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開幕戦から5か月後のリターンマッチの成果。東京ヴェルディユースが描き続ける進化と深化の成長曲線 高円宮杯プレミアリーグEAST 東京ヴェルディユース×川崎フロンターレU-18マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史日々成長を続ける東京ヴェルディユース
「成長はしています。間違いなくものすごい勢いで成長してきているので、だからこそ、もったいないなと。でも、『サッカーってそういうものだよな』っていう部分もあって、凄く成長してきているけど、本当に強いチームは詰めがしっかりできていて、相手に一分の隙も与えないので、そこに行かなきゃいけないという感じですかね」
試合が終わってから1時間ほど経ったグラウンドの片隅で、穏やかな表情を浮かべながら小笠原資暁監督はそう口にした。開幕戦から5か月後のリターンマッチ。前回は2-3で競り負けた川崎フロンターレU-18と、後半戦の初戦で対峙した一戦は、お互いに打ち合って3-3のドロー決着。勝点0は勝点1に変わったが、東京ヴェルディユースにとっての成長の基準は、おそらくそういう数字には置かれていない。
突き詰めたいディテールはいくらでもあるけれど、一番大事なことをシンプルに言えば、『サッカーが上手くなっているか』。緑のユニフォームに袖を通し、伝統のランドでボールを追いかけるからには、それを追求し続ける姿勢が求められることも、選手たちは十分すぎるほどに理解している。
立ち上がりは上々だった。「結構良い入りができたと思います」と話すのは、3バックの左センターバックを務めながら、もともとはネイマールが大好きだという“ドリブラー”属性を持つ中村宗士朗。8分に今井健人が上げたクロスは、相手の手に当たってPKを獲得。エースの仲山獅恩がゴール左上の凄まじいコースにキックを突き刺し、幸先良く先制点を奪う。
追加点は20分。丁寧なビルドアップから3バックの中央に入る渡邉春来が縦に付け、ボランチの下吉洸平はシンプルに前へ。今井のスルーパスに抜け出した木下晴天の丁寧なクロスに、エリア内でフリーになった仲山はダイレクトボレー。「キーパーがニア側に動いたので、本当はもうちょっとファーが空くかなと思ったんですけど、いい感じで入ったので良かったかなと思います」。ボールはフワリとゴールネットを揺らし、東京Vユースのリードは2点に変わる。
37分には失点を許し、1点差に迫られる。前回対戦時は2-1でリードしていた状況からスコアを引っ繰り返されただけに、嫌な空気が漂いつつある中で、41分に舛舘環汰が果敢に狙ったミドルは、相手に当たってコースが変わり、そのままゴールへ。3-1。次の1点はホームチームが記し、ハーフタイムへ折り返す。
端から見れば最高に近い形の前半のように思えたが、指揮官から見れば満足のいくような出来ではなかったという。「スコアだけ見れば、2点リードして帰ってくることはもちろん素晴らしいことなんですけど、まだまだ詰め切れていない部分はあって、もちろん技術もそうですけど、メンタルが整えばうまくいくものもいっぱいあるなという印象ですね」
「やっぱり自分の思い通りに行かない時に、自分をコントロールできないんです。その結果として、本当に小さいところなんですけど、いろいろなところに歪みが出るというようなところだと思うんですよね」
後半に入ると、ゲームリズムはアウェイチームに傾き出す。「前半よりも守備のハイプレスのところでボールが取れなくなってきていて、ハーフタイムに監督からも『そこを怠ったらフロンターレペースになるよ』と言われていたんですけど、そのままその感じになってしまって、リズムを崩してしまったのかなと思います」と口にするのは中村。60分に2失点目を献上すると、少しメンタルが揺らぎ始めた68分には退場者が出てしまい、東京Vユースは数的不利の展開を強いられる。
ちょっとずつ歪みが積み重なった90分。相手の右サイドバックが中央へ仕掛けたドリブルに付き切れず、左サイドバックに同点ゴールを奪われる。「とりあえず外に出させて、寄せて、クロスを上げられてもしっかり枚数はそろっているので、対応するという感じだったんですけど、少し内側に絞りすぎて、ファーから来た選手に入れられたので、もう少しああいう状況になっても冷静に対応しないといけないなと感じました」(仲山)。ファイナルスコアは3-3。あと一歩というところで、勝点3は手元から儚く零れ落ちた。
「得点も入りましたし、練習していたことも出ていたので、もったいない試合だなという感じですね」。終わったばかりの試合を振り返って、小笠原監督はそんな言葉を紡ぎ出す。前回対戦で逆転負けを味わったのは4月。そこからの決して短くはない時間も、一番選手たちを近くで見つめてきた指揮官は、チームの確かな成長を実感してきたという。
「前のプレッシングもそうですし、後ろで守るところもそうですし、ビルドアップも崩しのところも、あらゆる面で凄く成長しています。クラブユースでもFC東京とやって、ちょっと後ろでドンとブロックを作られて、今季初めて点が獲れなかったので、そこをどう崩すかの練習もしてきましたし、そういうのも今日の試合は結構出ていた中で、そんな形で点も獲れていますし、成長は凄く感じてはいます」
だからこそ、勝ち切れなかったことはもったいないという見解を示した小笠原監督は、こんなことも言っていた。「もっともっとやれないと優勝はできないし、自分たちの理想のプレーを90分間続けることはできないなと。それができれば、おのずと勝点は来ると思うんですけど、そこにはまだまだ遠いなということを、改めて突き付けられた感じではありますね」
今から5か月前。開幕戦で川崎U-18に敗れた試合後。指揮官が話していた言葉を思い出す。「全部足りてねえなっていう感じですね。すべてを上げていかないと難しいなと。今持っているものは一生懸命出したと思うんですけど、『これでは到底やりたいところにはいけないよね』という話を選手たちとしたところです」
間違いなく成長はしている。しかも、ものすごい勢いで。でも、まだ足りない。そして、足りることは絶対にない。成長の先には、さらなる成長がある。彼らならそれを追求できると信じているから、小笠原監督はいつまでも、どこまでも、サッカー選手としての進化と深化を求め続けていく。
次節はFC東京U-18と向かい合う“東京ダービー”。リーグ前半戦の対戦時は、終盤に追い付かれて2-2のドロー。さらにクラブユース選手権の準々決勝でも激突し、0-2で敗戦。同じ相手に、しかも永遠のライバル相手に、負けっぱなしでいいわけがない。
「気持ちは今からメチャメチャ入っていますし、今年はFC東京に勝てていないので、最後は圧倒して勝って、『東京はオレらだぞ』というところを見せたいですね」。アカデミー最後の決戦に挑む仲山は、まっすぐな視線で、はっきりとそう言い切った。
でも、もしダービーに勝ったとしても、それで東京Vユースが身を投じている2025年のチャレンジが終わるわけではない。突き詰めたいディテールはいくらでもあるけれど、一番大事なことをシンプルに言えば、『サッカーが上手くなっているか』。この自分への問いかけをやめない限り、彼らがいつまでも、どこまでも、成長し続けることに、疑いを挟み込む余地はない。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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