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AFCチャンピオンズリーグ(AFC)準々決勝で横浜F・マリノスが中国の山東泰山を破って準決勝進出を決めた。
横浜FMは、山東泰山とは昨年のグループステージでも顔を合わせており、3月13日の対戦は今シーズン4度目の対戦。そして、横浜FMが4連勝を飾った。
日本に対して激しい対抗心を燃やす韓国人の崔康熙(チェ・ガンヒ)監督にとっては、非常に悔しい結果となった。中国人記者からも「横浜FMに4連敗したが……」という質問が出たが、「4連敗」の部分については言葉を濁していた。
とはいえ、準々決勝セカンドレグは横浜にとっては非常に厳しいゲームとなった。
試合開始直後、横浜FMは非常に良い入り方をした。
最終ラインから中盤を経由してボールを運び、また、サイドハーフとサイドバックの連携も良く、再三チャンスをつかんだ。前線からのプレッシャーも効果的で、ボールを奪われてもすぐに回収してアップテンポの攻撃を展開した。だが、6分の植中朝日のシュートは山東のGK王大雷の正面を突き、15分のチャンスではエウベルがシュートをふかしてしまい、さらに16分にはヤン・マテウスのボレーも浮いてしまった。
こうして、横浜FMがチャンスを生かせないでいると、次第に山東もパスがつなぎはじめる。そして、ロングボールが次第に効果を発揮。横浜FMは自陣に押し込まれてしまう。
19分にフェルナンディーニョのクロスを彭欣力がシュートしたのをきっかけに山東の攻撃陣がシュートを浴びせかけてくる。32分には右CKからのボールを劉洋がヘディングで狙ったシュートはクロスバーをかすめ、GKのポープ・ウィリアムが辛うじてブロックする場面も何度もあった。
そして、前半終了間際にはヤン・マテウスが負傷して宮市亮との交代を余儀なくされる。
さらに、後半がはじまってすぐに永戸勝也が2度目のイエローカードを受けて退場となり、横浜FMはますます苦しい立場に追い込まれてしまった……と、誰もが思った。
現在の横浜FMの問題点の一つは、攻撃がなかなか得点に結びつかないところだ。
アンジェ・ポステコグルー監督(現、トッテナム監督)の時代にはパスをつないでサイド攻撃を展開し、逆サイドからの選手が決める形が機能して大量のゴールを生み出していた横浜FM。攻撃的なサッカーを継続するために、後継者としてオーストラリア人指導者を招聘し、今シーズンからはセルティックでポステコグルーのアシスタントを務めたハリー・キューウェルを監督に迎えた。
キューウェル監督は中盤のMFを逆三角形に並べる形を採用して攻撃力アップを図っているが、まだ、攻撃が十分に機能しているとはいえないのが現状だ。
全盛期と比べて大きな違いとなっているのは、トップ下でフィニッシュの段階を担当するプレーメーカーの存在だ。当時、横浜FMの攻撃を組み立てていたマルコス・ジュニオールのような選手が存在しないのだ。
もちろん、マルコス・ジュニオールのような古典的なプレーメーカーは、現代のサッカーでは少なくなっている。だが、そうした選手がいないため、アンデルソン・ロペス、エウベル、ヤン・マテウスという強力なブラジル人アタッカーも十分に連携ができず、「個の力」に頼ることになってしまい、CFのアンデルソン・ロペスが中盤に下がってプレーを組み立てざるを得なくなってしまう。
今シーズンは、渡辺皓太が2列目に上がり、天野純や植中朝日、南泰熙(ナム・テヒ)などと組んでいるが、渡辺はやはりボランチ・タイプの選手だ。そうなると天野や植中に期待が集まるのだが、マルコス・ジュニオールのような役割は期待できそうもない。
さて、永戸が退場となった横浜FMは永戸が入っていた左サイドバックの位置に渡辺泰基を投入した。
ただし、選手交代は永戸の退場から5分以上が経過していた。渡辺は先に準備を終えていたのだが、前半のうちにヤン・マテウスを交代させていたため、ここで交代を使うと交代回数が残り1回になってしまう。そこで、キューウェル監督は山根陸も同時に交代させることにしたのだ。
エウベルと植中が退き、喜田拓也を中心に左に渡辺皓、右に山根の3人がボランチに入り、前線はにアンデルソン・ロペスと宮市亮のツートップの形となった。
数的優位に立った山東は、当然さらに攻勢を強める。
ただ、ラウンド16の川崎フロンターレ戦で驚異的な攻撃力を発揮していたクリザンが不調だったこともあり、山東はなかなかシュートを枠内に飛ばせない。クリザンは1週間前に行われた横浜FMとのファーストレグでは欠場しており、本調子とは程遠かったのだろう。
そして、一方的に押し込まれたかに見えた横浜FMは、カウンターからビッグチャンスを何度か作ることに成功した。
52分にはGKのポープ・ウィリアムからのボールを受けたアンデルソン・ロペスがフリーで抜け出してシュートし(王大雷が足でブロック)、その2分後にも前線で宮市がつないでアンデルソン・ロペスが再びフリーで抜け出して枠内にシュート(王大雷が触ってCK)。65分には、オフサイドを取られたものの、右サイドバックの松原健からのボールで宮市が抜け出す場面もあった。
そして、数的優位に立ちながら得点できない山東の選手たちには次第に疲労の色と苛立ちが目立ち始め、選手同士でやり合う場面も出てきた。
そして、迎えた75分、右サイドで松原から宮市につながり、宮市が落ち着いて戻したボールに山根がからみ、山根のクロスをファーサイドで待っていたアンデルソン・ロペスがボレーシュートを決めて横浜FMがリードを奪って、勝利に大きく近づいた。
11人で戦っていた時には攻撃が十分に機能しなかった横浜FM。あのまま11人同士で戦っていたら敗れていた可能性も高いだろう。だが、1人減ったことでカウンターに徹したことが勝利につながった。
横浜FMには、せっかく前線に俊足アタッカーが揃っているのだから、Jリーグでの戦いでもこうしたカウンターの形は使えるのではないだろうか?
もちろん、山東には攻撃に出た時にDFラインの裏やサイドに大きなスペースを作ってしまうという悪い癖がある。しかも、ファーストレグで敗れていた山東はゴールを決められなければ敗退となってしまうために、攻撃の意識が非常に高くなっていた。
Jリーグのクラブは相手のカウンターに対してもしっかりと対策を講じてくるから、Jリーグでは山東戦のように簡単にカウンターが決まることはないだろう。しかし、試合の流れによっては、あるいは相手の守備陣が消耗した後半には俊足アタッカーを生かすカウンターの形をトライしてみる価値はあるのではないか。
永戸の退場が思わぬ効果を発揮して、横浜FMは準決勝進出以上のものを手にしたのかもしれない。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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