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サッカー フットサル コラム 2024年3月26日

スペインサッカー界の《昭和》を生きた巨星ルイス・デ・ロペラが逝く

木村浩嗣コラム by 木村浩嗣
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ホアキンと国王杯のトロフィーを持つルイス・デ・ロペラ(左)

ホアキンと国王杯のトロフィーを持つルイス・デ・ロペラ(左)

ベティスの元会長マヌエル・ルイス・デ・ロペラが亡くなった。79歳だった。「サッカークラブの会長が男のロマンだった時代」の生き残りがまた一人、消えていったことになる。

男として生まれたからには大好きなクラブの会長になり、好きな選手を集めて好きなチームを作り好きなイレブンを選んで戦わせてみたいーーなんて夢見た時代である。独善的で猥雑で下品で男尊女卑的で政治的に正しくなく、コンプライアンスなんて概念すら存在しなかった時代。ちょうど今の日本で言う「昭和」に似ている時代が、スペインサッカー界には20年ほど前まではあった。

オールドファンならベティスの本拠地ベニート・ビジャマリンが、この会長の名で呼ばれていた時代(1997‐2010)を覚えているかもしれない。100年以上の歴史あるクラブのホームグラウンドに自分で自分の名を冠して胸を張る、というエゴセントリックな行為こそが、この時代の男を象徴している。この点で、例えばレアル・マドリーの本拠地サンティアゴ・ベルナベウとは大違い。あれも名会長の名前だが、名付けたのは業績を讃えた後生である。

私がスペインに行ったのは94年なので、ギリギリあの猥雑な時代を生きることができた。

ルイス・デ・ロペラとともに、故ヘスス・ヒルがアトレティコ・マドリーを、故ラモン・メンドサとフェルナンド・サンツがレアル・マドリーを、故ホセ・ルイス・ニュネスとジョアン・ガスパールがバルセロナを、ホセ・マリア・デルニドがセビージャを、アウグスト・セサール・レンドイロがデポルティーボ・デ・ラ・コルーニャを率いていた。

彼らはみな熱狂的なそのクラブのファンで、得点や勝利には大喜びでガッツポーズ。ファンの熱いハートを代表する存在で、下手な選手よりもカリスマ的な人気があった。ダービーに勝った夜には「ざまあみろ」程度のことは言ってくれるので、メディアからも引っ張りだこだった。

トップがこんな風なのでライバル意識が極限まで高まっていた時代だった。

会長たちに寵愛され資金援助を受けたフーリガンが試合前後のスタジアム周辺で衝突し、警官隊と三つ巴の市街戦を繰り広げた。ルイス・デ・ロペラのベティスとデル・ニドのセビージャのダービーは荒れに荒れ、暴力事件がお茶の間に生中継され全世界に恥もさらした。

経営も滅茶苦茶だった。

それぞれ一代で財を成した人物なのだが、彼らはビジネスマンというよりも、地元のドンだった。愛するクラブのために手段を選ばない集金術はかなり怪しく、わいろや癒着、汚職の臭いがぷんぷん。ポケットマネーとクラブ予算の区別が付いていない公私混同状態。折しも放映権料バブルで大金を見境なくスター獲得に投入した。

ルイス・デ・ロペラもブラジル代表のデニウソンを当時の世界最高の契約金額で獲得した。スペインの地方都市のいちクラブが「世界最高」なんてあり得ないが、「オレのベティスが世界的中の話題になることが第一」であって、収支バランスとか中長期的な経営プランなんてものには目もくれなかった。

放漫経営のツケはいつか回ってくる。狂った祝祭はいつか終わる。だが、それまでは「踊りゃなソンソン」という、熱狂と退廃が入り混じった空気感。この点も「昭和」や「バブル」と似ている。

新世紀に入りサッカーがショービジネスとして語られるようになると、こうしたドン(首領)たちは急速に居場所を失っていった。分業化が進み、会長は金儲けに専念するビジネスマンとなり、補強はスポーツディレクターの担当となり、監督は現場の最高責任者となり、選手は値札付きで取引される資産と化した。会長は人当たりの良い平和主義者となって、VIP席は行儀良く振る舞う場となって、フーリガンが追放されたスタジアムは健全で安全な場となった。バルセロナの現会長ジョアン・ラポルタ、レアル・マドリーの同フロレンティーノ・ペレスは、そんな新世代の旗手である。

サッカーは確実に良い方向に進んでいる。が、時どき昭和を振り返るたくなるように、ルイス・デ・ロペラがいたあの時代を想うのだ。

文:木村浩嗣

木村浩嗣

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペインに拠点を移し特派員兼編集長に。15年編集長を辞し指導を再開。スペインサッカーを追いつつセビージャ市王者となった少年チームを率いた。現在はグラナダ在住で映画評の執筆も。

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