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サッカー フットサル コラム 2024年10月16日

勝利しか許されない90分間を支えたのは3年生の意地と執念。太陽王子が背水の陣で掴んだ勝点3の価値 高円宮杯プレミアリーグEAST 柏レイソルU-18×横浜FCユースマッチレビュー

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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勝利のダンスを踊る柏レイソルU-18の選手たち

「我々が目標にしているところに届くには、勝点1でも全然ダメだったので、それに向かって『本当に絞り出せ』ということはずっと言っていた中で、最後は何人か倒れていましたけど、今年のチームのレイソルらしさは十分に発揮してくれたんじゃないかなと思います」

チームの指揮を任されている藤田優人監督は試合後、ほんの少しだけ胸を張って、選手たちの奮闘を称える。首位を快走する横浜FCユースとホームで対峙した一戦は、負ければリーグ優勝が大きく遠ざかるビッグマッチ。レイソルのエンブレムを背負った“太陽王子”の中でも、この日はアカデミーラストイヤーに懸けてきた3年生の意地が、ピッチの中で逞しく弾けた。

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「もう本当に目標にしてきたものが、この首位相手に勝てないと一気になくなってしまうというゲームの中で、それは自分が言わなくても選手全員がわかっていたので、全員が『本当に勝ちたい』という気持ちで練習からやれていたと思います」

柏レイソルU-18を束ねるキャプテン、栗栖汰志

今シーズンのキャプテンを務める3年生の栗栖汰志は、この試合に向かう1週間のトレーニングの雰囲気をそう振り返る。前節終了時点で4位に付けていた柏レイソルU-18と、首位の横浜FCユースの間に横たわるポイント差は9。今節の直接対決の結果次第では、事実上の“終戦”を迎える可能性もあったため、選手たちはいつも以上に気合いを入れて、日々のトレーニングと向き合っていく。

「今週は練習でも結構調子が良くて、コンディションも良かったので、『ベンチに入るぞ』とは言われていて、いつでも行ける準備はしていました」。

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後半戦はまだリーグ戦の出番がなかった3年生の石津一輝は、自分にできる最大限の準備を整えていた。開幕戦には後半から登場し、第3節のFC東京U-18 戦でもやはり後半に途中投入されたものの、以降の主戦場はBチームが戦う県リーグに。久々にベンチ入りした2週間前の市立船橋高校戦でも最後まで出場機会は訪れなかったが、再びモチベーションを立て直し、この日の試合に挑む18人の枠を勝ち獲っていた。

「最初の方は結構気にしていたんですけど、途中からは『ブレずにやっていればいつかは必ず結果が付いてくる』と信じていたので、しっかり当たり前のことをやっていこうと思っていました」

柏レイソルU-18の10番を託されている戸田晶斗

柏U-18の10番を背負っている3年生の戸田晶斗は、明確な自分の結果に飢えていた。指揮官から攻撃の全権を託され、リーグ戦全試合に出場してきた中で、自身のゴールは第3節で記録した1点のみ。高い技術で次々とチャンスを生み出していく一方で、なかなかゴールが付いてこない現状を打開すべく、大事な今節のピッチに並々ならぬ決意を携えて足を踏み入れる。

前半のシュート数はホームチームの2本に対し、アウェイチームは8本。押し込まれる時間の長い展開を強いられるも、「自分たちの中では想定内の中でしっかり守れるところは守れていたので、嫌なイメージはなかったですね」と話した栗栖の2度のファインセーブもあって、スコアレスでハーフタイムへと折り返す。

58分。眠れる10番が目を覚ます。猪狩鉄太のフィードを受け、左サイドで粘り強く時間を作った吉原楓人が中央へ折り返すと、走り込んできた戸田は一瞬で思考を巡らせる。「最初は『トラップして打とう』と思ったんですけど、ボールが来た時にトラップしたら相手に寄せられると思ったので、瞬時に『ダイレクトで打った方が入るかな』と思って、ダイレクトで打ちました」

左足で叩いたボールは、右スミのゴールネットへゆっくりと吸い込まれる。「『やっと来た!やっと入った!』という感じでした。今日は『絶対にゴールを決めてやる』と思っていたので、それが気持ちとして乗ったかなと思います」。実にリーグ戦15試合ぶりの得点を挙げたスコアラーは、チームメイトの歓喜の輪へあっという間に飲み込まれた。

