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サッカー フットサル コラム 2024年4月22日

火を噴いた青森山田のロングスロー攻撃。相手チームのロングスロー対策の進化も見どころの一つ

後藤健生コラム by 後藤 健生
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高校生年代の日本一を決める高円宮杯U-18プレミアリーグは4月6日に開幕。東地区(EAST)で第1節に昌平高校、第2節に尚志高校と高校の強豪を相手に2連勝して2位に着けていた横浜FCユースが、4月20日に行われた第3節では青森山田高校と対戦した。

青森山田は昨年12月に高円宮杯プレミアリーグファイナル(東西両地区優勝チーム同士の対戦)でサンフレッチェ広島ユースを破って日本一となり、さらに今年1月の全国高校サッカー選手権も制した高校サッカー界の「絶対王者」である。

その青森山田相手との試合でも前半は横浜FCが試合を完全に支配して、いくつものチャンスを作った。だが、青森山田の堅い守備の前に得点することができず、逆に80分過ぎに青森山田の最大の武器であるロングスローから失点して初黒星を喫した。

横浜FCの最大の魅力は庄司啓太郎と前田勘太朗のツートップだ。

庄司は2006年生まれの17歳、前田は2007年生まれの16歳だが、この試合前日の4月19日にはクラブからMFの高橋友矢とともにトップチーム登録(第2種)が発表された。つまり、第2種チーム(横浜FCユース)に所属しながら、J2リーグで戦っているトップチームの公式戦にも出場できることになったのだ。

庄司と前田の魅力は、トップでボールを受けてすぐに反転して前を向けるところ。

青森山田との試合でも9分にはMF中台翔太からのくさびのパスを受けた庄司がすぐにターンしてシュートにつなげた(青森山田のGK磯村颯がセーブ)。また、17分には右サイドを中台がドリブル突破してからワンタッチでパスをつなぎ、トップ登録されたMFの高橋からスルーパスを受けた前田がすぐに前を向いてゴールを狙ったが、シュートはゴールポストを直撃した。

さらにハーフウェーライン付近でボールを受けた庄司がターンして、スペースに走り込む前田にパスを出して決定機を作る場面が26分、28分と連続してあった。2人のストライカー同士のコンビネーションも非常に良かったのだ。

こうして、前半は横浜FCが青森山田を圧倒した。青森山田も右サイドからの攻撃を何回か試みたが、決定機はつかめなかった。

青森山田は、もちろん前半にもチームの代名詞とも言えるロングスローを再三試みた。今年のチームのスロアーは左サイドバックの小沼蒼珠だ。しかし、前半だけでなんと7回ものロングスローを試みたものの、横浜FCは長身のセンターバックが確実にヘディングでクリアしてロングスローからの攻撃をシャットアウトした。

こうして、内容的には圧倒しながらも青森山田の堅守の前に横浜FCはスコアレスのまま折り返す。すると、後半に入ると試合の流れが次第に変わっていった。

この日の関東地方は朝からの好天で気温がかなり上がった。公式記録では23.1度となっているが、日差しの下のピッチではさらに暑さが厳しかったことだろう。しかも、選手たちの体はまだ暑さに慣れていない時期だ。

そんな暑さの中でのプレーで疲労がたまったせいか、横浜FCのワンタッチ、ツータッチのパスの精度が次第に落ちていったのだ。

また、前半45分の経験から青森山田の選手たちは横浜FCの攻撃パターンに慣れてきたようで、パスを通すスペースも生まれなくなっていった。それも、試合の流れが変わった原因だ。

庄司も前田も素晴らしいストライカーだが、タイプとしては似たタイプだった。そのため攻撃のバリエーションが少なかったようだ。

横浜は、前半から右サイドハーフの中台や右サイドバックの松尾蒼大といったドリブラーを使った攻撃もしかけていた。さらに試合終盤になると左サイドバックの佃颯太も巧みなドルブルを見せるようになったし、交代出場した15歳の四日裕歩も非常にテクニカルなドリブルができる選手だった。

庄司と前田のツートップの間の関係に、こうしたドリブラーを使った攻撃をうまく絡ませることができれば、横浜FCの攻撃は大幅に多彩さを増すと思うのだが、これは今後の課題になってくるのだろう。

そして、後半に入ると青森山田のカウンターが横浜FCを脅かす場面も多くなり、また、前半は青森山田のロングスロー攻撃を見事に跳ね返していた横浜FCだったが、次第にロングスローからチャンスを作られるようになってくる。

これは、ヘディングの競り合いを繰り返すことによる疲労の蓄積のせいでもあったし、同時に青森山田がロングスローを落とす場所などに工夫を加えたようにも見えた。相手DFがヘディングを競ろうとするより手前にボールを落とすことで混戦を作ろうとしたのだ。

そして、82分の右からのスローインのボールがゴール前の混戦を抜けてファーサイドに流れたところを大沢悠真が強烈に決めて青森山田が先制。その後の横浜FCの攻撃をシャットアウトして勝利を手繰り寄せたのだ。

公式記録によれば青森山田には90分間で4本のCKがあった(横浜FCのCKは7本)。

だが、小沼が投げ入れるロングスローはかなりの急速でゴール前まで飛ぶのでCKと同じくらいの脅威を与えることができる。つまり、ロングスローが15回あったとすれば、それはCKが20回あったのと同じということになる。

CKが20回あったとすれば、そこから1ゴールくらい生まれるのは普通のことだろう。

青森山田は、黒田剛監督(現、FC町田ゼルビア監督)の時代からロングスローを多用することで知られており、一部からは批判も受けていた。

監督が現在の正木昌宣監督に交代してからも、やはりロングスローは青森山田の武器であり続けている。いや、黒田監督時代よりもさらにロングスローの重要度は増しているのかもしれない。横浜FC戦では、徹底してローグスローを使ってきた(カウンター攻撃なども、最終的にはスローインを取るための攻撃のようにも見えた)。

ロングスローという攻撃方法は、たしかにルールで許されているのだから合法的なものであることに間違いない。だから、それで勝負するという考え方も理解はできる。

だが、サッカーの本質と言うのは、技術と戦術、創造力を使って相手の守備を崩してゴールを陥れるところにあるはず。

手を使ってボールを投げ入れるスローインというのは、本来はボールがタッチラインを割った時に試合を再開する方法なのであって、それを使うことが攻撃の主体というのはやはり行き過ぎ。もう少し強い言葉で言うなら「邪道」なのではないか。

青森山田高校には素晴らしいテクニックを持った選手もおり、チームプレーに徹する規律も身に着けている。それなら、なにもロングスローなどという奇策を使わなくても試合に勝つことができるのではないか。もっと、サッカーの本質を極めるためのトレーニングをした方が選手の成長につながるようにも思える。

だが、現実として青森山田はロングスローという方法を使って勝利の確立を少しで高めようとしてくる。この青森山田を倒すために、対戦相手としては難しい特別な対策を講じなければならなくなってくる。そして、それは必ずしも無駄なことではない。

青森山田のように堅守を徹底し、ロングスローという特殊な武器を使ってくる相手に対して、「対策」を練って戦うことは対戦相手にとってはある種の経験になるのかもしれないからだ。

たとえば、1月にカタールで開かれたアジアカップで日本代表は準々決勝敗退に終わり、「ロングボールに弱い」という批判を浴びた。ユース時代から青森山田のロングスロー対策を徹底する経験を積んでいけば、日本人選手もロングスローやロングボールを跳ね返す技術を身に着けることができる。

青森山田のロングスローの進化と、相手チームのロングスロー対策の進化というのも、プレミアリーグEASTの見どころの一つなのかもしれない。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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