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いつも笑顔を絶やさない圧倒的ムードメーカー。川崎フロンターレU-18・齊名優太がこのチームにいる価値 高円宮杯プレミアリーグEAST 横浜FCユース×川崎フロンターレU-18マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史川崎フロンターレU-18の圧倒的ムードメーカー、齊名優太
プレミアリーグを戦う川崎フロンターレU-18の戦闘モードは、いつだって試合前の集合写真を撮影する時に発せられる、この人の掛け声でスイッチが入る。「今日も行こう!今日も行こう!川崎に勝点3、持って帰りましょう!5、4、3、2、1!」。一瞬で笑顔が灯った11人は、ピッチへと駆け出していく。
「アレは2年生のJヴィレッジカップの時に、相手チームがやっていたのを真似してみたら結構好評で、そこからベンチ入りしたら自分がやるみたいな感じにはなっていますね。一応噛んだりしないようにだけは気を付けていて、そこはプレッシャーと戦っています(笑)」と明かすのは3年生の齊名優太。川崎U-18の圧倒的ムードメーカーだ。
いつの間にか始まった大事な“儀式”。ただ、何も考えずに騒ぎ立てるような、無神経なタイプでは決してない。「先週は勝ったんですけど、その前に3連敗ぐらいしていた時は、『笑わす系で行こうかな?どうしようかな?』と考えていましたし、チーム状況に応じて事前に考えたり、その場でパッと出たりする時もありますね」。TPOはもちろん大事。『盛り上げること』と『ふざけること』の違いは、しっかりとわきまえている。
今シーズンのリーグ戦では、アウェイの鹿島アントラーズユース戦を除くすべての試合にメンバー入りを果たしているものの、スタメンで出たのは1試合のみ。基本的にはベンチやアップエリアで出場の機会が訪れるのを待ち侘びているのだが、そんな時でも齊名は笑顔を絶やさず、ピッチの選手たちや並んでウォーミングアップする選手たちに声を掛け続ける。
「もちろん自分も試合に出たいですよ。でも、ベンチのメンバーと一緒にワイワイしながらアップしたら、自分たちも自ずと元気になったりしますし、外がワイワイやっていたらピッチ内も生き生きとしてくると思うので、そこは意識して……はないですけど(笑)、みんなで楽しくできるように、ベンチからいっぱい声を出していますね」
84分、84分、76分、78分、85分、87分。前半戦でピッチに立った6試合は、いずれも終盤になってからの登場。先にベンチから呼ばれた“後輩”を盛り上げ、その背中を見送る自分には、最後まで出番が訪れないことも少なくないが、それでも齊名は下を向くことなく、90分間を戦い抜いた仲間を笑顔で迎える。
ピッチの選手たちへ積極的に声を掛ける齊名
「自分は試合に出られない時でも、声を出していたら自ずと自分にも自信が付いてくる感じがあるので、少し落ち込んでいる時も声を出すことで、自分を前向きにできていると思います。そもそも僕は人前で落ち込む場面はあまりなくて、みんなといる時の自分は絶好調という感じなので(笑)」
昨シーズンのある試合後のこと。川崎U-18を率いる長橋康弘監督は、まだ2年生だった齊名がチームに与える影響について、こう語っていた。「トレーニングから齊名はメチャメチャ声を出すんですよ。積極的に声を出してくれて、周囲がプレーしやすい環境まで気にしながら、いい言葉を使うんです。大人ですよね。そういう子が出てきて、トレーニング中もかなり声が多くなって、ゲーム中にも『こうやろう』というところが出てきたので、本当に良い流れになったなと思います、齊名は素晴らしいです」
今季の開幕戦の試合後。途中出場でゴールを決めた2年生の恩田裕太郎は、“先輩”が作ってくれる空気感に対して、こんな言葉を残している。「アップしている時から齊名さんとか(山本)健翔さんがいろいろなことを言ってくれるので、凄く力になりますね」。スタッフも、選手たちも、その存在の重要性は十分に理解している。
全国準優勝を味わった夏のクラブユース選手権を経て、2年ぶりのタイトル奪還を狙って挑んでいるリーグ後半戦。最初の2試合は71分に72分と、交代で投入される時間が明らかに早くなった齊名は、第15節の市立船橋高校戦で今季初スタメンに指名され、70分までボランチの一角で奮闘。以前とは立ち位置も変化してきている。
