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キーワードは「サッカーを学ぼう」。帝京長岡高校・古沢徹監督が選手と進むのはたゆまぬ成長への一本道 高円宮杯プレミアリーグWEST 帝京長岡高校×名古屋グランパスU-18マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史5試合ぶりのリーグ戦勝利を笑顔で喜ぶ帝京長岡高校の選手たち
面白いフレーズだと思った。帝京長岡の古沢徹監督が話してくれた言葉だ。
「この夏は『サッカーの中で、みんなで考えて、みんなで走ろう』と言ってきたところで、それをやり切った選手たちが残ってきているというか、誰もレギュラーは約束されていないことを伝えながら、『必ずチャンスはどこかで来るから、サッカーを学ぼう』という話もしてきた中で、選手たちが良い準備をしてくれたというところですね」
浮かび上がってきたのは『サッカーを学ぼう』という部分。シンプルではあるが、深い。捉え方によっては、どんな意味にも捉えられる。指揮官にもう少し突っ込んで聞いてみると、それは選手たちに対してだけではなく、昨シーズンの苦い経験を味わった自分に向けたものでもあるという。
「要は自分も『サッカーを学ぼう』ということですね。昨シーズンは良い選手があれだけいたのに勝てなかったのは、指導の技量が足りなかったというところに、最終的にはたどり着きました。そこで(谷口哲朗)総監督ともたくさん話した中で、『自分がやりたいサッカーのベースが確立されないなら、何のために監督をやっているんだ?』ということを言われて、あの人は『こうしろ』とかは言わないですけど、『とにかくいろいろなところに“学び”に行った方がいいんじゃないか?』と」
筑波大や立正大といった大学のサッカー部から、大宮アルディージャ、鹿島アントラーズ、水戸ホーリーホックをはじめとしたJクラブまで、このオフシーズンは数多くのチームの門を叩き、改めて自身のサッカー観をブラッシュアップさせるための時間を重ねていく。
一方で、昨季の大きな反省点として、選手の成長を願うがあまり、多くのことを詰め込みすぎたのではないかという後悔があった。「自分の中ではいっぱいいっぱいで、『詰め込まなきゃいけない』『やらせなきゃいけない』『まだこれが足りない』という中で、それに応えようと選手たちが一緒に頑張ってくれたんですけど、結局選手が疲弊してしまって……」。
10月のプレミアリーグで、名古屋グランパスU-18に2-9という大敗を喫し、その流れを引きずって挑んだ高校選手権予選も、準決勝でまさかの敗退。インターハイでは全国4強まで駆け上がり、冬の全国制覇も十分視野に捉えていただけに、その時に受けたショックが小さかったはずがない。
そんな経験を踏まえて、迎えた今季。プレシーズンでは厳しく追い込みながら、リーグ戦が開幕してからは、古沢監督も少しスタンスを変えている。「選手の“やらされている感”をなくして、一緒にやっていくというスタンスに変えてからは、自分も選手たちがどう表現するかを見れるような形で準備ができるようになりましたし、選手ものびのびやってくれるようになったかなとは感じます。だから、『サッカーを学ぼう』というのは、自分と選手と一緒に学ぼうという意味合いなんです」
帝京長岡高校を率いる古沢徹監督
名古屋U-18とホームで対峙したこの日の一戦は、3-1と快勝を収めたのだが、先制点をアシストした吉原巧也は5試合ぶりのスタメン起用であり、インターハイは登録メンバーに入れず、バックアップメンバーとしてチームに帯同していた3年生だ。
「インターハイで尚志に負けてから、『フルさん(古沢監督)が変えるんじゃなくて、自分たちで気付いてやらないといけない』とみんなで話したんです。そこから自分たちで筋トレも多くやり出しましたし、チームとしてはスプリント系の練習はそんなに多くないんですけど、練習内で自分から走ったりして、強度を上げるところにも取り組んだりして、チームとして変わってきました」
そう口にした吉原は、自らに起きた変化についてもこう語っている。「インターハイで自分はメンバーから落ちて、バックアップに回ったことで、悔しかったですけど、いろいろな視点でチームを見ることができたので、今は試合に出られない人の気持ちも考えられますし、『走れない』という課題にも自分で取り組みながら、武器であるドリブル、瞬発力、推進力を磨き続けてきたことが、今日の1点目に繋がったと思います」。自分の強みと弱みをしっかりと見つめ、改善と深化に向き合う。これも『サッカーを学んでいる』ということだろう。
リーグ戦ではここまで全14試合にスタメン出場。中盤のキーマンとして存在感を高めている中澤昊介も、今季の自身の成長をはっきりと感じている。「インハイのあの負けを経て、『もっと自分たちでサッカーを学ばないといけない』という想いが出てきましたね。個人的には最初のころより全体的なスピード感に慣れてきて、自信を持ってプレーすることはできてきているので、あとは『昨日より今日、今日より明日』ということを自分の中で一番意識して練習したことで、顔を出してボールを受けることも、相手を見て、そこをしっかり剥がしてパスを配球したりというところは、凄く伸びてきていることを感じます」
名古屋U-18戦は後半になって1点を返され、スコアが2-1になってからも、指揮官は必要以上にピッチへ指示を送ることなく、テクニカルエリアで胸を張って、選手たちを見つめていた。
「後半は相手も修正するので、起こりうる可能性の話はしましたけど、中で変わっていることを彼らがどう把握するかなというところで、相手のシャドーの15番が下りてくるようになって、1トップの11番が『4の背中!4の背中!』と言われていることに気付いているかなとか思っていました。その話はまた彼らにしようかなと。『守り方なんて1個じゃなくていいじゃん』と」
『4の背中』と名指しされていた、帝京長岡の背番号4を付ける桑原脩斗は、どうやらそのことを把握していたようだ。「後半が始まってから、何回か自分の背後でやられている部分もあったので、そういった部分を修正して、チームに貢献しないといけないなとは思っていました」
試合終盤の89分。相手にエリア内へ侵入され、フィニッシュまで持ち込まれたものの、最後に身体を投げ出してブロックしたのは桑原。まさにゲーム中の改善で凌いだピンチ。「しっかりとタイミングを待って、ボールを見て対応できたので、自分でも良いプレーだったと思います」。試合の中で起きた事象を顧みて、90分間の中で修正する。これも『サッカーを学んでいる』ということだろう。
古沢監督もチーム全体に訪れつつある変化を、明確に実感している。「最近の自主練では、試合でできなかったことをやるヤツもいれば、淡々と自分の武器を磨いているヤツもいて、そこで『ああ、この選手はこういうことをやろうとしているんだな』というのは、自分も一歩引いた目で見られるようになったかなというのは感じていますね」
「あとは自分も『サッカー見なきゃな』と思って、何とか早く起きて見ていますよ。この間も選手に『今日のパルマのあのプレー、見たか?』と聞いて、『いや、見てないです』『ああ、そうか。じゃあ大丈夫』というやり取りがあったり(笑)、サッカーノートの中に『2試合は見るようにしています』と書いてくれるヤツもいたりとか、そういう意味では楽しい毎日を過ごしていますね」
指揮官も、選手たちも、それこそ総監督も、心の中に持ち続けているのは、『サッカーを学ぼう』という確たる姿勢。その気概がある限り、きっと彼らはどこまででも成長し続ける。楽しく、厳しく、美しく。2025年の帝京長岡が咲かせる花は、まだまだ個性的な彩りを纏っていくに違いない。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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