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後半途中から出場して違いを見せつけたリオネル・メッシ
リオネル・メッシを含むインテル・マイアミ(正式名:クルブ・インテルナシオナル)が来日。2月7日に東京・国立競技場でヴェッセル神戸と対戦した。
アメリカのメジャーリーグ・サッカー(MLS)は現在はシーズン・オフ。2月22日に開幕し、インテル・マイアミは、同日、ホームでソルトレークと対戦する予定だ。
つまり、東京での試合は開幕2週間前だったということになる。
一方、Jリーグも2月23日に開幕する。神戸の初戦は24日のジュビロ磐田戦だが、神戸は昨年のJ1チャンピオンとして、1週間前の2月17日にFUJIFILM SUPER CUPで川崎フロンターレと対戦する。
開幕2週間前では、どちらのチームもまだコンディションが良いわけはない。
試合を見ても、それは明らかだった。
しかも、インテル・マイアミは前々日の5日夜に来日したばかり。しかも、サウジアラビアと香港という比較的暖かい地域で試合を行ってからの来日だ。来日したのはちょうど大雪に見舞われた東京だった。
寒さの中での試合はケガにもつながるから、慎重なプレーに終始したのは仕方がなかったのだろう。
そのため、前半のインテル・マイアミはゆったりとしたプレーばかり。まるで1970年代のサッカーを見ているようだった。
そして、ホームの神戸の方が(1週間後に公式戦を控えていることもあって)明らかにコンディションは上回っていた。しかも、昨シーズン、カウンタープレッシングを生かしてリーグ戦のタイトルを獲得したプレースタイルでインテル・マイアミに襲い掛かったから、試合は一方的な神戸ペースとなった。
公式記録では前半のシュート数は神戸のシュート数が6本だったのに対して、インテル・マイアミのシュートは32分ロバート・テイラーが遠目から放った1本のみ。
ワントップのルイス・スアレスの動きは悪くなかったが、なかなかスアレスのところまでボールが回らず、左サイドバックのジョルディ・アルバは佐々木大樹と酒井高徳のサイドで守備に終われる時間が長くなった。さらに、セルヒオ・ブスケツは負傷のため、25分で交代してしまう。
神戸は、15分に昨シーズンのJ1得点王の大迫勇也が立て続けにシュートをゴールポストに当てるビッグチャンスがあった。ただ、こちらもまだ開幕前ということで、クロスの精度が低く、ゴール前での動きにもキレを欠き、スコアレスのままハーフタイムを迎えた。
2万8000を超える観客が入ったスタンドも静かなままだった。時折、歓声が上がるのは、大型映像にベンチに座っているメッシが映った瞬間だけという試合(いや、“試合”とは呼べないような代物)だった。
来日直前の香港での試合ではメッシが出場せず、香港政府も巻き込んで大問題に発展したと伝えられているが、果たして東京でもメッシは出場しないのか……。観客の関心もその一点に集中した。
僕は記者席で観戦させてもらっているからよいのだが、もし入場券を買って観戦していたら、香港の観客ではないが、前半終了の時点で「金、返せ〜っ」と大声で叫んでいたことだろう。
ところが、60分にメッシが出場すると、試合の流れは大きく変わった。
出場が危ぶまれていたのだから、絶好調からはほど遠い状態だったはずだが、それでもあれだけのプレーをしてしまうのだから、これは素直に感心するしかない。
メッシは、トップ下で相手のマークが厳しくない微妙な位置を取り続ける。そして、そこからパスを展開するのだが、一つひとつのパスにメッセージが込められているから、周囲の味方選手ーー先ほどまで、動きが悪かった選手たちーーが一斉に動き出したのだ。
僕は、メッシのプレーはこれまでに何度も見てきた。
最初にメッシを見たのは2005年にオランダで開催されたワールドユース選手権(現、U-20ワールドカップ)の時だった。メッシは大会中に18歳の誕生日を迎えていた。大会では、そのメッシ率いるアルゼンチンが優勝。かねてから「若手有望株」として世界的に注目を集めていたメッシの雄姿を初めて世界に示した大会だった(当時は、現在ほど簡単に動画が見られなかった時代だ)。
その後、僕はワールドカップの度にメッシのプレーを見たし、自国開催だった2011年のコパ・アメリカでもメッシの出場する試合は何度も見た。もちろん、全盛期のバルセロナも見た。そして、最後にメッシを見たのは、2022年のワールドカップでだった。
しかし、こうした試合だとプレースピードも上り、強度も非常に高くなる。そして、勝負がかかった試合でもあり、また、メッシだけでなく周囲の選手のことも見ていなくてはならない。
「メッシを堪能する」というわけには行かないのだ。
だが、神戸との試合のようなエキジビションなら、メッシだけを見ていることができる。
勝敗などどうでもいい試合であるし、プレースピードも遅い。もちろん、対戦相手も接触プレーでメッシをつぶしてしまおうなどという無粋な事もしない。
だから、こんな“試合”だからこそ、メッシだけに注目して観戦するという贅沢ができるのである。
登場したメッシは、早速、スアレスとのワンツーでゴール前に抜け出す動きを披露。コンディション不良の中でも一瞬の速さで相手を置き去りにする。
この日のメッシは、両サイドのアタッカーを使うパスも多用した。
たとえば、左のテイラーは神戸陣のペナルティーエリアの深い位置、いわゆる「ポケット」に進出する動きを狙っていたが、メッシは正確なパスでその動きをうまく生かした。
それも、いきなりテイラーに合わせるのではなく、他の選手と短いパスを交換することによって神戸の選手たちの目をそちらに引き付け、そしてテイラーが深い位置に進出するための時間を作ってから鋭いパスを出すのだ。
あるいは、右サイドでサイドハーフのグレゴレやサイドバックのデアンドレ・イェドリンが突破を図ろうとスピードに乗った瞬間、つまり相手選手や観客の目がそちらに引き付けられた瞬間、左サイドにぽっかりと開いたスペースに優しいパスを出す……。
「ああ、そこを見ていたのか!」
見ている方は、思わず感嘆の声を上げるしかない……。
先ほども書いたように、僕はこれまでメッシの出場した試合は何度も見てきているが、メッシのそういったスペースを見る眼、時間をコントロールするプレーをこれほど堪能したのは初めてだったかもしれない。
こうして、“興行”としか呼べないようなイベントではあったが、メッシは十分に僕を楽しませてくれた。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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