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伝統の背番号5を託されたディフェンスリーダー。市立船橋高校・岡部タリクカナイ颯斗が秘めている底知れないポテンシャル 【NEXT TEENS FILE.】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史市立船橋高校・岡部タリクカナイ颯斗
携えているメンタルは守備者のそれではない。シーズン前に今季の目標を問われ、「プレミアにはフロンターレの土屋(櫂大)とか、凄いセンターバックがいっぱいいますけど、その中でもセンターバックで一番いいプレーをして目立ちたいとはずっと思っています」と言い切った強気な言葉も頼もしい。市立船橋高校の最終ラインを束ねているセンターバック。岡部タリクカナイ颯斗のことだ。
そもそも昨シーズンの今頃は、まだフォワードが主戦場。その適性を認められ、少しずつボランチやセンターバックでも試されていたものの、本人は「まだフォワードをやりたいので、自主練の時間もシュート練をやっているんですけどね」と笑いながら話していたほど。未練は十分に残っていた。
印象深いゲームがある。昨年度の高校選手権3回戦。それまでの2試合はベンチスタートだった岡部は、星稜高校と激突した一戦でスタメンに抜擢される。送り出されたポジションはセンターバック。チームは前半の内に先制しながら、同点に追い付かれる失点に絡んだものの、「自分のところでやられたので、取り返してやろうという想いがメチャメチャ強かったです」と気合を入れ直す。
すると、前半終了間際のセットプレーのチャンスに、岡部は得意のヘディングで豪快なゴールを記録。終わってみれば市立船橋は4-1で快勝を収めてみせる。フル出場で勝利に貢献した試合後、「ずっとベンチでウズウズしていたので、緊張というよりは、『やっと自分の出番が来た!やってやろう!』という想いの方が強かったです」と堂々と語る姿には、シビアな80分間をセンターバックとして戦い抜いた充実感と、確かな自信が漂っていた。
今年の3月。プレシーズンの『船橋招待U-18サッカー大会』。岡部は最終ラインの中央で大声を張り上げていた。「今年のポジションはセンターバックだと思います。さすがにもう割り切りました(笑)」。自分に言い聞かせるように浮かべた笑顔も微笑ましい。
その背中には、このチームにとっての特別な番号が躍っていた。鈴木和裕。羽田憲司。増嶋竜也。杉岡大暉。全国のファイナルを戦い、のちにプロの門を叩いたレジェンドたちも背負った『市立船橋のセンターバック』を象徴するような背番号5は、岡部に託される。
「波多さん(波多秀吾監督)にも『5番を付けるんだから、もっとやらないといけない』とは言われているので、自分でも『もっとやっていかないといけないな』と思っています」。センターバックとして、ディフェンスリーダーとして、市立船橋を牽引していく覚悟は、もうこの時に定まっていたのだ。
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プレミアリーグの前半戦は、とにかく苦しい時間が続く。11試合を戦って3分け8敗。1つの白星も得ることができず、最下位に沈む。だが、永遠のライバル・流通経済大柏高校を千葉県予選決勝で撃破し、挑んだインターハイでは全国8強まで進出。真夏の福島でわずかな兆しは見え始めていた。
後半戦がスタートすると、初戦の青森山田高校戦でシーズン初勝利を記録するが、翌節の鹿島アントラーズユース戦に逆転負けを喫し、迎えた第14節の大宮アルディージャU18戦は、11位対12位の残留争い直接対決。「今回のゲームを迎えるに当たって、『相手がどうであろうと「イチフナとしてあるべき姿」をちゃんと見せよう。そうすれば、あとは結果が付いてくるから』という話をして、1週間トレーニングを積んできました」(中村健太コーチ)。勝負の90分間が幕を開ける。
試合は30分に市立船橋が先制。追い付きたい大宮U18も後半に入ると攻勢を強め、「相手にずっと攻められてメッチャキツかったですね」と岡部も振り返るような展開の中で耐え続けていたものの、84分に一瞬のスキを突かれて同点弾を献上。最終盤でスコアを振り出しに引き戻される。
思わず下を向いてしまうような時間帯での失点。もちろん追い込まれていなかったはずがない。それでも市立船橋の選手たちはまだ諦めていなかった。「昨日のミーティングで中村さんが、Jリーグのロスタイムの同点弾や勝ち越し弾の映像を練習前に見せてくれて、『絶対に最後まで諦めるな』と言われていたので、あの状況でもみんなピッチの中で声を出してやれていたのかなと思います」(岡部)。懸命に前を見据え、ファイティングポーズを取り直す。
90+2分。右サイドから左近作怜が上げたクロスに、リーグ戦では無得点だった悩めるエース・久保原心優が必死に頭で合わせたボールは、ゴールネットへ吸い込まれる。劇的な勝ち越しゴールは、そのままこの試合の決勝点に。「負けたらメチャメチャキツい状況になっていたと思うので、嬉しさ半分、ホッとした気持ち半分、という感じでした」(岡部)。まさに“市船魂”を感じさせるような勝利。選手たちは歓喜の歌をアウェイのスタジアムに轟かせた。
大宮アルディージャU18戦の試合後。チームメイトと喜びを分かち合う
この1勝をきっかけに、市立船橋は覚醒する。後半戦はここまで5勝2分け1敗。第17節からは昌平高校、流通経済大柏、尚志高校を相次いでなぎ倒し、圧巻の3連勝を達成。9位のFC東京U-18、10位の尚志と勝点で並ぶところまで驚異的な浮上を果たし、プレミア残留への光は間違いなく差し込んできている。
岡部もリーグ戦での好パフォーマンスを評価され、10月にはU-18日本代表に初招集。スペイン遠征に参加し、同世代の実力者たちから小さくない刺激を受けるなど、着実にセンターバックとしても進化を続けてきた。
高校サッカーと向き合う時間も、長くてあと2か月あまり。大宮U18戦の試合後、岡部が熱っぽく語っていた言葉を思い出す。「僕たちのシーズンを通しての目標に、『見ている人たちを感動させる』というのがあるんですけど、その中で『応援される選手、愛されるチームにならないといけない』と、『正々堂々やることとか、泥臭く一生懸命やることが人を感動させる』という話をずっとされているので、Jユースと比べたら綺麗に繋いで崩す感じのスタイルではないですけど、『走って、戦って』ということはもっと意識して続けていくべきかなと思います」
2024年を戦う市立船橋のキャプテンマークと背番号5を託されたセンターバック。底知れないポテンシャルを秘めた岡部タリクカナイ颯斗がさらなる成長を止めない限り、上昇気流をはっきりと掴んだチームも前へと突き進んでいくことに、疑いを挟み込む余地はない。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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