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東京ヴェルディの城福浩監督は、熱い指揮官だ。
試合後の記者会見でも目を真っ赤に充血させ、声を枯らしながら対応する。とくに敗戦後は思いつめた表情で、おかしな質問をしたら城福監督の頭の中の血管が一気に破裂してしまうのではないかと、僕たち記者団は噂している。
その城福監督が(もちろん熱い口ぶりでではあるが)、冷静に、またきわめて分かりやすく試合の状況を語った。
東京Vは、昨シーズンのJ1昇格プレーオフを勝ち抜いて16年ぶりの昇格を成し遂げた。しかし、Jリーグ発足の頃のように財政力が豊かではない東京V。戦力的には厳しい状態でありながら、城福監督の下で志の高いサッカーを目指しながら戦っている。
開幕戦では、東京・国立競技場で1993年のJリーグ開幕の時のカードを再現した横浜F・マリノスとの試合が組まれ、東京Vは1点をリードしながら、89分と90+3分に連続失点して逆転負け。第2節では浦和レッズ相手にやはり終盤まで1点リードで迎えながら、89分の失点で引き分け。第3節でも、セレッソ大阪とのアウェーゲームで、同点で迎えた90+3分に失点して2敗目を喫した。
終盤まで持ちこたえながら耐えきれない試合が続いていたのである。
そして、3月16日の第4節アルビレックス新潟戦でも、前半にU-23日本代表にも招集された山田楓喜のFKで先制したものの、前半のうちの追いつかれ、さらに69分にもDF間のパスミスを拾われて逆転ゴールを決められてしまう。
ところが、新潟戦90分に右からのクロスを翁長聖が決めて、土壇場で追いついて2対2の引き分けに持ち込んだ。それまでとは、逆のパターンの引き分けだ。
そして、中断期間の第5節の京都サンガFC戦(3月29日)では、前半は良いところがない展開で2点を奪われたものの、後半の途中からは攻勢を取り続け、80分に染野唯月のPKで1点差に迫ると、さらに90+3分には右からのクロスを再び染野が決めて2点差を追いついて、2試合連続、終了間際の得点で勝点1をゲットするという劇的な試合を繰り広げた。
同じ引き分けでも、追いつかれたチーム、(とえば2点のリードを追いつかれた京都)にとっては勝点2を失うショッキングな引き分けだが、追いついた東京Vにとってはチームの士気を上げる貴重な勝点1ということになる。
だが、冷静に考えてみれば、プラン通りに試合に入って先行する方がゲームの流れとしては良いはずだ。2点差を追いつけたのは素晴らしいが、多分に相手のミスに助けられたものでもあり、サポーターにとって気持ちの良い同点弾だったかもしれないが、試合としてはけっして褒められた展開ではない。
そんなことは、63歳の大ベテランである城福監督が承知でないわけはない。だが、それでも城福監督が冷静に、いやポジティブに試合を振り返ることができたのには、ただ単に2点のビハインドを追いついたという事実以上の理由があったのではないだろうか。
京都との試合、前半の東京Vはパスをつなぐことがまったくできなかった。京都の攻撃をしのいでも、奪ったボールを味方につなぐことができず、クリアするのが精一杯。そして、セカンドボールを拾われて京都の攻撃を受け続けることになった。
そして、22分にはロングボールを胸で収めた豊川雄太にドライブをかけたスーパーゴールを決められ、その2分後には原大智に抜け出されて連続ゴールを許してしまった(“偽の9番”的ポジションに入った原は効率的にボールを収めて京都の攻撃に貢献した)。
互いにロングボールを蹴り合う中で、東京Vはキックの正確性でも、プレスの強さでも、守備の強固さでも、すべて下回ってしまった。
しかし、前半の東京Vは「パスをつなげなかった」のではなかった。最初から「パスをつなぐことを敢えて放棄して、京都に挑まれたバトルに受けて立たった」のだ。
城福監督によれば、90分にわたってパスをつないで勝負することは若いメンバーでは難しいというのだ。後半には運動量で上回る自信はある。だから、互いにインテンシティーの高い前半のうちは戦えるメンバーを揃えて戦い、後半に入ってからは中盤でパスをつなぐ、本来目指しているサッカーに切り替える……。それが、ゲームプランだったのだ。
ただ、プラン通りにいかなかったのは、前半のプレッシングの掛け合いの中で京都の圧力に押されてゴール前に釘付けとされ、また、相手のプレッシャーの強さのためロングボールを正確に蹴れず、ボールを支配され続けて2点を失ってしまったことだった。
2点のビハインドを追う後半は、東京Vはメンバーも入れ替えて、中盤でパスをつなぎ、ポジションを入れ替えながら選手たちが次々とスペースに顔を出す攻撃に切り替えた。
「その分、前線で人数が足りなくなるというリスクがある」と城福監督。
だが、このコンセプトのチェンジが功を奏して、60分を過ぎるころからは東京Vが京都の守備を切り崩し、前半とは打って変わって京都をゴール前にくぎ付けにした。
そして、78分に交代で入った山見大登がドリブルで仕掛けてPKをゲットして1点差とすると、最後は左サイドのスローインから稲見哲行が入れたロングボールを綱島悠斗が頭でつなぎ、齋藤功佑が中を見てグラウンダーのクロスを入れ、相手の背後を取った染野が決めて同点に追いついた。
つまり、前半の2失点という想定外の出来事はあったものの「前半は戦えるメンバーでバトルをして、後半に入ってパスをつなぐ攻撃サッカーに切り替える」というのは城福監督のプラン通りの展開だったのだ。
新潟戦、京都戦と、後半になって攻撃力を挙げて土壇場で追いつくという展開は(失点の部分は想定外としても)、大枠としては監督の想定通りの展開だった。だから、城福監督は記者会見の席でも、余裕を持って試合を振り返ることができたのだろう。
ただ、5試合を終えて、東京Vは0勝3分2敗。依然として勝利がなく、17位と降格圏ぎりぎりのところにいる。
前半、パスをつなげないのを覚悟のうえでバトルを展開する中で失点を最小限に防ぐこと。あるいは、全体としては守備的な戦いをするにしても前半のうちから攻撃の形をより多く作ること。そして、後半だけでなく、前半のうちからもっとパスをつなぐサッカーを出来るようにすること……。
そして、最終的には2つの戦い方をはっきり区別するのではなく、同じメンバーでも試合の展開によって切り替えながら90分を通して戦えるようにする。
結果は出ていないが、東京Vにとって「課題」は明らかだし、試合を積み重ね、経験を積むほどに、若い選手たちは試合の進め方を覚えていくはずだ。
結果が出ていないことで動揺することなく、今の戦いを続けていけば、間違いなくチーム力は上がっていくはず。90分間ハードワークを惜しむことなく戦い、そして、リスクを取りながらもしっかりとパスをつないで攻める。そういう志の高いサッカーを、これからも迷うことなく続けていってほしいものである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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