「自分は守備が課題だったんですけど、最近は相手の攻撃の芽を潰すところもできてきていますし、ボランチの間のところはパスを通させないことも結構意識してやれているので、そういうところは最近伸びていると思います」。自分の中でも確かな進化を感じていることは間違いない。
この日の相手は首位を快走する横浜FCユース。勝点差を考えても、今シーズンのキーゲームになり得る一戦。「今日も行こう!今日も行こう!1位、食っちゃおう!5、4、3、2、1!」。11人のスタメンはいつも通りの齊名の掛け声で、大事なアウェイゲームの90分間へと送り出される。
「正直、1位の相手を食ってやろうと意気込んでやってきたんですけど、前半は相手もちょっと引いてきた中で、もうちょっとボールを動かしたりできたんじゃないかなって思って見ていました」と齊名。川崎U-18は前半終了間際に先制点を献上すると、63分にも2失点目。小さくないビハインドを背負ってしまう。
68分。アップエリアの齊名を長橋監督が呼び寄せる。「『とにかく前に行け!点を獲りに行くぞ!』ということを言われましたし、負けていたので自分も『もう点を獲りに行くしかないな』と思って、出ました」。背番号6は覚悟を携えて、勝負のピッチへ飛び込む。
試合への入り方は最悪に近かった。ファーストパスを相手にかっさらわれ、直後にも自身のパスミスを起点にフィニッシュまで持ち込まれるシーンも。「自分の中では『できるだろ』と思って入ったら、最初にボールを食われたり、危ない場面を作ってしまったので、そこは自分の反省点ですし、課題だなと思いました」。とはいえ、落ち込んでなんていられない。ちょっとずつボールに触り出し、周囲を動かしながら、自分のリズムを作っていく。
横浜FCユース戦は途中出場で奮闘
78分。中盤のギャップに潜った齊名は、1年生の藤田明日翔から縦パスを受けると、シンプルに左へ展開。仕掛けた児玉昌太郎のクロスから、恩田がダイレクトボレーでボールをゴールネットへ送り届ける。1-2。諦めない川崎U-18は、もう1点を目指してアクセルを踏み込む。
84分。柴田翔太郎が左CKを入れると、混戦からこぼれてきた球体は6番の目の前に現れる。丁寧に蹴り込んだシュートはGKを破ったものの、カバーに入った相手の選手がスーパークリア。ゴールの女神は齊名に、勝利の女神は川崎U-18に、微笑まなかった。
U-12から過ごしてきたアカデミーでの時間も、確実に終わりが見え始めている。「小学生の頃は10番でキャプテンで、ちょっとみんなの“嫌われ役”だったかもしれないですね。盛り上げる系ではなくて、結構厳しく引っ張っていく感じでやっていたと思います」。日本一も経験した小学生時代を振り返りつつ、齊名は改めて今の自分が担うべき役割について、こう口にする。
「みんなおとなしくはないんですけど、イジられ待ちみたいな感じの子が多いので(笑)、自分が率先してイジっていますね。あとは良いプレーは褒めますけど、悪いプレーは指摘したりしないとチームも成長していかないので、そこは意識してやっています。今はキャプテンの(土屋)櫂大とか、引っ張っていく係の役割が決まっているので、自分はそれに付いていきながら、もっと雰囲気を盛り上げるみたいな形でやっていますね」
このチームだから、できることがある。このチームだから、やりたいことがある。残された2か月余りの時間は、もう1秒も無駄にしたくない。
「みんなとサッカーできているのが楽しいですし、自分は楽しみながらサッカーをすることで一番成長できると思っているので、今はその中で練習の雰囲気も強度高く、楽しくできているのかなって。この仲間と一緒にできるのも残り数か月なので、やっぱり試合にもっと関わりたいですし、その中でしっかり勝っていきながら、みんなで成長していきたいですね」
川崎U-18に笑顔の花を咲かせ続けてきた、チームきっての元気印。かけがえのない仲間とともに、サッカーボールを追い掛けたアカデミー生活の集大成。齊名優太は自分に求められている役割を120パーセントで果たしながら、明日のグラウンドでもみんなの背中を後押しするような声を、誰よりも大きく、誰よりも優しく、響かせていく。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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