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サッカー フットサル コラム 2024年7月2日

進化に必要なトンネルの中でもがく日々。川崎フロンターレU-18・柴田翔太郎に見えかけている成長の光 高円宮杯プレミアリーグEAST 川崎フロンターレU-18×青森山田高校マッチレビュー

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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川崎フロンターレU-18・柴田翔太郎

まだそのトンネルからは完全に抜け出せていない。でも、もがきながらも進んでいっている方向に、光は間違いなく見えている。この経験は必ず成長の糧になる。そう自分に言い聞かせて、ピッチに立ったらとにかく前へ、前へと仕掛けていく。

「これは誰にでもあることだと思っていますし、ここで折れたヤツは落ちていくと思うので、そこは冷静に『今はそういう時期だ』ということを受け止めながら、これを乗り越えた先でもっと大きな選手になれるという確信はあるので、まずは自分に目を向けて、『もっと上手くなってやろう』という情熱は忘れていないです」

川崎フロンターレU-18に大きなエネルギーをもたらす、元気印のサイドバック。柴田翔太郎はさらなる進化を遂げるために必要な過程の中で、苦しみながら、悩みながら、一歩ずつ前進していく日々を過ごしている。

「正直クラブユース予選の前の流経戦ぐらいから調子を少し落としてしまって、自分の納得するプレーができずに、練習でも少し自信をなくしながらやっていたところがあって、ちょっと良さを出し切れない危機感の中で、個人的に結構苦しい想いをしていたんです……」

5月も半ばを過ぎたころ。柴田は迷いの森の中にいた。サッカー選手としてのレベルアップを期し、以前から抱えていたウィークポイントと向き合う決意でトレーニングを重ねていると、ふとストロングポイントが消えかけている自分に気付く。

「縦に仕掛けようと思っても『ボールを失ってしまうんじゃないか』と思ったり、『ここで前に行っても、スペースを空けて失点してしまうんじゃないか』と考えたりしていました。そこに陥ってしまうと、自分でもわかっているんですけど、どうしても下を向く感じになってしまって……」。選択肢の中からどうしても消極的なものをチョイスしてしまう。

加えて世界を共に戦った仲間たちの活躍が、焦りを増幅させていく。「今まではあまり気にしていなかったんですけど、その時期はちょっと気にしてしまったところがあって、やっぱり『自分もできなきゃいけないよな』って。ワールドカップで一緒にやった選手たちが上に行っているのを見て、『負けてたまるか』という想いはあるので、その危機感は持っていますけど、自分のレベルがまだそこまで行っていないのに、そっちの方を見過ぎていたところもあったと思います」

 

U-17ワールドカップを経験した年代別代表のチームメイトが、いろいろな形で躍動している姿を知り、「自分にもできるはずだ」という想いが、ネガティブな形でピッチに現れてしまっていたという。

クラブユース選手権の関東予選を経て、6月に再開したプレミアの初戦では横浜FCユース相手に逆転負け。コンディションも上がらず、スタメン落ちも覚悟した次のリーグ戦の尚志高校戦だったが、チームを率いる長橋康弘監督は柴田を変わらず先発メンバーに指名する。

「正直『スタメンを外れるかな……』と思っていたんですけど、ヤスさん(長橋監督)が信頼して使ってくれたからにはもうピッチでやるしかなかったので、今の自分を受け入れて、『オレは下手なんだ』と思いながらやることで、吹っ切れてやろうと思って臨みました」

厳しいアウェイゲームは1-0で粘り勝ち。林駿佑が挙げた虎の子の1点を、CKからアシストしたのが2番のサイドバックだった。「尚志戦で『自分にできることを思い切りやろう』『もう1回自分の良さをしっかり出そう』というところに立ち返って、結果的にアシストすることができたんです」。ポジティブな要素も手にしながら、青森山田高校と対峙するホームゲームに挑む。

相手の特徴はハッキリしている。ディフェンディングチャンピオンでもあり、昨シーズンは優勝争いのキーゲームで敗れた因縁のライバル。「今日は山田という相手だったので、もうわかりやすくやってやろうという気持ちでしたし、こういうビッグゲームは自分も燃えるので、この1週間はずっと『点を獲ってやろう』と思っていました」。柴田は並々ならぬ意気込みで、この日の90分間に足を踏み入れる。

スコアレスで迎えた後半17分。左サイドを綺麗に崩し、矢越幹都のゴールで先制した川崎U-18は、攻撃の手を緩めない。その9分後。ここも左サイドからのアタックを起点に、右サイドへ抜けてくるボールに反応した2番は、積極的なプレーを選択する。

「『足を振ってやろう』と思ったら、結果としてゴールに繋がったので、あとは恩田に感謝したいです。枠には入っていなかったですね(笑)」。思い切りよく放ったシュートは枠を外れていたが、恩田裕太郎が高い技術でプッシュしたボールはゴールネットを揺らす。終盤に1点を返されたものの、ファイナルスコアは2-1。試合終盤はサイドハーフに入りながらフル出場を果たした柴田は、2試合連続となるアシストでチームの勝利の一翼を確かに担ってみせた。

指揮官には小さくない感謝を覚えている。「ヤスさんも現役時代はサイドバックで、自分と重なるところがあって、僕はヤスさんほど上手くないですけど(笑)、全然うまく行っていない時期でも、厳しく言い続けてくれたので、そこは自分の中でも感謝しなくてはいけないなって。早くヤスさんが要求していることをできるようなレベルの選手になって、もっともっと自分の良さを出していきたいなと思います」

目標に迫るペースで、確実に数字は伸びてきた。「今年の最初に『5ゴール10アシスト』という目標を掲げた中で、去年より速いペースでアシスト数が伸びていて、クラブユースを入れたら7アシストしているんですけど、サイドバックとして結果を残せるというのは自信を持ってやっていきつつも、まだまだ自分はレベルアップしないといけないですし、しっかり足元を見つめてやっていきたいですね」。持ち続けるべきは謙虚な自信。そんなことも、もう柴田はとっくにわかっている。

まだそのトンネルからは完全に抜け出せていない。でも、もがきながらも進んでいっている方向に、光は間違いなく見えている。このフロンターレのアカデミーで過ごす最後の1年。改めて口にした決意が力強く響く。

「自分はここに来させてもらって、ワールドカップという舞台まで経験させてもらって、本当に大きく成長させてもらったので、だからこそ最後の1年でこのチームに何かを残したいんです。しっかり活躍してコーチたちに恩返ししたいと思っていますし、フロンターレのアカデミー出身者としてプロで活躍するという目標も持っているので、ここからの半年も、まずは大好きなみんなとプレーするサッカーを楽しんで、プレミアのファイナルまで行きたいなと思います」

この経験は必ず成長の糧になる。そう自分を信じて、そう自分に言い聞かせて、ピッチに立ったらとにかく前へ、前へと仕掛けていく。川崎U-18のアグレッシブなサイドバック。その持てる実力を柴田翔太郎がしなやかに、逞しく解き放つ時は、もうすぐそこまで迫っている。

 

文:土屋雅史

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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