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高2でプロ契約を結んだ確かな才能。横浜FCユース・秦樹が秘めるのはまっすぐ上へと伸びていく大樹のようなポテンシャル。 【NEXT TEENS FILE.】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史横浜FCユース・秦樹
一緒にリーグ制覇を成し遂げた、頼れる先輩たちはもういない。数多くの貴重な経験を積ませてもらったからこそ、今度はもう自分がやるだけだ。ハマブルーのユニフォームを纏い、最後方から仲間を鼓舞し続け、向かってくるボールは跳ね返し続けてやる。
「去年はキャプテンの(小漉)康太とかを含めて、リーダーシップをとってくれていた選手がいましたけど、今年はいなくなったところを誰がやるのかというところで、一番後ろから全体が見えているのは自分なので、去年以上に自分がいろいろ言っていきたいですし、やらなきゃいけないなと思っています」
既にトップチームとプロ契約を締結している、横浜FCユースの現代型センターバック。秦樹はハイレベルな環境に身を置きながら、自身の成長に目を向けつつ、よりチームの勝敗を担える選手へのステップアップを期している。
プレミアリーグEAST第10節。昨季王者の横浜FCユースは、今シーズン初の連勝を目指して昌平高校と対峙する。相手の両ウイングに入った長璃喜と山口豪太は、秦にとっても年代別代表でともにプレーしている間柄。要警戒人物だ。
「昌平は全員ボールを持てますし、特にあの2人は代表でも一緒にやったことがあって、どちらもカットインが上手くて、一発で仕留める力がある選手なので、そこには気を付けながら、できるだけ2枚で挟みに行くというのは意識していました」
序盤から攻められる時間が長い中でも、ここまでのリーグ戦で全試合フルタイム出場中の秦と大川莱のセンターバックコンビを中心に、ホームチームは高い集中力を保って相手のアタックに対抗。23分には齋藤翔が先制ゴールを叩き出し、1点のリードを奪う。
後半に入ってもボールを持たれる展開を強いられるが、「莱と自分が動きすぎてしまうと、そこを狙って蹴られると思っていたので、自分たちは中にしっかりブロックを作って守りながら、ボールにはしっかりサイドの選手を行かせてというところで、サイドの選手に凄く助けてもらったかなと思います」と秦が話したように、サイドバックとの役割分担をはっきりさせ、中央には揺るがぬ安定感を築き上げる。
終わってみれば相手の強力攻撃陣に得点を許さず、今季2度目のクリーンシートを達成したチームは、1-0で逃げ切りに成功。抜けるような青空の下で、横浜FCユースの選手たちが浮かべる笑顔が弾けた。
2024年は秦にとって飛躍の1年だった。8月に広島で開催された『Balcom BMW CUP 広島ユース』に挑むU-17日本代表の招集を受け、年初に掲げた年代別代表入りという目標を手繰り寄せると、リーグ戦でも不動のレギュラーとしてEAST初制覇に大きく貢献。さらに12月にはプロ契約も締結し、一躍周囲の注目を集めることとなる。
今季は基本的にトップチームに帯同しながら、週末はプレミアを戦う日々が続く中で、本人は高い意識を持ってユースでの活動に臨んでいる。「去年以上に自分が声を出して、周りを声掛けで助けたいと思ってやっています。トップで良い経験ができていると思うので、ユースに来た時にそれを良い形で出せれば、みんな乗ってくるというか、背中を見て一緒にやってくれると思うので、キャプテンの佃(颯太)をサポートしながら、自分もリーダーシップを持ってやっていきたいです」
プロ選手と同じグラウンドで切磋琢磨する日常が、18歳にとって刺激にならないはずがない。とりわけJ1でもトップクラスのキック精度を誇る福森晃斗の存在は、秦にとっても見習うところが多いようだ。
「今トップにいるセンターバックは経験の多い選手が多いので、学ぶところが多いですけど、キックのところでやっぱりフクさん(福森)は凄かったです。よく対角のキックとか教えてもらっているので、マネできるのが一番ですけど、よくわからないというか、参考にならないというか(笑)。そこは凄いレベルなんですけど、身近にそういう選手がいるので、少しでも練習で力を着けて、プレミアの舞台でも出していきたいなと思っています」
実際に話してみるとごくごく穏やかな青年であり、優しげな口調も印象的だが、本人は4人兄弟の3番目とのこと。「みんな最後の名前が『い』で終わるんです。僕は『じゅい』で、お兄ちゃんが『らい』で、妹が『るい』で……、ああ、お姉ちゃんだけ『いさ』で、最初に『い』が付くんですけど(笑)、『じゅい』はあまりいない名前なので、覚えてもらいやすいですね。漢字だけだと絶対に読まれないですし、同じ名前の人はまだ見たことがないです」。兄弟の名前にまつわるエピソードを笑顔で語ってくれた表情は、まだあどけない高校生そのものだ。
ここまでまだトップチームでの公式戦出場は訪れていない。もちろんそちらで出場機会を掴めるに越したことはないけれど、週末にユースのチームメイトと目の前の勝利を目指し、ともに戦う時間の大事さも強く実感している。だからこそ、楽しみたい。みんなと過ごせるアカデミーラストイヤーを。
「少しずつ勝てるようになってきたのはチームとしていいことかなと思うんですけど、まだ失点もしていますし、去年ほどうまくチームを助けられていないなというのは、ちょっと前から思っていますね。個人としてはまだまだ足りないところだらけなので、プロ契約をしている選手としてプレミアに出ていますけど、それは必要以上に意識しすぎずに、自分らしくやりたいなと思います」
周囲から寄せられる期待は、十分すぎるほどにわかっている。それでも必要以上に気負わず、自分らしく、のびのびと。しなやかな大樹のように、まっすぐ上へ、上へと実力を伸ばしていく、横浜FCユースの新たな希望。たゆまぬ努力を重ねる限り、秦樹の名前を今まで以上に多くの人が知ることになるのも、そう遠い日のことではなさそうだ。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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