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昨年のJ2リーグで優勝してJ1初昇格を果たしたFC町田ゼルビアが、今シーズンはJ1リーグで開幕から無敗の快進撃を続けてきた。
町田は昨年のJ2リーグでは勝点87で、2位のジュビロ磐田に12ポイント差で圧勝しただけに実力は高く評価されていた。ただ、守備重視でカウンターやロングスローからの得点を狙う戦い方や、時間稼ぎも厭わない“勝利至上主義”については賛否両論があり、そのサッカーがJ1でも通用するのかについて疑問の声もあった。
だが、資金力が豊富な町田は戦力補強も順調だったためか、昨年ほど極端な守備偏重でもなく、しかし、勝負強さは失わず、1点差の接戦をものにして首位に立っていた。
大相撲3月場所(春場所)では、新入幕の尊富士(たけるふじ)が幕内最高優勝を遂げた。新入幕力士が幕内優勝を遂げるのは1914(大正13)年5月場所の両国以来、110年ぶりの快挙だったという(「110年」とは。さすがに伝統を誇る大相撲だ)。
いずれにしても、もし町田がこのまま突っ走って優勝を遂げたとしたら、これは尊富士並みの快挙ということになる。
J1昇格即優勝という記録は、2011年の柏レイソルと2018年のガンバ大阪の2クラブが達成しているが、柏もG大阪ももともとJリーグの強豪クラブだ。たまたま、J2に降格してJ1に復帰しての優勝だった。だが、町田は今シーズン初めてJ1に昇格したのだ。
ただ、Jリーグと大相撲では優勝の仕組みがまったく違う。
大相撲では、幕内といってもすべての力士が他のすべての力士と対戦するわけではない。平幕下位の力士は普通なら横綱や大関とは対戦しないのだ。
だから、たまたま横綱が休場したり、大関が不振で星のつぶし合いをしている中で平幕力士が突っ走ると首位に立ってしまうのだ。
終盤戦で平幕下位の力士が大関と対戦することもあるが、下位力士は上位すべてと当たるわけではない。実際、3月場所で優勝した尊富士は4大関のうち2人としか顔を合わせなかった。
だが、Jリーグでは(というか大相撲以外のスポーツのリーグ戦では)同じディビジョンのチームすべてと総当たり戦を行うことになっている。Jリーグではホーム&アウェーで各チームと2試合を行うし、プロ野球では各リーグの6球団は同じリーグ所属の5球団と各25試合ずつを戦い、その他、他のリーグとの「交流戦」を含めた成績で順位を決定する。
つまり、町田は初昇格クラブではあっても、大相撲とは違って大関とも横綱とも戦わなければならないのだ。
大相撲の現在唯一の横綱、照ノ富士はケガがちで休場を繰り返しており、4大関も安定感に欠ける。だから、最近は平幕優勝が多発するのだ。
Jリーグも現在は横綱不在だ。3、4年前までは川崎フロンターレと横浜F・マリノスが“横綱”だったが、現在は両チームにも絶対の力はない。
昨年優勝のヴィッセル神戸や2022年に優勝して昨年も準優勝だった横浜F・マリノス、そして2年連続3位のサンフレッチェ広島が“大関格”と言っていいだろう。
尊富士とは違って、“新入幕”の町田もこうした“大関格”と戦わなければならないのだ。
前置きが長くなったが、町田にとって最初の“大関戦”が4月3日に実現した。
町田対広島の試合だった。町田の強さは本物なのか? 尊富士のような新入幕初優勝を成し遂げる可能性はあるのか? それを占う注目の一戦だった。
そして、試合は2対1と言う最小得点差ながら、内容的には広島の完勝に終わった。
両チームとも3−4−3のシステムで、守備では狙いを持って相手ボールを奪って、カウンターにつなげるというコンセプトも共通している。
それだけに、完成度とかパス精度といったところでの広島との顕著な差が明らかになったようだ。
町田は昨年はJ2リーグで戦っていたチームであり、新加入選手も多いので、開幕直後の現段階では、まだ完成度が低いのは致し方ない。一方の広島は代表クラスも含めてずっとJ1リーグで戦ってきた選手たちであり、ミヒャエル・スキッベ監督も今年で3シーズ目。チームのコンセプトは全員にいきわたっている。
好調同士らしく、序盤戦は雨の降り続く中でもワンタッチ、ツータッチのパスが速いテンポで回る好ゲームだった。だが、次第に広島の一歩目の動き出しが速くなったため、広島はセカンドボールを拾ってパスを回して攻撃を繰り返し、町田は守備に追われるようになっていった。
広島は序盤戦に3人のDFの中央にいた荒木隼人が負傷して交代を余儀なくされ、それまでウィングバックの位置にいた中野就斗がDFに入ったが、無難にこなしただけでなく、正確なロングパスを前線につけて攻撃面でも貢献できていた。
そして、31分には中盤で相手のワントップ、呉世勲(オ・セフン)からボールを奪うと、左ウィングバックの東俊希、シャドーストライカーの満田誠と素早くパスが回り、最後は大橋祐紀が決めて広島が先制。
その後も、広島がゲームを支配し続け、51分にはゴール前で細かなパスがをつながり、最後は松本泰志のパスを受けたDF佐々木翔が倒される。そして、VARの結果、広島にPKが与えらて2点差となった(得点は満田誠)。
82分に町田の武器であるロングスローからオウンゴールが生まれて、広島がちょっと慌てる場面もあったが、80分までは完全に広島が支配したゲームだった。
ところで、この試合、広島の直接FKは合計20本を数えた。それだけ、町田のファウルが多かったのだ(PKもあった)。
もちろん、相手に大きな決定機が生まれようとしている場合なら、ファウルで止める選択肢もあるだろう。だが、町田の場合はそれほど危険とは思えない場面でも、簡単にファウルで止めてしまう。
警告のイエローカードも4枚に提示された。
4枚目は呉世勲に対するもので、「繰り返し違反」によるものだった。一発でカードという反則でなく、再三、反則を繰り返したためだ。そういうプレーが嫌いな主審だったら、カードの枚数はさらに増えた可能性がある。
そこで、過去の試合の公式記録もちょっと調べてみた。Jリーグの公式記録では反則数は書いてないので、相手チームの直接FKの数に注目したのだが、第2節で名古屋グランパスを1対0で下した試合でも町田は相手に22回のFKを与えているし、1試合平均でも15回以上の反則を犯している。
反則で相手を止めれば直接FKもしくはPKが相手に与えられるし、カードももらうことになる。そして、反則のたびにゲームが中断されるのでアクチュアル・プレーイング・タイムも少なくなる。当然、ケガのリスクも高くなる。
反則を繰り返すことは、自分たちのためにもならない。どうやら今年も、町田のアンチフットボール的なサッカーに対しては警鐘を鳴らし続けないといけないようである。
いずれにしても“大関格”の広島に完敗した町田。4月13日には東京・国立競技場でやはり“大関格”の神戸との対戦が待っている。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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