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日本女子代表(なでしこジャパン)が、アジア最終予選で北朝鮮を破ってパリ・オリンピック出場を決めた。
2月28日に東京・国立競技場で行われた第2戦でも北朝鮮が激しいプレッシャーをかけてきたため、日本の攻撃陣はなかなかボールを収めることができずに苦しんだが、それでも長谷川唯と長野風花が組んだ中盤でパスを回して試合を優位に進めた日本は、前半のうちにFKからのこぼれ球をDFの高橋はなが決めて先制。後半は1点を追う北朝鮮の猛攻を受けたが、しっかりと跳ね返し、右サイドでウィングバックの清水梨紗が相手DFをかわして持ち込んで上げたクロスに藤野あおばが頭で合わせて2点目をゲット。
北朝鮮の反撃を1ゴールに抑えて逃げ切った。
北朝鮮は強いチームだった。
激しさと運動量は歴史的にこの国のサッカーの持ち味だが、ラフプレーはせずに、正当なプレーぶりだったことは好感が持てた。また、コンタクトの強さは攻撃面でも発揮され、日本の選手がプレスをかけにいっても、正確な技術でそれをかわしてパスをつないで正確なロングボールを使って効果的に攻めた。
日本のホームゲームでは、90分を通して見れば間違いなく日本がコントロールしており、2対1の勝利は必然の結果だったが、2月24日に中立地のジッダ(サウジアラビア)で行われた第1戦では日本は終始、北朝鮮の分厚い守備を攻めあぐね、セカンドボールを奪われる事も多く、日本チームにとってはスコアレスドローに終わったことが幸運だった。そんな試だった。
第2戦でも、日本のGK山下杏也加がゴールライン上でかき出したピンチもあり、どちらに転んでも分からないような試合だった。
そんな中で効果的だったのは、第1戦ではフォーバックで戦った日本が、東京での第2戦では熊谷紗希を最終ライン中央に入れてスリーバックに変更したことだった。
スリーバックのメリットはいくつかあった。
北朝鮮と同じシステムを採用することによってマークがつかみやすくなったこと。遠藤純などの負傷欠場によって左サイドバックが人材難となり、第1戦ではセンターバックが本職の古賀塔子を起用したが、スリーバックにすることによってウィンガー・タイプの北川ひかるをウィングバックのポジションで使うことができた。
そして、ファイブバックによる相手の分厚い守りに対して、トップの田中美南にシャドーの藤野、上野真実を加えてアタッカーの人数を増やすこともできた(これに、両ウィングバックも攻撃に絡み、さらに長谷川や長野も第1戦以上に前線に絡んで攻撃の厚さを増した)。
一方の北朝鮮は、選手の顔ぶれは変更したものの、第1戦と同じファイブバックで戦い、劣勢に陥っても、残り時間が少なくなってもシステムを変えることはなかった。
この対戦では、両者の立場には大きな違いがあった。
女子サッカーでも、今ではヨーロッパやアメリカなど海外のクラブに所属する選手が多くなり、日本代表の約半数が海外組となった。
そのため、男子代表と同じく、全員が集まって準備をする時間がほとんどとれなくなったのだ。
しかも、今回の最終予選では第1戦の開催地を巡ってドタバタ劇が起こり、日本代表が現地(ジッダ)入りしたのは試合の3日前となり、海外組の合流も遅れてしまった。
一方の北朝鮮代表は全員が「国内組」であり、しかも、寒さの厳しい北朝鮮では現在はシーズンオフに当たる。
そこで、北朝鮮代表は気候が温暖な中国の海南島で25日間という長期合宿を行って、日本との戦いに備えたのだ。北朝鮮は日本代表に関する多くの映像や情報を入手することが可能だ。それを使って、合宿期間中には日本チームを分析して対策を徹底してきたはず。
その結論が、ファイブバックと日本のDFとDFの間を正確に狙ったロングボールだったのだろう。第1戦はこの戦術が功を奏して、北朝鮮は優位に立った。第1戦でトップに起用されたキム・キョンヨンは巧みな位置取りでロングボールを引き出した。
だが、日本チームは第2戦ではシステムを変更してきた。そして、北朝鮮はその変更に対応できず、準備してきた「日本対策」が機能しなくなってしまったのだ。
日本代表のこの「変更」について「原点回帰」という表現をしたメディアもある。
昨年の女子ワールドカップでは、日本代表がスリーバックで戦っていたからである。
だが、フォーバックとスリーバックのどちらが「原点」であるとは言えない。
もともと、女子代表は長い間フォーバックで戦っていた。男子に比べると体も小さく、運動量の少ない女子選手ではピッチの幅を3人でカバーすることは難しいとも言われていた。
池田太監督も就任直後は従来のフォーバックで戦っていた。だが、ワールドカップまで1年を切った2022年秋になってスリーバックに切り替え、当初は慣れないシステムに戸惑いがあったものの、ワールドカップまでに間に合わせてグループリーグでスペインを破るなどの大健闘につなげた。
そして、ワールドカップ修了後には熊谷をアンカー・ポジションに上げたフォーバックに挑戦を始めたのだ。南萌華と高橋の両センターバックの成長によって、熊谷をMFに上げることができるようになったのだ(熊谷はヨーロッパのクラブではボランチとしてプレーする方がはるかに多かった)。
一方、かつて池田太氏が監督を務めて「世界一」に輝いた年代別代表ではスリーバックで戦うことも多かったので、若い選手たちにとってはスリーバックの方が「原点」なのかもしれない。
いずれにしても、2試合を異なったシステムで戦い、そのシステム変更が功を奏してオリンピック出場権を獲得した経験は大きい。
男子の日本代表は、森保一監督就任後、何度もスリーバックに挑戦していたが、うまく機能することはなかった。だが、2022年のカタール・ワールドカップを間近に控えた準備試合でスリーバックが機能し、本大会ではハーフタイムでのシステム変更が成功してドイツやスペイン相手に逆転勝ちを収めることができたのだ。
女子代表(なでしこジャパン)も、オリンピックを前に2つのシステムを併用できるようになった。次の機会には、試合の途中でシステムを切り替えることにもトライしてほしい。中2日の厳しい日程で強豪と戦うパリ・オリンピックでは、日本の大きな武器となることだろう。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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