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半年ぶりのゴールに滲ませた「レイソルの10番」の矜持。柏レイソルU-18・戸田晶斗が“最後の2か月”で期すのは支えてくれたみんなへの恩返し【NEXT TEENS FILE.】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史柏レイソルU-18・戸田晶斗
「やっと、という感じですね」
そう口にして、少しだけ安堵の笑顔を浮かべる。柏レイソルU-18の10番を託されたファンタジスタ。戸田晶斗はようやく手にした結果の、そして、チームを勝利に導くことになったゴールの喜びを、静かに噛み締めていた。
プレミアリーグEAST第18節。首位の横浜FCユースと対峙する大事な一戦に臨む、柏U-18の18人が並んだメンバーリストを眺めると、ただ1人だけ前所属チームの欄に“柏レイソル”というクラブ名が記されていない。『VITTORIAS(ヴィットーリアス) FC』。千葉の街クラブから、戸田はJクラブのユースチームにやってきた。
「練習会に呼ばれて、真家(英嵩)くんとか田中(隼人)くんの代の練習に参加して、次の日に内定をもらった感じです。他のJクラブからもオファーはあったんですけど、小学生の頃から県トレで一緒だった猪狩鉄太とか黒沢偲道とか栗栖汰志はメチャクチャ上手くて、そういう選手のいるチームでプレーしたいなとずっと思っていたので。自分の中ではレイソルから話が来たら絶対に行くと決めていました」
もちろん確かな自信を携えて、名門クラブへ身を投じたものの、周囲はほとんどがレイソルアカデミーのDNAを刻み込まれてきた選手たち。すぐに実力を発揮できたわけではない。「最初はあまり結果を出せなくて、みんなからも信頼されていない感じがありましたし、やっぱり溶け込むのはちょっと難しかったですね」。チームメイトのレベルの高さに圧倒されながら、少しずつ、少しずつ、自分の色を出していく。
「徐々にゴールとかアシストが増えてきて、そこからはみんなからの信頼が増した感じはありましたし、結果が付いてきたらパスが来る回数も増えたので、『結果を出す』ということは本当に大事だなと思いました」。昨シーズンはプレミアリーグでも20試合に出場して7得点を記録。チームの攻撃を牽引していく中で、強い存在感を打ち出すことに成功する。
迎えた2024年シーズン。戸田は新チームの10番に指名される。「自分はユースからレイソルに入ってきた時に、『絶対に10番を付けたい』と思っていたので、今年は自分が10番だと聞いた時は本当に嬉しかったです」。誰よりも自分自身に期待しながら、U-18で過ごす最後の1年に歩みを進めていく。
一定のパフォーマンスを出せている実感はあった。だが、不思議とゴールだけが付いてこない。「正直プレー自体はそんなに悪くなかったですけど、最後にゴールを決めるというところで、なかなか決め切れなくて、藤田(優人監督)さんからも『プレー自体は悪くないけど、最後のところだな』とは言われていました」。3節のFC東京U-18戦で今季初得点を挙げてから、リーグ戦では実に半年近くもゴールから見放されることになる。
9月7日。ホームで大宮アルディージャU18と対峙した試合後。チームは2-1で競り勝ったにもかかわらず、10番は悔し涙を流していた。「(吉原)楓人とかモハ(ワッド・モハメッド・サディキ)とかみんなはゴールを決めているのに、自分は決められなくてチームに迷惑を掛けていたので、悔しさと情けなさがありました」。なかなか結果の出ない状況の中で、本来得意にしているフォワードやトップ下ではないポジションで起用されることも。悩みは深さを増していく。
だが、戸田には自分を信じてくれる人たちが付いていた。「LINEでも『ゴールを決めるのを待ってるよ』と言ってくれる人がいて、保護者の方や久しぶりに会った仲間にも『いつも結果を気にしてるよ』とか言われますし、本当にたくさんの人が自分のことを応援してくれているんです」。みんなのためにも、必ず結果を出す。ベクトルを自分に向け直し、とにかくその時を引き寄せるために、日々の努力を積み上げていく。
日立台で首位の横浜FCユースと激突する一戦は、両者の勝点差を考えても負ければ優勝の可能性がほとんど消滅する、柏U-18にとっては“超重要”な90分間。「今日は自分がフォワードで出ることはわかっていたので、絶対にゴールを決めてやると思っていました」。気合は十分すぎるほどにみなぎっていた。
スコアレスで推移していた58分。猪狩鉄太のフィードを左サイドで収めた吉原楓人が、粘り強いキープから丁寧なラストパスを送ると、その軌道の先にエリア内の背番号10が走り込んでくる。
「最初は『トラップして打とう』と思ったんですけど、ボールが来た時にトラップしたら相手に寄せられると思ったので、瞬時に『ダイレクトで打った方が入るかな』と思って、ダイレクトで打ちました」。左足で叩いたボールは、ゆっくりとゴール右スミへ吸い込まれていく。
半年ぶりのゴール!「レイソルの10番」の仕事を果たす!
「『やっと来た!やっと入った!』という感じでした」。そのままピッチサイドへと駆け寄り、飛び出してきたチームメイトたちの中へ飲み込まれた戸田は、その歓喜の輪が解けると、観衆に向かって自分の背中に踊る番号をアピールしてみせる。
「このチームはモハや楓人や(栗栖)汰志がプロに行くので注目されるんですけど、『レイソルには10番の戸田晶斗もいるぞ』って。自分にもその3人も負けない持ち味があるので、いろいろな人に自分の名前も知ってほしいと思います」
ついに果たした“レイソルの10番”の仕事。リーグ戦では実に15試合ぶり、6か月ぶりとなったゴールは、そのままチームを救う決勝点に。試合後にはピッチサイドへあいさつに訪れた選手たちの前に歩み出て、観客の方々へ感謝の言葉を述べながら、『勝利のロレンソ』の音頭を取って、会場全体で喜びを分かち合う。
「今日はみんなからたくさんメッセージが来ると思います。『やっと決めたか』って。みんなが『まだか、まだか』と思っていたはずなので(笑)」。苦しい時間を支え続けてきた人たちにとっても、この日の1点が戸田から贈られる最高のプレゼントになったことは、あえて言うまでもないだろう。
高校卒業後は関東の強豪大学へと進学する予定だが、もちろんプロサッカー選手になる目標を諦めているはずもない。4年間でさらなる成長を、さらなる飛躍を遂げて、必ず誰よりも高い場所まで羽ばたいてやる。そのためにも、まずはこのチームで過ごす最後の2か月に、今持てる自分のすべてを懸ける覚悟は定まっている。
「もう残り2か月で試合も少ないですけど、プレミアの優勝を狙えるところにはいるので、1試合1試合を大事にみんなで勝って、後輩たちにも良い景色を見せてあげたいなと思っています」
真摯に重ねてきた努力は、やはり自分を裏切らなかった。久々の結果を力強く手繰り寄せた男の進撃は、もう止まらない。ここからの時間で期すのは、支えてくれたみんなへの恩返し。戸田晶斗が日立台のピッチの中を華麗に舞う、レイソルアカデミーでのラストダンスから目が離せない。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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