックにもう1点を付け足した背番号10は、いつも通り、淡々と、冷静に、言葉を紡ぐ。
「今日も点は獲りましたけど、もっと自分にはやるべきこともありますし、どんどん上に、上にという思考なので、ここで満足せずに、どの立場であっても、どの環境に置かれても、自分のやるべきことをやれば、自然と結果は付いてくると思って、やり続けることが大事かなと思います」
驚異の4ゴールを奪った3日後。仲山はトップチームがヴィッセル神戸と対峙したアウェイゲームで、今季初めてJ1のベンチ入りを果たす。残念ながら出場機会は訪れなかったが、きっと本人の意識には微塵のブレもない。本人の決意を最後にご紹介しておこう。
「トップでの出場は狙いつつも、自分のやるべきことだけをやるしかないと思いますし、自分のパフォーマンスを120パーセントで出して、与えられた場面で結果を出せればいいかなと思うので、辛抱強くやっていければなと思います」
この人は、きっとそれでいい。昨日より、今日。今日より、明日。とにかく目の前のやるべきことをやり続けることで、その先の未来を切り拓く。仲山獅恩。17歳。煌めくJ1のステージでも、「与えられた場面」で結果を出してしまうタイミングは、おそらくそう遠い日のことではない。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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