81分。アップエリアにいた石津にベンチから声が掛かる。「緊張はそんなにしなかったですね。『来た!やってやるぞ!』という感じで、自分が出たら結果を残せると思っていましたし、藤田さんからは『いろいろな気持ちがあると思うけど、ミスしてもいいからどんどんチャレンジして、自分の良さを出してこい』と言われました」。実にリーグ戦15試合ぶりの出場となるピッチへ、12番が力強く駆け出していく。

1点をリードした最終盤というシビアな時間帯での投入だったが、石津は日常から積み上げてきたものに確かな自信を持っていた。「プレミアの出場機会があまりない中で、結構もがいていた苦しい時期もあったんですけど、いつでも出られるように、日ごろから自主練もコツコツやってきて、今週コンディションが上がってきて出られたという感じです」

「自分は結構メンタルが弱い方なので、環境に左右されたりしてしまうんですけど、そこを変えていかないと上のレベルではやっていけないので、まず日ごろのトレーニングから自分のプレーに責任を持てるように意識して、自信を付けられるように、メンタルの部分を磨いてきました」。最初は3バックの右センターバックに入り、システム変更を受けて4バックの左サイドバックに回りながら、相手の攻撃を丁寧に潰していく。

85分。柏U-18に決定的なピンチがやってくる。右サイドを崩され、中央の細かいコンビネーションから相手のエースがフィニッシュ。DFに当たって少しコースが変わった軌道はゴール右スミを襲ったものの、栗栖は鮮やかな横っ飛びでボールを枠外へ弾き出す。

「あそこで失点してしまったら結果は変わっていたと思いますし、今シーズンはああいう大事な場面を止められるキーパーになろうと思ってきたので、結果として現れて良かったなと思います」。重ねてきた努力を1本のセーブに滲ませたビッグプレー。頼れる守護神がゴールに鍵を掛け続ける。

「もういろいろなことを考えずに、勝つことだけを見ていたので、本当にホッとしたという気持ちしかなかったですね。『良かった……』という気持ちでした」(石津)「今日はたくさんメッセージが来ると思います。『やっと決めたか』って。みんなが『まだか、まだか』と思っていたはずなので(笑)」(戸田)「本当に今シーズンで一番試合が終わった後にやり切ったなという感じでしたね。最高でした」(栗栖)

三者三様の感想も面白い。1-0でシビアなゲームを勝ち切った柏U-18にとって、さまざまな想いを抱えながら、それぞれの役割を100パーセントでまっとうした3年生の奮闘は、残されたリーグ戦に向けてもきっとポジティブに作用していくはずだ。

栗栖が普段から仲が良いという石津について、興味深いことを話してくれた。「一輝は寮生なので自分の家にゴハンを食べに来ることもあるんですけど(笑)、今年はずっと苦しいシーズンを過ごしているなというのは自分も感じていました。でも、そこでやめないでずっと頑張っている選手だということは知っているので、普段から自分も厳しいことは言っているんですけど、『出たなら掴んでほしいな』という想いがあって、そこでしっかり役割をまっとうして、結果を出してくれたのは、チームとしても個人としてもメチャクチャ嬉しいことですね。試合が終わった後に『スーパー!一輝!』と言いましたね」

「実は今日のハーフタイムに藤田さんから話があったんですけど、『“チャンスを掴める選手”というのは、準備と機会が重なった時に起こる』と。準備ができていない選手だと、機会が来ても掴めないと思うんですけど、一輝はとにかくずっとやり続けて準備していたから、今日みたいな結果が付いてきたのかなと思います」

石津も「汰志が期待してくれているのは凄く感じていて、厳しい言葉もポジティブに捉えているので、全然ありがたいです、と自分に言い聞かせています(笑)」と笑顔を見せながら、残されたアカデミーでの時間への決意を口にする。

「今日のプレーは自信を持ってやれたので、この先もまた自信を持ってプレーできるかなと思いますし、勝てたことは素直に嬉しいですけど、あのピッチにスタートから出たいという気持ちはあるので、もう試合も少なくなってきていますけど、1つでも多く試合に出られるように頑張っていきたいと思います」

常に万全の準備を怠らないことで、その機会が巡ってきた時に、訪れたチャンスをしっかりと掴むことができる。この日の石津の躍動は、みんながその目に間違いなく焼き付けている。背水の陣で臨んだ90分間で、総力を結集して手にした勝点3の価値を証明するための時間は、まだまだ彼らに残されている。


しっかりとチャンスを掴んだ柏レイソルU-18・石津一輝

文:土屋雅史

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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