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責任も重圧も自身のエネルギーに変える不動のキャプテン。鹿島アントラーズユース・大川佑梧がはっきりと見据える夏と冬の日本一【NEXT TEENS FILE.】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史鹿島アントラーズユース・大川佑梧
その立派な体躯に宿している才能に、疑いの余地はない。みんなで目指した夏の日本一にも堂々とたどり着き、幼いころから憧れてきたプロサッカー選手という職業も勝ち獲った。でも、まだやり残していることがある。昨年は惜しくも届かなかったプレミアリーグ制覇。これを成し遂げないまま、このチームを卒業するわけにはいかない。
「本当にこの3学年の特徴は、ふざける時はふざけるヤツが多くて、それが自分たちの良さでもあり、直していかないといけない部分でもあって(笑)。ただ、やるってなった時にチームのまとまりが出れば、自分たちは日本一強いと思っていますし、そう簡単に負けるようなチームではないかなと思います」
キャラクター豊かな個性派集団を最終ラインから逞しく束ねる、鹿島アントラーズユース不動のキャプテン。大川佑梧はジュニア時代から袖を通してきたアントラーズレッドのユニフォームを身に纏い、アカデミー最後の大勝負へ着々と準備を整えていく。
「キャプテンをやるにしても、やらないにしても、自分がチームを引っ張っていかないといけないと思っていましたし、ピッチ内だったら声を出すことや、誰よりも一番戦うところだったり、ピッチ外だったらうまくチームをまとめながら行動するところは意識しています」
2025年シーズン。最高学年になった大川は鹿島ユースのキャプテンに指名される。既に2年生だった昨シーズンから強烈なリーダーシップを発揮し、仲間を最後方から鼓舞してきた姿を見れば、就任は想像通り。そもそも年代別代表や、今年2月の『NEXT GENARATION MATCH』を戦ったJリーグ選抜でも腕章を任されるなど、その役割も各チームで担ってきただけあって、本人もやるべきことは十分に理解している。
「自分もキャプテンをやることは全然嫌いではないですし、むしろありがたいと感じることの方が多いので、その中で自分が与えられたことに対して、しっかり責任を持ってやれればいいかなと思います」。いつでも落ち着いて、丁寧に話す雰囲気からは、風格のような空気感も漂う。
この冬にはトップチームのキャンプにも参加。同じポジションを主戦場に置く“先輩”たちからは、小さくない刺激を突き付けられたという。「やっぱり植田(直通)くんと関川郁万くんは凄かったですし、(キム・)テヒョン選手も同じ左利きで、凄く良いセンターバックが揃っているので、お手本になる選手が多くて、学ぶ部分が多かったですね。プレースピードや、アジリティ、フィジカルの部分はまだまだ全然足りないと感じましたし、逆に自分の持ち味のキックという部分をもっと出せれば良かったかなと思いました」
Jリーグの中でもトップレベルの選手たちと肌を合わせ、自分の中の軸に据えたプロで生き抜くための基準を、ユースに帰ってきてからも忘れることなく、日々のトレーニングで反芻し、地道に、着実に、たゆまぬ成長を続けてきた。
プレミアリーグでは前半戦の首位ターンに成功し、迎えた夏のクラブユース選手権。鹿島ユースはシビアなグループステージをくぐり抜け、準々決勝でもヴィッセル神戸U-18との激しい打ち合いを5-3で制し、大阪ラウンドを力強く突破してみせる。
さらにプレミアEAST勢同士の対戦となったFC東京U-18との激闘でも、PK戦の末に粘り強く勝利を手繰り寄せ、チームとして大会初優勝に王手を懸けた準決勝の試合後。大川の口から意外な言葉が飛び出した。
「正直、昨日は緊張でなかなか寝れなかったんです。自分は緊張しやすいタイプなんですけど、準決勝ぐらいからは結構プレッシャーもあって、あまりいつも感じたことのないような緊張を感じました」
3年生にとっては、これがアカデミーの一員として挑む最後の全国大会。グループステージから1つも負けられない試合が続いてきた中で、キャプテンとして、ディフェンスリーダーとして、そして精神的支柱として、背負ってきたものが小さいはずがない。PK戦で競り勝って決勝進出が決まった瞬間。大川は人知れず涙を流していた。
ただ、のしかかってくる大きなプレッシャーにさらされる時間を、ただの経験で終わらせるつもりなんて毛頭ない。続けて発した決意に、持ち前のポジティブシンキングと、飽くなき成長欲が滲む。
「でも、今は逆にそういう重圧を感じられることもいいことなのかなって。こういう経験は自分を成長させてくれると思いますし、アントラーズはタイトルを獲っていかないといけないチームなので、うまく自分の中でメンタルコントロールしていきながら、勝つことだけを考えて、次の1試合に全力で挑みたいと思います」
ベガルタ仙台ユースと対峙したファイナル。大川は圧倒的な存在感を示していた。エアバトルを繰り広げた空中戦でも、1対1を挑まれた地上戦でも、ことごとく勝利を収め、相手の攻撃のベクトルを1つずつへし折っていく。
「試合前に『今日は今までやってきたことが報われる日だと信じてやろう』という話はみんなにしました。このチームのキャプテンをやれることは凄く光栄なことですし、その分の責任や重圧もありますけど、それは当たり前のことなので、そういうことを感じながら試合ができたことも良かったなと思います」
チームメイトも躍動する。福岡勇和が鮮やかなミドルで先制点を叩き出せば、高木瑛人は完璧なヘディングで追加点をゲット。後半開始早々にも3年生の中川天蒼が豪快なダイビングヘッドで、ゴールを陥れる。守備陣もGKの菊田修斗、右サイドバックの朝比奈叶和といった3年生が奮闘し、仙台ユースに付け入る隙を与えない。
「自分はこのチームが大好きですし、このチームメイトが大好きなので、みんなと優勝することができて、本当に幸せです」。みんなで勝ち獲った日本一。責任も重圧も期待も、すべてを飲み込んでピッチに立った背番号4のキャプテンが、優勝カップを横浜の夜空に突き上げた。
9月からはプレミアリーグが再開する。昨シーズンは優勝した横浜FCユースと勝点で並びながら、わずかに2点の得失点差でタイトルを逃しただけに、ディテールにこだわる姿勢はチーム全員に強く浸透しており、夏の全国制覇で慢心するつもりもないことは、大川の言葉からもよくわかる。
「もうこのチームでプレーできるのも残り半年ですけど、クラブユースの日本一で満足することのないように、去年は残りちょっとの差で優勝を逃した分、プレミアで優勝してこそ、本当にみんなで喜べると思うので、そこに向けてもう1回チーム全員で努力していきたいと思います」
鹿島アントラーズが育んできた、眩い輝きを放つ確かな希望。『献身・誠実・尊重』に代表されるDNAを、その身体に刻み込んできた大川佑梧がさらなる努力を重ねた先には、世界の猛者と同じフィールドでバチバチに競い合う未来への可能性が、無限に広がっている。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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