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再会は“いつものグラウンド”で。久保遥夢と桑原唯斗がバチバチに繰り広げた「旧友マッチアップ」 高円宮杯プレミアリーグEAST 前橋育英高校×青森山田高校マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史マッチアップを繰り広げる前橋育英高校・久保遥夢と青森山田高校・桑原唯斗
「お互いに着ているユニフォームが違ったので、だいぶ変な感覚はありましたね。中学の時は一緒のチームでしたけど、結果的に高校では違うチームになってしまったので、『いつかは戦おう』という話はしていましたし、それでこのプレミアリーグという舞台で戦えたので、今日は嬉しかったです」(前橋育英高校・久保遥夢)
「中学校から同じチームで一緒にやっていたので、対戦するのが楽しみではありましたけど、絶対に負けたくなかったですね。去年の試合はケガで来られなかったので、山田に行ってからは初めてここに来ました。やっぱり特別な感じはあります」(青森山田高校・桑原唯斗)
プレミアリーグEAST第3節。前橋育英高校高崎グラウンド。前橋育英高校と青森山田高校が対峙する好カードには、ホームチームにも、アウェイチームにも、前橋FCに在籍していた中学時代の3年間をこのグラウンドで過ごしてきた選手が、何人もメンバーリストに名前を連ねていた。
中でもお互いを強く意識していた2人がいる。久保遥夢と桑原唯斗。前者は前橋育英のセンターバックであり、後者は青森山田のフォワード。ポジション的にもマッチアップは不可避。どちらもバチバチにやり合う覚悟は決めていた。
試合前日には少しだけ連絡を取り合ったという。「昨日は『こっちに泊まりに来ているの?』と自分から連絡して、そのまま少しだけやり取りした感じです。試合については『明日はこっちが勝つから』ぐらいの感じでは話していました」(久保)。多くの言葉は必要ない。すべての会話はピッチ上でのプレーで交わす。どちらがより成長しているか。そして、どちらが勝つか。フォーカスすべきはそれだけだ。
久保は黄色と黒の、桑原は白のユニフォームを纏って、決戦のグラウンドへと歩みを進めていく。強めに握手して、別々のコートへ。「中学校の時に関東リーグもここで試合をやっていて、得点も多く獲れていたので、思い出があるグラウンドでしたし、ちょっとホーム感はありましたね」。桑原は見慣れた光景に、何とも言えない懐かしさを覚えていた。
キックオフの笛が鳴ると、2人は再三にわたってマッチアップを繰り広げる。久保の感想が興味深くて、微笑ましい。「今日はやりやすさもやりづらさもありました。唯斗の特徴がスピードやヘディングの高さだとはわかっていますし、1週間そういう練習に取り組んできたので、そういう面はやりやすかったですけど、唯斗も自分のボールの持ち方もわかっている分、ドライブした時に結構後ろまで落ちてプレスを掛けてきたので、そこでやりづらさはありました。だいぶオレのことを意識していたと思います(笑)」
言うまでもなく桑原も、久保の特徴を理解した上でこの日のゲームに臨んでいた。「育英はディフェンスからボールを回してくるチームで、自分が前からチェイシングを掛けていけば、絶対にどこかでボールを奪えると思っていたので、そこはやり続けたことですね」。
久保のビルドアップに、桑原が果敢なプレスを掛ければ、桑原に合わせて放り込まれたフィードを、久保が高い打点のヘディングで跳ね返す。お互いがお互いを知り尽くしているからこそ、アイツには絶対に負けたくない。両者はピッチ上で激しい火花を散らし合う。
前半の終盤には、アウェイチームに決定機が訪れた。45+1分。小山田蓮が蹴ったFKがエリア内でこぼれると、巧みな浮き球でマーカーをかわした桑原は右足一閃。ボールはゴールへと向かっていたものの、恐れずにシュートコースへ飛び込んだ久保が身体全体で弾き出す。「ブロックされましたね。決めたかったです」。絶好のチャンスを“元チームメイト”に阻まれ、青森山田の11番は思わず天を仰ぐ。
試合は後半に入って前橋育英が挙げた先制ゴールが、そのまま決勝点に。桑原が交代する84分まで、激しく刃を交わした2人の再会は、完封勝利を最終ラインで支えた久保に軍配が上がる格好で、幕を閉じることになった。
「この日のために準備してきたんですけど、こういう結果になって『凄く悔しいな』という気持ちはあります」。開幕3連敗という悔しい結果を突き付けられただけに、桑原も試合を思い出しながら唇を噛み締める。
「とりあえず勝てて、2連敗は避けられたので良かったですけど、個人としては唯斗に負けている部分もありましたし、改善点だらけだったので、次節からは全部の相手に勝てるようにトレーニングしたいと思っています」。チームは連敗を回避したが、久保は“元チームメイト”との勝負も振り返りながら、自分自身にベクトルを向ける。
両雄が再びぶつかり合う後半戦の対戦は9月21日。今度は青森山田高校グラウンドが舞台となる。“いつものグラウンド”への帰還を終え、リベンジを誓う桑原はこう言い切った。「次は点を獲ってやるという想いは強いですし、もう負けたくないです」
もちろん久保も返り討ちを期す。「今日は唯斗と敵チームで戦ったので、気合も入りましたし、勝負とは別の楽しさもありました。次はアウェイなので、今度は自分がヘディングでゴールを決めて、唯斗を抑えて無失点で勝ちたいと思います」。5か月後までには、もっと練習して、必ずアイツに勝つ。そんな想いが彼らの成長をより加速させてくれることは、間違いないだろう。
同じ高体連同士の両チームには、プレミアリーグ以外でも対戦する可能性が残されている。ひとまず勝者となった前橋育英のセンターバックは、ひそかに心へ秘めている“希望”をそっと教えてくれた。
「中学生の時に別々の高校に行くことが決まってから、『唯斗と選手権の決勝で戦いたい』という気持ちはありましたし、やっぱり一緒に国立の舞台に立ちたいので、山田と育英で選手権の決勝をやれたらいいなと思っています」
あくまでもこの日の再会は、彼らが高校ラストイヤーに1年を掛けて紡いでいくストーリーの序章に過ぎない。同じボールを追いかけた旧友であり、最高のライバル。久保遥夢と桑原唯斗の2025年は、まだ始まったばっかりだ。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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