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絶対王者のキャプテンを託された守護神が期す復権への道筋。青森山田高校・松田駿が最後に笑うために過ごす臥薪嘗胆の夏 【NEXT TEENS FILE.】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史青森山田高校・松田駿
悩み、苦しみ、もがく。思うように勝利が付いてこない日々の中で、キャプテンとして、守護神として、どう振る舞うかをずっと考えてきたけれど、すべてはピッチの中で存在感を発揮するしかない。この1本のセーブが、この1本のキャッチが、結果に繋がると信じて、とにかくゴールマウスに立ち続ける。
「なかなか勝てない時期に、みんなでミーティングを重ねていくうちに、自分が一番発信してきている分、もっとリーダーシップを持ったり、もっと背中で見せないと、みんなも付いてこないと感じたので、そこは一番自分が大事にしてきたところかなと思います」
勝利を義務付けられた青森山田高校のキャプテンマークを託されている、世代屈指のスペシャルなゴールキーパー。松田駿は突き付けられてきたいくつもの悔しい経験を糧に、最後の最後に笑顔でみんなと喜び合える瞬間を手繰り寄せるため、より高く飛び立つ準備を整えている。
極めて快活なキャラクターだ。全国から精鋭が集った、1月のU-17日本高校選抜合宿の際にも、「自分は明るいタイプのキャラなので、コミュニケーションを早く取ることは意識していましたし、コーチングするうえでも、キーパーにはそういう連携が大事になってくるので、いち早くみんなに声をかけて、仲良くなることは意識してやってきました」と笑顔で語る姿に、周囲をポジティブに巻き込むことのできる性格が滲む。
一方でそのコミュニケーションが、自身のプレーをより高めてくれることも、十分にわかっている。「青森山田では『コーチングが大事だ』と言われてきたので、自分がやりやすいようにやるにはやっぱりコーチングが必要で、周りを動かせる信頼を勝ち獲らないといけないという部分でも、自分がリーダーシップを持って、チームを引っ張るぐらいの気持ちでやらないといけないと思うので、コーチングは一番大事にしています」。自分のために、仲間のために、気づいたことを共有して、スムーズな守備を構築していく。
2年生だった昨シーズンから青森山田の正守護神に指名され、数々の好セーブでチームの危機を救ってきた。高校選手権では初戦で高川学園高校に1-2で敗れ、試合後は涙に暮れていたが、先輩たちから送られたメッセージは今でも忘れていないという。
「試合が終わって、自分が泣いて落ち込んでいた時に、『オマエは泣くな』と。確かにそれ以上自分が泣いていたら、3年生に申し訳ない気持ちもあるので、そこで泣き止んで、『新チームだ!』というふうに気持ちを切り替えました」
その高校選手権では、松田の中学時代の所属チームでもある前橋FC出身の選手も多数プレーしていた前橋育英高校が、結果的に日本一の座に。かつてのチームメイトたちの躍動に、胸の内には複雑な感情が入り混じる。
「元チームメイトが勝つのは嬉しいんですけど、『やっぱり育英に行ったほうが良かったんじゃない?』という声もあったので、それは本当に悔しいですね。自分も本当に頑張らないといけないですし、『次は絶対に優勝してやろう』という気持ちが強くなったので、その分自分にもベクトルが向いたところはメリットかなと思っています」
圧巻だったのは、今季のプレミアEAST第3節の90分間だ。中学3年間の練習場でもある、前橋育英高校高崎グラウンドで行われた前橋育英との一戦は、まさに『松田ショー』といった趣。U-17日本高校選抜でチームメイトだった前橋育英の柴野快仁も「松田が上手かったですね。ヤバかったです」と舌を巻いたように、ファインセーブを連発し、PKストップまで披露。試合には0-1で負けたものの、圧倒的な存在感を見せ付けた。
「育英戦は会場も昔やっていたグラウンドでしたし、昔のチームメイトもいたので、相手を倒してやろうという気持ちやモチベーションは相当高かったです。PKも『何としても止めてやる』という想いが、結果的に止めることに繋がったと思います」。ホームで戦う後半戦では、必ずタイガー軍団から勝利を奪い取る決意を固めている。
個人としては6月にJ1のファジアーノ岡山への来季加入が内定。前橋育英が初めて高校選手権で日本一に輝いた代の主力であり、現在はジェフユナイテッド千葉でプレーする兄の松田陸に続き、兄弟でプロサッカー選手になるという目標も、実現させることとなった。
今まで以上に注目を集める存在になったことは間違いないが、今月末から開催されるインターハイで、その実力を存分に見せることは叶わない。青森県予選決勝では八戸学院野辺地西高校と激闘を繰り広げた末に、まさかのPK戦敗退。優勝記録は24連覇で、県内での公式戦連勝記録は418試合でストップ。試合が終わった直後には、ピッチに突っ伏したまま立ち上がれず、チームメイトに抱きかかえられながら、何とか整列に向かう姿が印象的だった。
この夏の松田が、数多くのものと向き合う日々を送ることは、想像に難くない。Jリーグ内定選手というプライド。強豪校のキャプテンという重圧。そして、絶対に果たさなくてはいけない選手権予選でのリベンジ。それでも、そんな誰でも味わえるわけではない、さまざまなものを意識しながら過ごす日常は、必ずさらなる成長の材料になる。
1月。新チームの始動を前に、松田がこう話していたことを思い出す。「選手権に負けたことで、新チームも世間からは『山田は弱い』というふうに言われると思うんですけど、それだけでは終わらないのが自分たちですし、それを覆すぐらいのパワーで頑張ります」
このまま終わるはずがない。このまま終わっていいはずがない。臥薪嘗胆の夏を越えた彼らは、きっと今までとは違う強さを身に纏っているはずだ。そんな青森山田の絶対的なキャプテンにして、絶対的な守護神。松田駿はすべての悔しさを覆すぐらいのパワーを身につけるべく、静かにその牙を研いでいる。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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